机上の空論にさようなら。
私の先輩に、ふたりの対照的な医師がおります。
一方はデータ重視のインテリメガネ。
他方は経験重視のメガネソルジャーです。
医学領域において、データと経験は共に重要な材料ですが、それぞれの医師によって診療スタイルに差が出てきます。臨床研究をもとに診療の妥当性を高めるEvidence based medicine: EBMの重要性が説かれて久しいものの、Experienceが威力を発揮する場面も多々あるものです。
インテリメガネは生来の優等生で、基礎医学への深い理解と最新の研究を含む豊富な知識があります。難しい症例には、類似した症例の報告がないかと探しては理論を追求して治療に挑みます。
メガネソルジャーは脳筋タイプで、医学知識は並ですが、豊富な経験から診断の見立てに優れ、不測の事態にも柔軟に対応します。
どちらも「過ぎる」ところがあって、ふたりは度々衝突していました。
少し離れたところからみていると、それぞれに上手くいくこと、いかないことがあって一長一短のように感じましたが、どうにも相手の短所を叩き合う関係性で、切磋琢磨といえば聞こえはいいものの、やがてふたりは別々の道を歩むことになりました。
久しぶりにダブルメガネに会う機会があり、トリプルメガネで近況報告を行いました。すると、データ重視だったインテリメガネが「統計的にはそういうことになってるけど、実際に診ていると違う」と言ったり、メガネソルジャーが「俺の経験ではこうなんだけど、文献的には云々だから以下略」と言ったりして、どうにも様子が変わっておりました。
これまさに陽中の陰、陰中の陽の体現であり、弁証法的にはテーゼとアンチテーゼがアウフヘーベンして其々のジンテーゼが生まれたかのようでした。
医学は実学。机上の空論はサヨナラです。
いかに立派な理論が構築されていようとも、効かない治療に意味はありません。ダブルメガネ、いえ私も含めてトリプルメガネは其々の立場から異なるアプローチ方法で、しかしおそらく同じ到達地点を目指して、ただ目の前の患者さんを治したいという医道を歩んでいると感じました。
漢方医学の理論はすべて後付けです。
「こういう人にこういう治療したら良くなった」という膨大な経験の集大成ですから、体系的な理論があったわけじゃあない。ただそれを論理的に説明すべく、気血水や五臓論、陰陽虚実表裏寒熱といった理論が構築されていったのです。歴史を紐解くと、西洋医学の煽りを受けながら、発祥地中国ではそれに対抗すべく理論武装が強くなっていったのに対して、日本では自国での経験を集積していったという差異があります。それが「中医学」と「漢方医学」の重要な分岐点と考えます。特に「腹診」と「六病位の応用」は日本特有にカスタマイズされた実に興味深い領域です。
私の立場は呼吸器内科医かつ漢方医ですから、東も西もどんとこいです。医学の東西にこだわらず、役立つものは全て取り入れます。
治ればよし。
治らなかったらごめんなさい。
ぜんぶ治せるようになることを目指して、私は今日も学びます。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の健康を。
#わたしの習慣 #反対勢力に遭遇したらアンチテーゼだと思ってこれ幸いとアウフヘーベンを狙う
#ジンジンジン #ジンテーゼ
#業界あるある #仲違いする上級医カンファバトル
#今日やったこと #自分に置き鍼20箇所