星空の絵画(かいが)
【作品形式】朗読・1人読み
【男性:女性:不問】0:0:1
【登場人物】
・私(不問)
【文字数】1082字
【目安時間】約5分
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トンネルを抜けた先
とても強い風が吹いていた
その場にいた人が畏怖(いふ)の念を抱いている中
私は星空を見上げて
込み上がる感情を
心から叫んでいた
私が旅先で出会った風景の一つ
『星空の絵画』について話したい
私の父の実家は福井県なのだが
その同郷つながりもあって仲良くなった友人Sがいる
もうかれこれ10年以上も続いている仲で
家族ぐるみの付き合いとなっている
そんなSの父が
「是非今度,雪見酒をしに来てください」
と招待してくれて
北陸の地・福井に私は来ていた
地元民が驚くほどの大雪が降り積もり
白銀に包まれた静寂の世界
夏休みに帰省することは毎年のようにあったが
交通網が麻痺しやすく東京に戻れなくなる可能性もあり
物心ついた時から冬の福井は経験したことがなかったので
期待に胸を膨らませ,まだ見たことがないだろう風景の地に思いを馳せる
Winter Blueが起こるくらい晴れの日が少ない福井県
天気予報でも初日は晴れるものの
曇りか雪が多い天気になるとのこと
ところが……
その予報は気持ちがいいくらいの外れっぷりとなる
太陽光が当たってキラキラと輝く積もった雪
降雪で更に綺麗に美味しくなっていたであろう空気
滞在期間中は毎日……ではないものの
明るい天気の日が割合として多かった
今回,Sはケガをしてしまい
共に行動することが残念ながらほとんどできなかったのだが
代わりにSの兄が観光案内をしてくれた
アウトドア派のお兄さん
普段から様々なところに車でよく行くらしい
昔ながらの日本家屋の雰囲気を感じられるお店で食す蕎麦
人生で初めて見るダムとダムカード
道の駅の温泉
そして
『こんなラーメンを食べたことがない』
『ラーメンじゃない気がするくらい,体に良い味・優しい味がする』
そんな無化調ラーメンにも連れていってくれた
食事を終えて帰路につく中
天気予報等の情報からも,星空は見えないだろうとお兄さんは思い
私も期待せずにいた
『今回は星空は見えないんだろうな……』
山を貫くトンネルを越えた時
「星が出てる!!」
と,アウトドア・マスターのお兄さんもびっくりのシチュエーション
畏怖の念を抱いたとのこと……
車をとめて外に出ると
巨漢のお兄さんがぐらつくほどの強烈な風
そして夜空を見上げると
強風で四方に広がった雲の額縁ができ
その内側から美しい星たちがこちらに姿を現していた
「ありがとーーーっ!」
今思い出しても目頭が,心が熱くなる……
こんなにも広大な夜空のキャンバスに
絶景を描いて私に見せてくれたことを
声を大にして感謝せずには
叫ばずにはいられなかった
自分が存在することを許されている
自分という存在を愛してくれている
『生きていて良かったな……』と,しみじみと感じる
とても嬉しく,幸福感に満たされたひと時
またあなたの愛を感じることが許されるのなら
再び出会うことを楽しみにして
私が歩みをとめて眠りにつくその日まで
生きていく喜びを抱き
生き抜く覚悟を貫き
生き抜いた証を望み
生きていきたい
生きていきます
生きさせていただきます
私にとって特別な想い出のお話