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『夏の宵』(暗)

【作品形式】朗読・1人読み・2人読み
【男性:女性:不問】1:1:0
【登場人物】男性(左寄せ普通字)・女性(右寄せ太字)
【文字数】911字
【目安時間】約5分


日中の暑さが和らいだ河原で
二人並んで座り
川の方をぼんやりと見ていた

草の香りの強さから
日中の気温が高かったことを感じつつ
あなたと過ごす心地よいひと時を楽しめることが嬉しい

川の水面(みなも)が月の光できらめき
君との時間・空間に
華を添えてくれている

何か話すわけでもなく
かといって居心地が悪いわけでもない
あなたの隣にいることが,自然なことになっていた

君と過ごしたひと夏の想い出が
色褪せることなく君の中で残り続ける
ただそれだけで良いのかもしれない

今年の夏は特によく一緒にいたけど
何故なんだろう……
どうしてあなたのそばにいるのが
こんなにも心地よいのだろうか

何げないながら
君と過ごす心地よいこの時間が
代えがたいものになっていた

……気付いてしまった
自分があなたのことを
どう思っているのか

だけど……
君に伝えたいことがあった
伝えなければいけないことがあったんだ

あなたのそばにいる人が
あなたの隣にいる人が
私じゃないなんて考えたら……

あなたのそばにいたいこと
あなたのそばにいられないこと
あなたのそばからいなくなること

あなたの声・体が震えていた
目の端(はし)に涙をためて
流れる前に指で拭って
私に涙を見せないように泣いていた

気付くのが遅かったんだ……

ゆっくりと
丁寧に伝えてくれた

君に知らせない方が良いだろうか
君は耐えられるだろうか
伝えるかどうか……深く悩んだ

言葉にならなかった
言葉にできなかった
言葉にしてはいけない気がした
感覚を麻痺させて
自分の心を守っていたんだと思う

残酷
ただただ
残酷だった

私とあなたは
このままではいられない
……いたくない

君と過ごす時間が
私にとって喜ばしい時間でも
君を将来苦しめるものとなってしまうのではないか

あなたに伝えたいことがある
少しでも長く隣にいてほしい
あなたのそばにいさせてほしい

本当に……
本当に一緒にいて良いのだろうか
きっと答えが出るのは……

あなたの隣で
あなたのそばで
共に時間・想い出を少しでも多く刻んでいきたい
なぜなら……

君が今だけでなく
将来も強くあれるように
今はそのために
君がそれを願うなら
願ってくれるなら
君と共に生きていきたい

あなたがいなくなって
たとえ一人になっても
あなたと過ごしたかけがえのない
この瞬間や記憶を
心に抱いて生きていくから

月影下(げつえいか)
静かに結ぶ
かたい意志

二人の涙
かためた決意

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