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舞い降りてきた女 袖山誠一

髪の長い女 腰まで届く髪が 
小さなボクの手に触れる
風に揺れてくすぐったい
二人は歩いてる 夕日の中
日が翳げりかけようとする まどろみの時
夕日に背を向けての帰り道
細長い畑のあぜみちが うねうねと曲がる

二人の影が 道路に 映り 面白い
思いっきり飛び跳ねる ボクの小さな影
女の影が風に吹かれてる スカートのかたちが
ふわふわと浮いて軽い 飛んでいきそう
二つの影が絡み合あって 心がウキウキする
影を見て ボクはさらに思いっきり飛び跳ねた
でもその長い髪 切ってしまうの? 
そう言ってたの 気になる どうして なぜなの

ボクはちっちゃな手で 髪を強く握りしめた
ゴワゴワした手の中で掴みきれないほどなのに
女の左手には鳥籠がぶら下がっている
中にはアンゴラウサギがヨタヨタしてる 
ふさふさした毛を一年半ぶりに切ってきた帰りなのだ 
痩せてしまったウサギ 寂しそうな目 かわいそう
 
でも どうしても信じられないことがあるのだ ボクは
本当にこの女から産まれたのだろうか
だって 飛んだり跳ねたり鼻歌は歌うし 
まるでまだ子供のようだ 
一人で勝手に楽しんでるし 
何か妖精のようにさえ感じちゃう

だからボクは この女にまとわりついて 飛びまわる
エンジェルになることに決めた 離れたくない 

だって夕べ話してくれた妖精物語 楽しい話だった 
すっかり二人はそれに夢中 
なり切ってその世界にハマってる 
絶対ボク この女に負けないくらい楽しいんだ
 
女の父も母も教師だった 
愛されて夢見るように育てられたのか 
そしていつの間にか 
美しい妖精の大人になってしまったのだろうな

やっぱり女は教師になった 
小学校で子供達と一緒に夢や幸せを真剣に探してる 
それだけじゃない 本当に
人に幸せになってほしいと願って 祈るのだ

でも教師をやめてしまい 女は男に嫁いで来た 
が少女の心のまま 妖精のまま 今日まで変わらない

だから掃除や洗濯はまるでだめ 全くできないのだ 
夫の期待に答えられない女 それで苦悩の日々なのだ
 
しかし この女器用には賢く生きられず 
この生き方を神からもらい あとの全ては神が奪った 
器用に賢くは生きられない 
しかし誰からも 理解されず
不可思議な姿を 晒している

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