相手の行動を変える魔法の立ち位置
せいいちは、机に広げたノートをぼんやりと眺めていた。クライアントの香月とのセッションはそれなりに順調だったが、彼女が本当に望む行動の変化が見られず、胸の内にもどかしさが募っていた。
香月とのセッションは穏やかな対話の中で、お互いに信頼を築き上げてきた。しかし彼女が抱える不安を聞き出し、頷き、励ましをかけたとしても、目に見えた変化がなかなか見えてこないのだ。
ある日のセッション
香月：「実は、起業を考えているんです。でも、怖くて一歩が踏み出せなくて…」
せいいち：「なるほど、起業への不安があるんですね。具体的にはどんな不安がありますか？」
香月：「失敗したらどうしよう、家族を養えなくなったらどうしよう...。たくさんあります」
せいいち：「その不安、よくわかります。では、どうすれば一歩踏み出せると思いますか？」
香月：「うーん……そこがわからないから、せいいちさんに相談してるんです」
この会話を思い返すと、胸がしんと冷たくなった。香月のために何かしてあげたい、でもどこかで限界を感じている自分がいる。せいいちはため息をつき、いつも相談に乗ってくれる師匠、長谷川に電話をかけることにした。
心を動かす！本当の「信頼」を築くための第一歩
「もしもし、せいいちか。久しぶりだな」
電話口から聞こえてきた長谷川の声は、いつもと変わらず穏やかで、芯の強さが感じられる。
「長谷川さん、最近ずっと悩んでいて……。クライアントの香月さんが、思うように行動してくれないんです。彼女が本当に必要としているのは分かっているんですが、どうしても行動につながらなくて」
しばらくの沈黙があった後、長谷川が静かに答えた。
「せいいち、人を動かすにはただの言葉だけじゃ足りない。君は彼女の価値観に寄り添い、彼女が描く未来を共に見ているか？」
長谷川の問いに、せいいちは言葉を失った。彼女が抱える不安を理解したつもりでいたが、彼女が本当に心から望んでいる未来を、一緒に感じ取っていたのだろうか。
「香月さんが本当に大切にしているもの、それは彼女自身の言葉で語りかけないと見えてこない。価値観に触れ、その言葉で語り、具体的な未来を一緒に描くんだ。そしたら、小さな成功体験が次の一歩へと繋がっていく。そうして彼女の心を動かすんだよ」
「なるほど……」
せいいちは深く頷いた。心の中に、ようやく見えたものがあった。
行動を引き出す秘密の会話メソッドとは？
その後、せいいちは頭の中で自分の方法を再構築してみた。行動変容のプロセスは、ただ相手の話を聞いてアドバイスをするだけでなく、相手が本当に大切にしている価値観を理解し、相手の言葉で寄り添うことが基本だ。そして、相手にとって実現可能なビジョンを一緒に描きながら、ほんの小さな達成感を積み上げていくこと。
それはせいいちにとっても新しい考えだった。
「よし、次のセッションでは、香月さんと彼女自身の未来を見つけにいこう」
相手の「一歩」を自然に引き出す魔法の問いかけ
次のセッションの日、せいいちは香月に静かに問いかけた。
「香月さん、あなたの中にある起業への夢について、少し話してみませんか？どんな未来を描いているか聞かせてほしいんです」
香月は少し驚いた表情を見せたが、ふっと肩の力を抜いたように語り始めた。
「自分の力で、誰かの生活をより良いものにしたいんです。例えば、今はまだ具体的に言葉にはできないけど、誰かに喜んでもらいたくて…」
せいいちはそっと微笑み、彼女にそっと手を添えるように問いかけた。
「あなたのその夢が実現したとき、香月さんはどんな気持ちになっていると思いますか？」
少し考え込んだ香月は、ふっと小さく笑みを浮かべ、「きっと達成感があるでしょうね」と静かに答えた。しかしその後、少し眉をひそめた。
「でも、本当にできるのかな…」
せいいちは彼女の言葉に頷きながら続けた。
「それなら、具体的にイメージしてみましょうか？例えば1年後、あなたの会社が軌道に乗り始めたとしたら、どんな1日を過ごしていると思います？」
香月の目が光り出し、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと語り始めた。
「朝は社員のみんなと予定を確認して、それからお客様のところに行って…。そんな日々を過ごしていたいです」
せいいちはその言葉を受け止め、そっと語りかけた。
「素晴らしいビジョンですね。それでは、そのビジョンに向けて、明日からできる小さな一歩は何か、考えてみましょうか？」
「……ビジネスプランを書いてみるかもしれません」
香月の声には力がこもっており、その瞬間、せいいちは確信した。彼女が一歩を踏み出すための、最初の扉が開かれたのだ。
あなたの一言で人が変わる！行動を後押しする技術
こうして香月に見えた変化は、せいいちにとっても大きな収穫だった。これからのクライアントとの関わり方も、ビジネスの場面での活用も、彼の視点は一層広がった。
例えば、ビジネスでの応用：
部下の指導：ただ「もっと頑張れ」と言うのではなく、「あなたが目指す理想のリーダー像ってどんなものですか？」と問いかけ、具体的なビジョンを描かせる。
営業の場面：「この商品はいかがですか？」ではなく、「この商品があなたの生活にどんな変化をもたらすと思いますか？」と問いかけ、価値を自分で見つけさせる。
変化の連鎖を生む「信頼」と「理解」の合わせ技
もちろん、この技術を身につけるにはいくつかの難しさがある。しかし、せいいちは実践を続ける中で確信を得ていった。
相手の価値観を理解すること：表面的な言葉だけでなく、心の奥にある価値観を理解する。
自分の価値観を押し付けないこと：自分の考えを押し付けず、相手の自発性を尊重する。
具体的なビジョンを描くこと：明確で現実的なビジョンを一緒に描く。
この考え方を学んでから、せいいちのコーチングは変わった。彼はクライアントの行動変容を促し、彼らが自らの力で一歩を踏み出す姿を見届けられるようになったのだ。
一歩先の支援術！思わず動きたくなるサポート法
この技術を自分の中で定着させるために、せいいちは日々のセッションで以下のような「実践チェックリスト」を意識している。
クライアントの価値観に心を寄せられたか？
クライアント自身の言葉で語りかけられたか？
具体的な未来像を一緒に描けたか？
行動のきっかけとなる小さな目標を提示したか？
まとめ
「相手の可能性を引き出す立ち位置」というのは、単なるコーチングのテクニックではなく、相手の成長を支えるための姿勢そのものだ。この立ち位置を意識することで、相手が心から行動を変える力が育まれる。
「やってみよう」という一言が自然と出てくるような、そんな信頼関係を築くことで、せいいち自身も大きく変わった。ぜひあなたも、相手の行動を後押しする魔法の一歩を試してみてほしい。
そして次回は「会話を膨らませるテクニック：アンサー、アッド、アスク（AAA）」についてお話ししようと思う。また新しい発見があるはずだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？