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陰の青春3

眠れない。あれから、買ってきた三冊の内、漱石の人生と作品について書いた本を読んでいたのだが、そろそろ寝るかと思って、本を閉じて、布団に入ったはいいけど、いつもと同じ時間になっても全然眠れない。仕方ない、一端起きるか。スマホを見ると、午前一時近い。やることがないな。こんな時間に外にも出たくないし、何となく凛花にメールを送ってみた。
「まだ起きているか?」と。
スマホを側に置きつつ、寝っ転がって目を閉じていた。たまにこういう日はある。一度精神科とか行った方がいいかもな。不眠の治療くらいは出来るかもしれない。人間が苦手なのは治しようがないにしても。
「起きてるよ、どうしたの?」
まだ起きてるいたようだ。僕と違って、授業を受けるのだし、さっさと寝た方が良いと思うが、まあ、僕がとやかく言うことではないな。
「眠れないからさ、さっきどこか店に行こうって話してたろ?どこか良い店があったら、行かないか」
「そうね、駅の近くに有名なパスタのお店があるから、そこに行ってみない?」
「分かった。いいよ」
「ところでさ、陽は卒業したら大学に行くつもりなの?」
「まあ、卒業できるか分からないけど、その可能性はあるかな」
「そっか。同じ大学に行けるといいね」
「・・・そうだな」
保健室登校を繰り返している僕が大学に進学できるかどうかは分からないけど、ウチの高校は皆大体似たような大学に行くから、可能性としてはあるだろう。やっぱり凛花が僕に優しすぎる気はするが。
「じゃあ、私、そろそろ寝るね。明日も学校だし」
「分かった。おやすみ」
通話を切って、僕も寝ようと思った。将来か。未来の僕は何をやってるんだろうな。
 
今日は保健室でゴロゴロする気分じゃなかったので、図書室に来ていた。授業中だから当然誰もいなかったけど。僕は持参した漢検の本を開いて、漢字の書き取りを始めた。漢字や国語は好きなので、こうして、資格なんて全然取る気もないのに、時々一人で勉強していた。昨日凛花と話したから、先の事について少々考えながら。暇さえあれば小説を読んでいるくらいだから、文学の研究者とかになってみてもいいかもしれないなと思っていた。大学の国文科とかに行って、賢治や太宰について研究する。そういうのも悪くないかもしれないと思った。
静かだった。鍵を借りるのもフリーパスな僕と違って、他の生徒達が利用するのは主に昼休みとか放課後とかだ。だから、その前には去らないとなと考えながら勉強を続けた。書き取りは順調に進んだ。漢検一級の漢字を5ページ分は書き取れただろうか、若干疲れてきた。このくらいにして、何か本でも読むか。洋書コーナーに村上春樹やら銀河鉄道の夜の英語版があったので、取りあえずそれを読むことにした。英語は国語に比べたらちょっと苦手だ。分からない単語があったら、スマホで調べながら、一行ずつ読んでゆく。古文とか漢文の方が得意なのだが、英語も読めるようになってくると、結構楽しい。コチコチと時計の針の刻む音だけが聞こえる。そのまま、順調に最後まで読み終えて、時計を見ると、そろそろ昼だった。誰かがやってくる前に去ろうと、僕は図書室の鍵を閉めて後にした。
 
ごろりと保健室のベッドで天井をただ眺めていた。退屈だった。いっそのこと学校を辞めようかなと思わないでもない。毎日のこの単調さに辟易としていた。友達もいないしな、とぼんやり考えながら、僕ってなんのために存在しているんだろうとふと思った。生きている意味さえ分からない。毎日が苦痛かというとそこまでではないのだけれど、もっと他に楽しい生き方があるような気がした。
「こんにちわー、ってあれ、陽だけか」
僕の内心の懊悩など微塵も察しず、凛花がやってきた。
「先生なら、まだ職員室じゃないかな。なんの用?」
「疲れたから、甘い物でもご馳走になろうかと思ってさ」
「ああ、そう」
僕は呆れてそう言った。凛花が去った後、僕も早々と帰って、横になろうと思った。帰り道でもずっと生きている意味について考えていた。そして、考えれば考える程、生きていても仕方ないんじゃないかと思えてくるのだった。

家に帰ってきても、着替える気力さえ湧かなかった。一旦死に囚われてしまうと、何をする気にもなれなかった。こうやって悩んでいるのも苦痛だ。こういう時は散歩でもして無心になろう。家の周囲には植物を植えている家も結構あって、のどかな感じだ。割と大きな公園もあって、散歩していて悪くない所だった。僕は20分ほど歩いて、公園のベンチでしばし休憩していた。詰まらないな。歩いて体を動かしてそれなりの爽快感が訪れたものの、どうしようもない程、色んなものが退屈に思えた。

 自販機で買った水を飲んでいると、子供達がやってきてドッジボールをやり始めた。それをぼんやりと眺める。僕にもあんな風に無邪気に遊んでた時期があったんだよなと振り返った。子供の頃は友達も何人かいて、放課後はよくキャッチボールとかして遊んだものだった。あの頃の友達は今なにをやってるんだろうな。全然連絡も取っていない。例えば、僕が死んだりしたら、彼らは悲しんでくれるのだろうか。

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