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製造業はツライよ「製造業は事業の総合格闘技」と言われる理由を解説

先日Xでこんな投稿をした。

製造業は「事業の総合格闘技」ということを端的に発言したわけだが、需要もありそうだったので、このように考えた意図についてこのnoteで解説する。

事業運営するうえでコントロールが必要な知識要素

どのような事業を営むにしても、必要な知識要素がある。
その中でも製造業に必要な知識要素は以下と考えている。
-1、マーケティング
-2、テクノロジー(商品、ハードウェアの加工技術)
-3、不動産知識
-4、プロパティマネジメント(固定資産の維持)
-5、物流
-6、ソフトウェア
-7、法律
-8、ファイナンス
一つづつ解説する。

-1、マーケティング

マーケテイングが大事と言われ始めて久しいが、製造業こそマーケティングは大事である。
なぜ製造業に大事かと言うと、
・需要の変動が大きい
・研究開発にお金がかかる
・作るためのお金がかかる
・注文を受けてから届けるまでのリードタイムが長い
に陥りやすい業種であるからだ。

インフラであれば需要はある程度読みやすく安定しているが、製造業は何が売れるかわからないところがあるし、それが安定して売れるかは不明確なことが多い。
(ただし食品やシャンプーなどのリピート性の高い消費財は一度売れると需要は安定し、計算しやすくはなる)

家電メーカーがテレビの需要を過大に見過ぎて工場稼働率が上がらずに業績が悪化したように、マーケティングが弱いと会社の根幹を揺るがしかねない。
もちろん製造業以外でもマーケティングは大事ではある。
しかし、製造業は固定資産が必要な業種であり、固定資産は一度持つとなかなか後戻りができない。
そのため製造業にとってマーケティングは非常に大事である。

なお、上で書いたのは自社で商品企画を行うメーカーを想定して書いている。
(自社で企画を行わないタイプの)自動車部品メーカーやEMSのような業種であれば相対的にマーケティングに関する知識は必要なくなる。
自社で企画してマーケティングコストを負担するのか、マーケティングコストは払わずに仕事を受託して作ることに専念するのか、どちらが正しいとかは無く、経営戦略次第である。

-2、テクノロジー(商品、ハードウェアの加工技術)

製造業やIT業はテクノロジーが恒常的に必要な業種である。
製造業では商品開発のための研究だけでなく、加工技術についても日々研究開発が行われテクノロジーは日々進化している。
そして研究開発は企業によっては年間兆単位のお金を使う。
(トヨタ自動車は年間1.2兆円ものお金を研究開発費にあてている)

「技術力があれば儲かる」という思想は危険ではあるが、技術力は無いよりはあった方が良いのは間違いない。
製造業は研究開発によって絶えず新しい商品を送り出したり、新しい加工技術の開発によって安く商品を提供したりして、社会を豊かにしていると言える。

-3、不動産知識

製造業は自社で工場を持つケースが多い。
そのため工場用地の選定や、工場を建てる際の建築知識が必要になる。
大きな固定資産が動くことになるため、失敗して後戻りとなると会社に与える影響も大きい。
ただし、ファブレスであれば工場を持たずに済むため、この知識は相対的に必要ではなくなる。
(ただしファブレスにすることで原価が上がったり、安定的な調達が難しくなる等のデメリットは当然発生する)

-4、プロパティマネジメント(固定資産の維持)

固定資産(工場や生産設備)は一度買ったら終わり、というわけにはいかない。
建物は傷んでいくし、生産設備は壊れることもある。
そのため適宜メンテナンスや修繕が必要であり、そのための技術や知識が必要になる。
(製造業であれば保全、整備、工機、設備といった部署が存在し、そこが対応することが多い)
これも上で書いたことと同じで、ファブレス企業であればこの知識は相対的に必要なくなる。

-5、物流

モノを作る前、作っている途中、作った後には必ず物流が必要になる。
大体は生産管理や物流、SCMといった部署が対応することが多い。
(生産工程内(工程内)であれば生産技術が担当となることが多い)
要件だけ投げて物流会社に丸投げでも良いのかもしれないが、当然知識もないまま仕事を任せていたら物流会社にとっては良い鴨である。
どのような物流網を作り、どのようにコントロールするのか知識が必要になってくる。

-6、ソフトウェア

製造業でもソフトウェアに関した知識は必要となる。
代表的なものがCADだったり、生産計画を管理したり、購買を管理するシステムなどだ。
CADはパッケージソフトで買うことが多いと思うが、生産計画や購買システムはオーダーメイドで作ることが多いと思う。
そうなると要件定義から始めることになり、導入プロジェクトとして話が一気に難しくなる。
これもITベンダーに丸投げしておけば良いと思う人も一定数いそうだが、ソフトウェアでどのようなことができるのか、どうやったら安価化できるかをある程度分かっていた方が話はスムーズだし、不必要な高機能化を避けることでソフトウェア導入費用の安価化につながる。

-7、法律

モノを作るうえでは様々な法律がからむ。
上で書いた不動産に関わることだけでなく、騒音や環境に加え、働く人たちが快適に働くための環境構築、さらには危険物や劇物など考えるべき項目がいくつもある。
さらにはテクノロジーが関わる業種であるため知財に関した法律知識も必要である。
法律は一つのミスが企業存続の命取りにもなりかねないため、慎重な判断が求められる。
以上から法律の知識も必要である。

-8、ファイナンス

製造業は以下2点の会計面の弱点を抱えている。
(1)固定資産が大きい
(2)CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)がプラスになりやすい
一つづつ解説する。

(1)固定資産が大きい
製造業は装置産業でもあり、労働集約的な産業でもある。
ちなみにプラント系は装置産業寄りで、非量産系となると労働集約寄り、量産系はプラント系と非量産系の中間でやや装置産業寄りとなる傾向だ。
いずれにしても工場や機械装置が必要な産業であり、会社にあった工場や機械装置というのは一品物になりやすく、莫大な固定資産が必要になる。
(さらに固定資産には固定資産税というランニングコストもかかる)

莫大な固定資産を買うためには資金調達が必要であることから「どのように資金調達するか?」の知識が必要となる。

さらに言うと、製造業は莫大な固定資産を持つと書いたが、その固定資産の質的な問題から大きな弱点を抱えている。
この記事では書かないが、生産技術虎の巻で詳しく書こうと思う。(2024年中には書く予定)

(2)CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)がプラスになりやすい

CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)とは「構造的に現金がどれだけ手元に残っているか」を表す指標である。
具体的な計算式としては棚卸資産回転日数-売上債券回転期間-仕入債務回転期間である。

棚卸資産資産回転日数:在庫は何日くらい自社内で寝ているのか?
売上債券回転期間:売上は引き渡してから何日で現金が入るのか?
仕入債務回転期間:仕入れ代金は引き渡しされてから何日で現金が出ていく(支払う)のか?

これがマイナスであれば恒常的に現金が手元にあり(良い状態)、プラスであれば恒常的に現金が手元に無いことが多い(悪い状態)である。
よく黒字倒産と言われるが、帳簿上(PL)は儲かっているが、手元の現金が枯渇して起こる事象である。
そのため常に手元の現金が豊富にあることが重要である。
(極端な話、現金が枯渇しなければどれだけ赤字でも倒産することはない。なので理論上は出ていく現金以上に資金調達し続ければ倒産はしない。)

製造業は棚卸資産を常に持っているし(プラス)、モノを売って数十日後(下手すると百日以上かかる)に現金が入ってくる(プラス)傾向である。
(仕入債務回転期間はその会社の契約次第)
これが小売であれば買い物と同時に現金を受け取れるのに対し(決済方法がクレジットカードであれば1か月ほど入金が遅れるが)、モノを受け取ってから何十日か後に現金が出ていくので、売上債券回転期間はマイナスになりやすい。

以上のように製造業は手元に現金が無い状態が恒常化しやすいため、その分の資金調達が必要となる。
(だいたいは金融機関から運転資金として借りることが多いと思う)

以上のように製造業は様々な知識が必要であり、そのための専門家も必要となる「事業の総合格闘技」と言える。
本当は様々な業種に必要な知識要素を表で一覧化しようとしたが、妙に製造業の肩を持った表になってしまい各方面からの異論で面倒になりそうなので表を載せるはやめた。
製造業は専門家を多岐に渡って抱えるだけでなく、固定資産を多く持つことによる資金調達コストの負担やCCCマイナスをカバーするために運転資金を借りればその利息負担もある。
構造的に儲かりにくい業種ではあるが、日本においては外貨を稼ぐ貴重な業種である。
製造業の方々はこれからも腕を振るっていただきたいと思う。

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