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生産技術は社会を豊かにしたのか?

先日こんなツイートをした。

研究開発や設計などメーカーの花形の陰に隠れていて、メーカー以外の業種には(なんならメーカーの中でも)知名度の低い生産技術職
そんな日の目が当たりにくい職種ながら、突発トラブルによる長時間残業や休日出勤、海外僻地工場への片道切符など、ハードな仕事を求められる不遇な職種でもある、The・生産技術職。(2回目)
しかし、そんな全く良いことのない生産技術職も、実は社会が豊かになったのは生産技術力の向上によってもたらしたものと言える。
そこで今回の記事は車作りを例にして、その理由を解説する。

1、取り扱う工程について(5種)

車作りで説明すると書いたが、車を作ると一言で言っても工程は複数ある。
鋳造、鍛造、熱処理、機械加工、プレス(板金)、樹脂成型、めっき、塗装、溶接、組立、艤装など。
全部を説明するのは大変なので、今回は絞って以下5つの工程に絞って解説させていただく。
・プレス→ボディ
・溶接→ボディ
・塗装→ボディ
・鋳造→エンジン
・機械加工→エンジン

2、生産技術の概念がある世界

まずは今回解説する5つの工程がどのような加工であるかを理解していただかないといけない。
自分で何かイメージ図を作ろうとしたが面倒なので
ちょうどトヨタとホンダのホームページで各工程のわかりやすい動画があった。
こちらの動画を事前に視聴していただくと、各工程がどのような工程かを理解していただけると思う。
トヨタバーチャル工場見学 | 企業情報 | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト (global.toyota)
クルマができるまで|工場見学|Honda公式サイト

2-1、プレス工程(ボディ)

車のボディは鉄板を切り出した後、プレス機という設備によって鉄板を塑性変形させて作っている。
※塑性変形とは材料に大きな力を加えることで形状を元の形状から別の形状にかたちを変えること。
プレス機に鉄板をセットしてスイッチオンすればものの数秒でお望み通りの形状の鉄板となる。(ただしプレス一発では作れないので、何回かのプレスを経て作っていく)

2-2、溶接工程(ボディ)

車の形状は複雑なため、鉄板をプレスしたら車の形が完成というわけにはいかない。小分けにされたボディを溶接して「車の箱」の形にする必要がある。
そのため、ボディの一部分を複数作り、ボディ同士を結合させないといけない。そして結合するための手段として溶接が使われるというわけだ。
仮組しておいたボディにロボットが近づき、各ポイントを溶接していく。
使うロボットは動きの自由度が非常に高い、垂直多関節ロボットだ。ロボット複数台で溶接箇所を同時に溶接することで、溶接工程に時間をかけないような工夫もしている。

2-3、塗装工程(ボディ)

ボディの溶接が終わったら塗装を行う。
塗装にも様々な塗装方法があるが、今回は「スプレーガンによる塗装」に絞る。
ここでも出てくるのは垂直多関節ロボットだ。こちらもロボットを複数台同時に動かすことで塗装工程にかける時間を短縮している。

2-4、鋳造(エンジン)

続いてエンジン作り。
一言にエンジンと言っても様々な部品で構成されている。今回はシリンダーブロックで解説する。
シリンダーブロックは最近はアルミ製が多いのだが、最初に鋳造という工程で大まかな形状を作っている。
作りたい形状の型を用意し、そこに溶かしたアルミを流し込んで大まかな形状を作っている。(ダイキャスト鋳造であれば流し込むというよりも金型に高圧で押し込むという表現の方が正しいかもしれないが)
これも鋳造機と金型を用意しておけば数分程度でシリンダーブロックの大体の形ができあがる。

2-5、機械加工(エンジン)

鋳造である程度の形はできても、そのままではエンジンとして使えない。鋳造したままでは形状が荒かったり、バリがあったり、必要な精度が出ていないからだ。
そのため、ここからは機械加工を行う。
機械加工では刃物を使って外形を整えたり、穴を明けたりする。
機械加工する機械にシリンダーブロックをセットしてスイッチオンしたらこれも数分程度でできあがる。

ここまでは簡単に書いているが、実際には全ての工程で様々なノウハウがある。
プレスをするときにはプレス機に必要な能力(t数)はどの程度か、どのような金型であれば不良品を減らせるか、プレス機を押し込むスピードはどうするか、作った品をどのような動線で流せば物流の無駄が無いか、保守のしやすい金型にするためにどうしたらいいか等
これらは企業が積み上げたノウハウ、つまりは生産技術力によって支えられている。

3、生産技術という概念がない世界

では生産技術という概念が無かったら?

プレス→人がハンマーでガンガンと鉄板を叩いて作る
溶接→人が溶接するポイントを一個づつ溶接する
塗装→人がスプレーガンを振りながら塗装する
鋳造→人が柄杓で溶かしたアルミを型に流し込む
機械加工→人が彫刻刀でガリガリとものを削って作る

こんなことをやっていてはとてつもなく時間がかかる。そうなると人の手がかかる分、どうしたってコストはかかる。
作るための正味のコストだけではない。大量に人を雇わないといけないからそのための広い工場やロッカー、駐車場代もかかってこれもコストアップだ。

リードタイムにも影響が出る。今までは短い工程なら数秒でできあがっていたものが数時間もかかる。最近は半導体不足が原因で納車待ちの期間が長くなっているが、それどころじゃない納車待ち期間が必要になる。そうなったら自動車を買う人はガンと減ってしまうだろう。

さらには品質面も悪化する。ベテランの作業員と新人作業員ではどうしたって、もののできあがりには差が出る。
品質が安定しない製品を買うユーザー側からしたら買うたびにガチャを引いているようなもので、購買意欲は低下する。

「世界に一台のオーダーメイドの工芸品」と言うならこれでもいいかもしれない。
しかし車と言うのは月産数万台と作るのだ。切った貼ったの作り方では成立しない。
生産技術力が月産数万台というものづくりを可能にし、安く・早く・品質の良いものを社会に提供していると言えるのだ。

4、最後に

ここまでは車を例にして解説をしたが、これは車作りに限らない。
世の中には「なんでこんな値段で売って儲けが出るの?」という製品がある(20円のもやしや100均の商品など)のだが、これらは優れた生産技術力によって大量に作ることで大幅なコストダウンを実現している。
買い物の際には「どうやってこの安さを実現しているんだろう?」と考えると楽しいかもしれない。

製品自身の技術力向上(燃費向上や自動運転など)には目を向けられることが多いが、生産技術力の向上はユーザー側からしたら見えないので目立ちにくい。
しかし、実は一言に技術力と言っても製品自身の魅力である技術力だけではなく、「製品を作るプロセス」にも技術力が必要であるということがわかって頂けたと思う。


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