【インタビュー】超多忙な人たちのじぶん時間の作り方#03 専修大学准教授 宮地忠彦さん
こんにちは。青月社編集部です。
編集部の前田がさまざまな職種の方にお話を伺い、忙しい日々のなかでご自分やご家族のための時間をいかに作っているか、その時間は人生にどんな彩りを与えているかなどを調査する『超多忙なひとたちのじぶん時間の作り方』。第3回をお送りします。
今回は、専修大学法学部准教授の宮地忠彦さんにお話を伺いました。宮地さんのご専門は政治学で、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件と警察の関係など、警察の治安維持政策をテーマに研究をされています。
知っているようで知らない大学教員の方のお仕事と日常。どんなお話が伺えるのでしょうか?
Q.お仕事について
前田:それではよろしくお願いいたします。
ではまず、お仕事の内容と、スケジュールについてお聞かせいただけますでしょうか。
宮地:はい、大学で政治学の教員をやっております。
仕事は大きく3つに分けられて、一つ目は大学の授業の仕事、二つ目は授業以外の大学の様々な仕事、そして、本当は一番にこなくちゃいけないんですけど(笑)、自身の研究の仕事があります。
まず大学の授業について。例年は大学1年生から4年生までの授業を週5つ担当しているのですが、今年は大学院生向けの授業もひとつ持っていて、週6つ授業があります。
月・水・金曜日と週3日大学に来て1日2つずつ授業を行い、その合間の火曜・木曜・日曜日に家で授業の準備をしています。
次に、大学の授業の仕事とは別に、大学の授業全体に関わる仕事や、学生の大学生活をサポートするような仕事があります。
例えばこの秋の時期には、来年度の4月からの時間割を決める準備作業として、どの先生が何曜日に何の授業を開講するかの調整を、私が所属する政治学科の教員間で行います。大体は来年度も今年度と同じ時間割になるのですが、時間割を変えたい同僚の先生の希望や、大学で非常勤講師として働いている先生のご都合などを調整する必要があります。
他には学生やその保護者との面談などもあります。その仕事ひとつひとつにかかる時間は必ずしも多くないですが、全ての仕事を合わせると、ある程度の時間が必要です。授業やその準備だけじゃない大学の仕事を、実は教員も結構しているんです。
そして専門分野の研究は、授業がある日の帰宅前などに、大学の図書館や近くの国立国会図書館で行っています。もちろん、大学に来ない日も家で研究テーマに関する本を読んだりします。
論文の締め切りが迫っているような場合は学期中でも時間を作って執筆に取り組むこともあります。こうした研究や授業そして授業以外の大学の仕事をしているうちに1週間が過ぎていきます。
前田:教員さんにもそのような調整の仕事があるとは知りませんでした。
また、膨大な量の学生さんのレポートや課題をチェックするのはとても大変だと思いますが、どれくらい時間がかかるのでしょうか?
宮地:私の場合、期末試験の答案が100枚以上になることはありますが、大量のレポートに目を通すようなことはないです。
20人ほどの少人数のクラスで一学期に2回ほどレポート提出を課しているので、それを先ほどお話しした授業準備の日に2〜3週間かけてちょっとずつ添削し、返却しています。担当する少人数クラスが一つではないので、一学期に二、三クラス分、添削する年度もあります。これに加えて、新型コロナウィルスの感染が広がった2020年は課題のやり取りをすべてオンラインでする必要がありました。履修学生が多い授業だと課題を見るだけでも相当大変なので、体調を崩された先生もいたようです。また私も同僚の先生も、この時期にオンライン授業の準備でPC画面ばかりに見ていたので、視力がいっきに落ちました(笑)。
前田:では、日常生活も含めて1日はどのようなスケジュールで過ごされているのでしょうか?
宮地:授業がある日は6時半ごろに起きて、9時くらいに家を出ます。10時過ぎに大学に着き、一つ目の授業をします。午後に二つ目の授業をして夕方か夜に帰宅し、就寝は0時ごろです。
家で仕事をする日は、6時半か7時に起きられれば理想的ですが、疲れているときはもう少し遅くなってしまいます。それでも子どもが学校に行く前くらいには起きて朝ご飯を食べ、9〜10時ごろからお昼まで翌日の授業の準備をします。13時くらいにお昼を食べ、また夕方くらいまで授業の準備や、授業以外の大学の仕事。夕飯より後に仕事をすると睡眠時間を削らなくちゃいけなくなり翌日仕事をする余力を残せないので、極力日中で終わるようにしています。
食事については、大学に来ている日のお昼はコンビニで買ったものを研究室でさっと食べています。レストランなどに行く余裕は全然ないですね(笑)
その他の食事は、妻と子どもと、妻の両親と同居しているのですが、家族と一緒に家で食べることが多いです。朝は義理の父母の方が早く起きるので、妻と子どもと三人で大体同じ時間に。夜はだいたい家族五人揃って食べています。会社員の方々と比べると、家族と一緒にご飯を食べることは多いかもしれません。平日の半分くらいは家で仕事をしているので、お昼も家で食べていますし。
また、一人暮らしが長く自炊をしていたこともあり、今でもしばしば夕食を作っています。妻と義理の母と私で分担しているのですが、週の3分の1くらいは私の担当です。
前田:ご家庭にいらっしゃる時間も結構多いのですね。
宮地:そうですね。なので、子どもは今小学校低学年なのですが、どうも「お父さんは仕事に行っていない」と誤解されているような気がしています(笑)。「家で仕事をしている」と言ってもまだ理解できないようで。
Q.読書について
前田:研究者の方ですと、本を読まれるのはお仕事の一環というところもあるかと思いますが、お仕事やご研究に関係する本とそれ以外の本で、月にそれぞれどれくらい読まれるかお聞かせいただけますか?
宮地:答えるのがちょっと難しいところがありまして。
というのも、授業や研究で必要な本は一冊まるごと読むというよりも必要なところだけを一部分一部分読むことが多いので、触っている本は10〜20冊になりますが冊数に換算すると月2〜3冊くらいになってしまうのではないかなと思います。
前田:なるほど。研究者の方ならではのお話かもしれません。
宮地:で、趣味の本で言うと0.5冊とかです。小説とか漫画を寝る前に数ページ読むくらい。元々本を読むのは嫌いではないので、そういうものを読むことで多少の気分転換をしています。
でも本当に忙しいときは、寝る前でも日中に読めなかった仕事の本を少しでも読もうとすることもあります。そして興奮しちゃって余計寝つきが悪くなったり(笑)。
前田:仕事モードに戻ってしまうような。
宮地:そうそう。なので、そうならないために仕事と全然関係ない本をちょっと読んで寝るという感じです。
Q.ご趣味について
前田:では、スポーツなど、ご趣味としてされている活動はなにかありますか?
宮地:スポーツというより運動不足を解消しなくちゃという感覚で単純な体操みたいなものはしていますけど(笑)、それ以外で言えば、少しだけ魚釣りをしています。
コロナがはじまった頃にちょうど子どもが幼稚園に入ったのですが、最初のうちは幼稚園も休みでどこにも行けず可哀想だったので、家の近くの小川で魚釣りをさせようかと簡単な釣具を買ってきて釣ってみせたりしていたんです。実のところ、ちいさい子は魚が釣れるのを待つのが我慢できないので魚釣りはあんまりできないんですけどね。そうしているうちに、自分が子どものときにも親に連れられて釣りをしたりしていたのもあって自分が楽しくなってきて。近くの川べりの道を歩いたりするだけでも、気分転換になります。
ただ、釣りは時間がかかるので、忙しくなるとなかなか行けなかったりはしますね。
他には、ICレコーダーにラジオの音楽番組などを録音して通勤時に聴くのは良い気分転換になっています。私は今50代なのですが、2~30代の頃に比べると音楽を聴く時間も量も減ったなとは感じています。ただ、音楽はやっぱり好きなので、ラジオなどを聞いたときに流れている曲をいいなと思ったりはします。ロックのコンサートなどにも、一年に1回くらいは行ったりしますね。
学生の頃にはちょっと民族楽器を自分でも練習していたのですが、今は定期的に練習する時間がなかなか取れないのでできないですね。
前田:民族楽器!どのようなものでしょうか?
宮地:私は日本にいる韓国・朝鮮の方の歴史も研究しているのですが、チャンゴという韓国・朝鮮の楽器があって、大学生の時に学外の社会人サークルに参加させてもらっていました。
前田:では、現在取り組まれているテーマには学生の頃から関心を持たれていたのですか?
宮地:元々は高校生の頃、政治経済の先生が在日コリアンや沖縄の問題などについて関心があり話をしてくれる方だったので、その話を聞くうちに人権の問題などについてもっと勉強したいと思い、法学部に進学しました。その後、法律学だけでなく政治学についても興味を持ち始め、民族問題などについて授業を行ってくださる先生のもとで学ぶうちに政治学の面白さを実感するようになりました。
Q.時間があったらやってみたいこと
前田:では、もっと時間に余裕があったらやってみたいことなどはありますか?
宮地:先ほどの釣りが多少趣味になってきたので、のんびり釣りをしてみたいというのはありますけど、ずっと釣りをしていたいわけでもないので…。
あとはそうですね、映画を観るのは好きなのですが、今は映画館にもなかなか行けないので、自分が見たい映画をゆっくり観たいです。ここ数年は映画館に行くといっても子どもに付き添ってドラえもんの映画に行くくらいなので。
とはいえ、子どもがまだ小さいので、どこか行きたいとか言われたら全部は無理でも半分くらいは答えたいという思いはあり、今はどうしてもそちらが優先になりますね。まずは仕事が第一。そして仕事の準備の合間でできるのだったら、妻と一緒に、あるいは分担して子どもに対応する。今はそういう時期なのだなという風に思っています。
先ほどお話しした大学の様々な仕事も、今私が大学の中でそのようなこと頼まれやすい年齢なので、それも持ち回りなのかなと思っています。やれるところまではやって、あとはもうちょっと下の年代の先生にやってもらうように徐々になっていけば。だから、それまでは自分の時間はいいかな。
家族と食事を一緒にしたり、週末に子どもに付き合って公園や児童館、ゲームセンターなんかに一緒に行ったりはしますが、それ以外はやっぱり仕事という感じになっちゃいますね。
Q.ご家族との時間を取るために意識されていることは?
前田:なるほど。では、そのようなご家族との時間を作る上で気をつけられていることや意識されていることはありますか?
宮地:そうですね。仕事とかち合わない限り、子どもから出てきた要望にはなるべく応えられるよう、健康を保つようにしています。0時過ぎたらちゃんと寝るとか。
他には、やはり子どもはどうしても最初にお母さんに飛びつくので、妻が子どもの世話をしている間には、例えば率先して洗い物をするなどしています。気づいたときに出来ることをやらないと、結局妻が家事育児をする割合が増えてしまうので、気づく限りですけど、なるべく家事を分担するようにしています。
大学教員は9時17時できっちり働いているわけではないですし、週の半分ぐらいは家で仕事をしているので、家事の分担などはしやすい職種でもありますね。
そうそう、子どもと接するなかでここ半年くらいやってみていることがあって。
自分が本好きなので、子どもにも本が面白いなと思ってもらえる経験をして欲しいと思っていて、寝る前に読み聞かせをしています。
『怪盗ルパン』の子ども向けの全集が住んでいる地域の図書館に揃っていて、それを読んであげています。読み始めたら、読み聞かせしてもらえるのが嬉しいのか「読んで」と言われることが増えたので。
『怪盗ルパン』は自分も子どもの頃に読んでいたのですが、大人になってから改めて読んでみると、読みやすいリズムのある文章になっており、確かに子どもが進んで読むだけの面白さがあるなと思えます。子どもと関わる中で新たに気づくことがあるのは面白いです。
前田:それは出版社として聞けて嬉しいお話です!
宮地:本だけ好きになる必要はないですけど、やっぱり本の世界って独特で面白いと思うので、子どもにとって1つの選択肢になってくれたらいいのかなと思いますよね。
まぁ、どうもこの頃飽きてきたのか外で遊び疲れてるのかすぐ寝ちゃうので、半年後に続いているかは分かりませんが(笑)。
つい最近まで大学生だった私にとって、「大学の先生」はどこか身近に感じられる存在でしたが、週の半分はご自宅で仕事をされていることや、授業や研究以外にも多くの時間を費やされていることなど、意外な一面を知ることができました。
また、プライベートについてお聞きしたお話では、常にお子様が話題の中心にあったこともとても印象的でした。お仕事と家庭のバランスをとりながら、ご家族のために何ができるかを語られる宮地さんのお姿はとても素敵でした。
宮地さん、素敵なお話ありがとうございました!