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機械の歌姫(二人用声劇台本)

アキト(男性)
アイ(女性)


アキト『なぁ』

アイ『ねえ』

アキト『歌を…歌ってくれないか?』

アイ『新しい歌を聴いてほしいの』

アキト『あれ?俺曲渡したっけ?まだ途中で完成してないはずなんだけど…』

アイ『貴方の遺品から出てきたパソコンにデータが残ってた曲…新曲でしょ?』

アキト『ああ、アイに歌って欲しくて頑張った。途中からもう発作が酷くて最後まで作れなかったのに…』

アイ『聴いたら途中で終わってて最後はアカペラになるけど…アキトは気に入ってくれるかしら?』

アキト『…そんなの勿論だ。最期の最期にアレを歌って貰えるのか…』

アイ『…聴いてね…アキトに届くように精一杯歌うから…』

(少し間)

アキト『…ああ…流石僕の歌姫だ』

アイ『ねえ、聴こえた?アキトに届いた?…気に入ってくれた?』

アキト『勿論だよ』

アイ『…自信なくて、最後のアカペラ…アキトはどんな思いでこの曲を作ったか直接聞いてないし、私…アキトが居ないと本当ダメね』

アキト『なんで?』

アイ『貴方の曲に一緒に歌詞を付けてたから曲がないアキトも居ないじゃ難しいよ…練習沢山したよ?それでも…自信なんてない…いつだってそう…アキトからちゃんと貰った歌じゃないと自信なんて…』

アキト『あー…そっか。ごめん、こんな早く逝く予定じゃなかったからさ、もう一曲くらい出来るんじゃないかって…遺作ってやつ』

アイ『お前が歌ってくれたら俺は生きてられるから…なんて…酷い嘘つきね』

アキト『…ごめん』

アイ『ねえ…戻ってきてよ!!私歌うから!!アキトの曲何でも歌うから!!私は貴方の歌姫でしょ…!?』

アキト『ここに居るよ。ずっとお前の傍に居る』

アイ『酷いよ…死ぬ間際にまで歌って欲しいって…場違いな明るい恋の歌なんて選んで…』

アキト『歌姫の歌で送り出されたら天国行けそうじゃん』

アイ『私…貴方の為にしか歌わないから…歌えないから!!私は…私は作られた機械なんだから!!アキトが起動してくれなかったらただのソフトなんだから!!』

アキト『勿体無い事言うなよ、ソフトなんて思った事ないよ、俺は。組んでからアイは俺のパートナーだと思ってきた。俺の下手な曲をみんなに広めてくれて高評価も貰えた。誰かがカバーしてくれるような曲になるようアイはいつも俺の曲に魔法を掛けてくれた』

アイ『…そんな事言って…貴方はもう居ないのに…歌う意味も曲もない…だから、一緒に燃やしてもらいたかった…ここはただの空想の世界。アキトと私の願った最初で最期の逢瀬…』

アキト『…泣くなよ。アイは本当に歌声だけじゃなくて姿も綺麗なんだね』

アイ『私は機械…アキトの好みの姿になる事が出来る。アキトが居なくなればただのソフト。アキト以外の曲を私は歌わない。初期化されて私も消える』

アキト『…ごめん…俺がもっともっと歌わせてあげたかった。アイに…俺の歌姫に俺の想いを歌って欲しかった…』

アイ『…アカペラの部分、ちゃんと聴いた?』

アキト『…貴方に出会えた事で私は恋を覚えた…?』

アイ『その次は?』

アキト『貴方に出会えた事で愛する人を喪う(うしなう)事を知った…?』

アイ『その時やっと私は貴方だけの歌姫になれたから、わからなかった幸せを教えてもらった。だから、私は貴方の傍に居るわ、ずっと…これが私にとっても最期…バイバイ』


ーFin

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