「ファンの要望」が当てにならないことについて~たっぴい動画の感想
ファンの各人が要求していることが互いに矛盾し両立不可能なのだから、「ファンの要望に沿った新作」は原理的に不可能では?
そもそも過去作ですら人によってこの作品は合うがあの作品は合わないとか好みが人によって分かれているのがDQMというシリーズなのに、新作にだけ「万人から好かれなければならない」ことを要求するのはおかしいではないか?
このように感じたので、ゆっくりたっぴいの”【DQM3を踏まえて】ドラクエモンスターズの"次回作"に求めるものは?視聴者7万人にアンケート⇒○○○○○不足の現状が見えた…【ドラクエストモンスターズゆっくり実況】”という動画における、視聴者意見の紹介という形式を取ったことによる全体を統合する個人の思想の欠如等について、この観点から批判する。
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本稿が論じる動画(以下アンケート動画と度々呼称する)
モンスター数について
動画の0:50~でDQM3はモンスターが全526種類しかなく、モンスター集めのやり甲斐や対戦におけるパーティ編成の自由度に乏しいと述べられ、比較対象としてJ3Pの726、テリワンSPの659、イルルカSPの903種類という数が挙げられている。
だが待って欲しい、本動画の前日に出された”DQMJ2Pが今でも愛される理由3選”というショート動画では、J2Pの総モンスター数411という数が肯定的に扱われていたのである。
発売された時期や登場モンスターのラインナップが異なるとはいえ、411という数を”好きな魔物見つかるはず”としておきながら、526では不足だという動画を翌日に出すのは思想性が欠けていると評さざるを得ない。前者が自己の思想、後者が視聴者意見の紹介とはいえ、視聴者意見を受けた上で自分はそれをどう解釈しどう考えているのか、独自の考察が欲しいところ。
まあ一応、色違いを除いたモンスター数を数えてみると、J2PはDQM3やJ3Pより多かったりはするのだが、決定的な差と言えるかと言えば怪しい。
単純な数ではなく登場するモンスターのラインナップが重要だと考えているのであろうことはJ2Pショート動画で”ドラクエソードなどニッチな作品からも参戦しています”と言っていたり、アンケート動画の1:31~でS・Xランクのモンスターの少なさを述べていることから推察出来るが、それ以上の深掘りはなし。どのモンスターが登場すると嬉しいかという話題は角が立ち易いので敢えて避けたのかもしれないが、物足りなさがある。高ランクモンスターの数の話題を出すにしても、同じような性質があるDQMCHやDQMJとの比較は必要だろう。
特にDQM3は色違いモンスターの登場のさせ方が明らかに過去作と異なる(ジャミラスやデュランはDQM3内に色違いがいて登場させ易い筈かつシリーズ定番のモンスターであるのに登場せず、それに対しジャングラーやスライムフェアリー等の新規色違いモンスターは多々登場した)ので、登場モンスターのラインナップは考察し甲斐があるテーマの筈。
歴代DQMシリーズのラスボスやDQM3のボスモンスターを配合で作れるようになって欲しいという意見がその後紹介されるが、526では少ない理由、図鑑完成にやり甲斐が無い、対戦で使えるモンスター候補が少ないという最初の問いへの答えにはなっていない。高々10種程度のモンスターを追加しても図鑑完成の難易度も対戦でのパーティ構成の自由度もそう大して変わらないのは自明である。全てを視聴者意見の紹介という形式で動画を編成している為、問題点と解決策が一対一に対応していない。
システム面について
やり込み要素の少なさについて……はまあそうだね。とはいえ個人的にはやり込み要素の少なさが不満になっているというのは1人プレイでのやり込みを中心に活動するゆっくりたっぴいの視聴者が意見を出していることによるバイアスを感じはする。DQMとよく比較されるゲームであるポケモンでは面倒とかさっさと対戦準備終わらせられるようにしてくれという扱いを受けている印象があるので。レジェンドアルセウスのともしび集めとか時空の歪み探し、スカーレット・バイオレットの杭抜きとか別に面白くないし。そしてそれが限定モンスターの入手方法になっているから単純に苦痛にもなる。
イベント入手限定モンスターは存在したらしたでイベントを終わらせるのが手間だとストレスになるし、かといってやり込み要素の報酬にそのイベント限定のモンスターか何かがいないとやる価値がない(それこそアンケート動画で紹介されたえびダンジョンがわざわざ周回する動機が湧かない一因だろう)というジレンマがある。やり込み要素に関しては過去作を見て良かったものはどれか、そこでは何が報酬だったか、それらを整理した上で論じるべきであろう。
課金に関しては、ポケモンだと有料DLC限定のオーガポンとかウーラオス、加えて赫月ガチグマが対戦でトップメタですね――完としか言えない。モグダンジョンは無くても図鑑完成可能で、DQM3ではマックコラボモンスターしか厳密な課金限定モンスターはおらず、彼等も別に対戦で強いということもない(但しバーガーミミックのスキルは優秀だという話はある)。対人戦の有料DLC依存度が特別に高いとは言い難いだろう。
サイズに関しては珍しく視聴者意見の紹介に留まらず私見が出されているが、「サイズ1のダークドレアムとサイズ100アルミラージ」が具体例なのはどうなのか。そもそも今までのDQMがおおみみず(J2P)やスーパーテンツク(テリワン3D)の巨大化であったり、その手の「解釈違い」を行ってきたのが伝統ではないか。現に、過去のショート動画でもそれが紹介されている。
もし過去作でおおみみずやスーパーテンツクのような本来小さいモンスターの巨大化が許されてDQM3では許されないとするならば、その違いはどこにあるのか述べなければならない。例えば「おおみみずがデカいのは解釈違いなのでDQM3と同じくJ2Pもクソ」という主張が与えられた時、それに有意義な回答を返せるだけのロジックは組んでおく必要がある。
過去作要素復活に関しては全体的に懐古っぽい意見が多いなと感じていたので、過去作要素復活を全肯定はしていないのは評価点。私なら飽きやマンネリ化というよりゲームの複雑化とそれによる理解困難さを理由に挙げたいところではあるが。
対人戦について
対人戦に関する部分はゆっくりたっぴいの対戦経験の不足が出ていてあまり質が高くないなという印象。視聴者意見同士の矛盾を放置していたり、深みのある考察を出せていない感がある。
霧、リバース、チェイン、ラウンドゼロ、作戦封じ、予測、スタンバイ……これらの要素に関しては、それがどれだけ複雑で難しいのか、過去作の対戦をやり込んで体験した上で単純化の功罪を詳細に語るのを期待。対戦初心者が中上級者になる過程でどう価値観が変わるのか、その過程の具体例が興味深いことは言うまでもない。
イルルカSPで大称号王を目指すようなので、そこで対戦する過程でメガザルダンスやパーティチェンジ地獄をしっかり味わって欲しい。
視聴者意見の紹介においては、”SS・Xランクのモンスターにそれ相応の対応を与えて欲しい”と”ほぼ全てのモンスターが対人戦で活躍出来る環境にして欲しい”というのは両立し得ないことは指摘するべきで、指摘した上でこの両者のバランスをどう取るべきなのか考える必要がある。全モンスターが同じような強さを持っていてどれも活躍出来るなら、配合の苦労に応じて強さが増す設計になっていないことは明らかである。
しかし動画をサラッと見ているとこの矛盾に気付き難いのも事実で、それはたっぴいが前者のコメントの中から”間違ってもJ3のように合計能力値を設定したり、M3のようにほぼ横並びで最上位種は能力値下位に当たり前のように入っている…なんてことはやめてもらいたいです”の部分を読み上げず、また様々な視聴者の意見が生じた理由として”ランクの高いモンスターが対人戦になるとかなり微妙だったこと、そしてランクの低いモンスターが環境を牛耳っていたこと、これらの傾向がかなり強かった”という共通のものを提起したからである。
確かに、高ランクモンスターの強さを求める人は「高ランクモンスターが弱い」ことに不満を持つだろうし、モンスターの強さの平等性を求める人も「弱いモンスターが存在し一部のモンスターだけ強い」ことに不満を持つだろうが、求めている解決策は全く異なる。視聴者意見間の対立を矮小化し、ある程度共通した「ユーザーの意見」が存在するかのように見せかける演出には首肯出来ない。
高ランクモンスターが弱いということの具体例としても、ダークドレアム、エスターク、ラーミアの画像が示されているが、ダークドレアムが後者2体と並べられるのはあまり妥当とは思えない。そもそも過去のショート動画でダークドレアムは一部のマスターが愛用していたと紹介されていたし、AI1~2回行動を持つ競合の方が基本的に採用し易いものの、弱いという扱いをするのはどうなのか。
また、「全モンスターの対人戦における強さの平等」を求めることそれ自体の問題性に関しても指摘するべきであろう。
過去のDQMにおいては、今まで全然使えないと思われていたモンスターに突然使い方が発見され一気に強モンスターとなることがしばしばある。例えばイルルカSPにおける妖魔ジュリアンテがいい具体例であろう。3DS時代から全く活躍していなかったが、SPリリース後3年以上経ってデイン耐性(稲妻ダンス無効)、踊り封じ耐性(地獄の踊り無効)、体技封じ無効(呪いの鉄槌無効)という身代わり無視特技に対する強さが発見され、トッププレイヤーの構築に採用されるに至っている。
このように、発売何年もしてから見つかる強さは発売前に開発陣が気付けるものではなく、発売後にユーザーが見つけるしかないものである。やり込み甲斐のあるシステムならこういうのは必ず生じる。もしこれを防ごうとするなら全モンスターについて育成の自由度を無くし、用途を事前に限定、その上でその用途での強さを評価しておく……というような、大変不自由極まりないものにするしかない。ユーザーが発売後に強さを発見するシステムであれば、あるモンスターについて、発見前は弱い、発見後は強いという評価が下されるのであるから、モンスターの強さの平等性が崩れるのは必然である(モンスターの強さが全て同じことと、あるモンスターの強さが何らかの発見前後で異なることは、他のモンスターの強さを発見前後のどちらに等しいとしても論理的に成り立たない為、矛盾する)。
「強くなる為の素質の平等」に関して論じるにしても、イルルカ以降の作品ではどのモンスターのステータスの重み付き合計値が同じで所有する特性の個数も同じになっており、この設定以上を求めるとするならば、それは要求者が精緻なアイデアを出さないことには難しいだろう。「重み付き」というのがポイントで、HPや攻撃力には高い重みが与えられているから、HPや攻撃力に多く割り振られたモンスターは見かけ上「ステータス合計値が低く」見えてしまう。「高ランクモンスターが弱い」という不満を持っている人はしばしばこの誤謬に囚われているように思われる。
そしてその後良いシステムとしてイルルカの新生配合やJ3の超生配合が紹介されるが、新生配合と超生配合ではかなり勝手が違うということは議論されず、サイズ変更によって「小さいダークドレアムと大きいアルミラージ」が可能になるということにも言及されない。特に後者は致命的で、サイズに関する解釈違いを問題視するのであれば、その解釈違いを起こせるシステムを肯定的に述べる際には、前項での主張とどう両立するのか考えねばならないだろう。
総括・まとめ
「期待感の高騰」に関しては、J3の時とDQM3の時で同じ予想が発売前に出ていたんだよね。「モンスター数が過去作より少ない→色違いは数にカウントしてなくて、色違いによって発表された数より実際は倍増しているのだろう」という予想が。種類と種族の違いとか、DQM3では大真面目に唱えられていたのが記憶に新しいところ。
しかしJ3の時にそれはもう通った道なんですわ。gamecapのイルルカの掲示板の「雑談スレ第8章 ~ラストステージ~」にこういう書き込みがあった訳です。
ユーザーが期待とハードルを勝手に上げてしまうのは恒例のこと。25周年の特別サイトやムービーに脳を焼かれるのは分かるが、過去にあったのと全く同じ噂が繰り返されるのには思うところはあった。というかJ3の時の方が「もしそうだったらいいな(流石にそれはないか)」というノリなので、冷静だったのよね。
私自身のDQM3へのスタンス
最後にたっぴい動画の感想ではなく私自身のスタンスを一応述べておく。「自分にはあまり合わなかったがまあいい」って感じ。イルルカは3DS・SP共にそれなりに極めた自信はある(現在のトップ勢には対戦ではもう敵わないが)ものの、J3(P)は複雑かつインターネットに分かり易い資料が乏しいこともあって全然理解出来なかったし、DQMの全作品をマスターするのは無理だなと割り切ってしまっているので、新作が合わなくても更に次を待てば良いかくらいにしか感じていない。そもそもイルルカSPとタクトで忙しくてDQ10を始められないという「DQで忙しくてDQをやる時間が無い」問題を抱えているのでこんなにあっさりしているのかもしれないが。
全般的なシステムの単純化はイルルカSPやJ3Pの複雑さを見るに必然だったかなと。超やり込み勢もストーリークリアして終わりのノーマルユーザーも1人が買うゲームソフトは1本だけなので、やり込み勢に媚びるより後者向けに作って売り上げちゃんと伸ばしてシリーズが続く方が大事です。やり込み要素が有料DLCなのに文句を言う人が多いが、過去作やり込み勢は配信限定モンスターを探して中古ロム買い漁ったりしてるんだから、少なくとも彼等に関しては文句を言う資格は無いだろとは思っている。
有料DLCで主人公の着せ替えがあったからストーリー中でも着せ替えが他に見つかるかと期待していたが無かった。他には誰も言っていないと思うが、個人的には着せ替えが有料DLCのもの以外にも欲しかった。
それと位階配合の廃止はかなり好きですね。モンスター数の増加に対し提供出来る配合パターンの少なさから系統配合はもう復活しないかと思っていたが、ランク毎に用意するという新発想で系統配合が復活したことにはかなり感動を覚えた。
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