虫の音がオーケストラのような、秋のキャンプ場で。私がキャンプに行く理由を考えた
定期的にキャンプに行きたくなる。
ビルなんかがどこにも視界に入らないような広い高い空と、うっそうとした森の中で、緑の香りがかぎたくなる。川の流れる音や鳥の鳴き声や虫の音に耳を澄ませたくなるのだ。
例えばスマホの充電のように、私の身体のどこかには、自然をキャッチする部分があるような気がする。そこが空になりそうになると、慌てて充電にいくような感じで行きたくなる。
というわけで、キャンプに行ってきた。子どもたちは山登りや森林浴などの唯歩くという行為にすぐ飽きてしまうので、今はキャンプが家族の最適解。
またしても予約なしの思いつきの計画なので、ようやく見つけたキャンプ場は、まだできたばかり(いや、作り途中なのかもしれない)、ちょっと寂しくなるくらい人の気配がなかった。
でも、人がいないからこそ、不思議とホッとする場所でもあった。
広い敷地を使い放題。
そして、周りに広がる草むらには、秋の音色を奏でる虫たち。
思い思いに響かせる音色は、まるでオーケストラのようだ。
リリリリリリリ
ティティティティティティティ
ジジジジジジジ
リリリーーン リリーーン
ピュルピュル ピュルピュル ピュルピュルル
数えきれないほどの音階とリズム。
でも、ふしぎと音色はそれぞれに調和していて、穏やかで心地のよい感覚が身体いっぱいに広がっていく。優しくて懐かしい音色。願わくば、この音色をずっと聴いていたい。
*****
キャンプ場では、自然が息子たちの遊び相手だ。
まずは、長男の大好きなオニヤンマくんがお出迎え。
さっそく網をふりまわし、オニヤンマをゲットする長男。いきなり捕まえられて、驚いて放心してしまったのだろうか。
息子にされるがままに草に止まって、目をパチクリさせたように、しばらくボーッとしていたオニヤンマ。この後、元気に飛び立った。
子どもたちは、猫じゃらしで、戦いごっこに興じる。
そして、キャンプ場の手作りの池で、カエル達の観察。
なんと、蟹もいた!!
さらには手作りブランコで、持ち手の紐をぐるぐる巻きにして私を待ち構えている。
「ママーー、見てよ。みててね!!ぜったい、みてよ!」
キャンプ場に、息子たちの大声がこだまする。
「はーい、スマホとってくるから。ちょっとまってて」
「おそいよー、早く!!」
カメラを構えると、すごい勢いで、ぐるぐるぐる。
「やべー、はえー」「止まらない~~、ひひひひ」
子どもたちのうれしそうな声がはじける。
家にいたら喧嘩もしょっちゅうな2人だけど、自然という広すぎる遊び場のおかげか喧嘩の少ない平和な時間が流れていく。
私と夫は、ゆっくりと時間をかけてキャンプを設営する。息子たちのはしゃぐ声を聞きながら、作業する時間が案外楽しい。
設営が大方終わって、ふと空を見上げると、空に見慣れない形の雲ができていた。
大きく広げた羽のように見える雲だなと思っていたら、隣に小さな鳥が舞うような雲。いや、誰かの口ひげみたいにも、見えるかも。
その横に、すーーーっと伸びていく飛行雲。ちょっとした天体ショーのようだ。
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暗くなって、バーベキュータイム。子どもたちと一緒に火を起こして、簡単で質素な食事を用意する。
次男が、
「やっぱり、ほんもののバーベキューは楽しいよね」
「ぼく6歳になってから、初めてのバーベキューだよ」
とうれしそう。
キャンプはいつも何かしら課題をもたらす。それは、ときに雨との戦いだったり、ブヨとの戦いだったり、寒さとの戦いだったり。
この日は風が相手だった。テントを設営中に風でテントが吹き飛ばされて転がり、タープが倒れたりした。
それでも、風が強いのには良いこともある。
強い風が吹くたびに、天然の火おこしになる。焚き火の火がまるで喜んでいるかのように踊りながら燃え盛る。風に合わせて、炎が踊る様子は、まるで橙色の髪をたなびかせた小さな火の妖精たちが、新鮮な空気に歓喜して踊っているかのようで楽しい。炭や薪の中で燃える火は、刻々と様相を変え、決して見飽きることがない魔力がある。
ぼーっと火に見入っている間、子どもたちはテントの中で寝袋をサンドバックのようにして大騒ぎ。そして、いつの間にか、いやいつものように、兄のほうがあっという間に寝てしまった。
長男は持っているエネルギーをすごい勢いで使ったかと思うと、バタッと倒れこむように一瞬で寝るタイプ。次男のほうが温存するタイプ。というわけで、取り残された下の子と一緒にテントの中で横たわった。
外はもう夜になると長袖をきて、さらに上着を着込まなければならないほど寒い。
寝袋のふんわりとした暖かさに身を委ねて、私は再び耳をすませてみる。
外は一晩中、秋の虫の音の大合唱。そして吹きすさぶ風の音。聴いていると、私はこの地球の表面に、ぺったりとはりつくようにある、この世界のまぎれもなく一部だと感じられる。
一部に過ぎないと感じられる。そして幸せな気持ちに満たされる。
普段の生活の中で、いつもすっかり忘れてしまうこの感覚をキャンプで味わうのが好きだ。
今、住んでいる家は、コンクリートに囲まれているので、この音を聴くことができない。もし毎日この虫たちの音色を、この風の音を聴くことができたらどんな気持ちになるだろう……と、想像すると嬉しい気持ちになる。
そういう生活をしたら、私は今、住んでいる場所を恋しく思うのだろうか。それとも全く思わないのだろうか。
そんなことを思いながら、いつの間にかすべては闇の中へ。
これにて、私の身体の中の足りなかった何かの充電が完了した。また、ぽっかりあいた感じがしたら、またどこかへキャンプに行こう。
だから、私はキャンプが好きなのだ。