ノニャのチョコレート屋さん
「カランコロン♪」ドアの上に付いている金色の鈴が、弾むように鳴った。
「こんにちは〜」
「いらっしゃいませ!ニャ!」
ここは、「ノニャ」という名前の猫がショコラティエをやっている、チョコレート屋さん。
朝の10時から、夜の7時までやっている。
店の名前は、「ブライト・ナイト・ショコラ」。日本語に訳すと、「明るい・夜・チョコレート」になる。
この店の、1番人気のチョコレートは、「街灯の灯りチョコレート」。
恋人と食べても、1人で食べても、幸せになれます。街灯の灯りのように、食べると、少しホッとしたり、切なさや寂しさを味わうことができます。
店に、若い女性が入って来た夜のことです。その女性の他には、もう、誰も店に居ませんでした。
「カランコロンッ…!」
ノニャは、ビクッと体を震わせて、
「い…いらっしゃいませ…ニャ!」と、言った。突然、大きな音がしたので、びっくりしたからだ。見ると…
扉の前には、若い女性が立っていた。「グスッ…グスッ…」泣いている。どうして、泣きながら、この店に入って来たのだろうか。ノニャは女性に、
「あの…どうしたんですか…?」と、聞いた。女性は、泣きながら答えた。
「グスン…グスッ…私、失恋したの…」ノニャは、「私でよければ、話聞きますよ…?」と、言った。でも、女性は、
「やだ…っ!もう、思い出したくないから…っ」と言い、その場に座り込んで、泣いた。「ごめんなさい…」
「…グスッ…グスッ」
「………」
その後、少し沈黙が続いた。女性の泣き声も、続いていた。でも、話を切り出したのは、女性だった。
「…この店、街灯のナントカ…?っていう、食べたら、すっごく安心するチョコレートがあるって、友達から聞いて…食べたくなって、来たんだけど…」
「そうだったんですか…!じゃあ、少し待っていて下さいね。」
「うん…グスッ…」
ノニャは、トングで「街灯の灯りチョコレート」を一粒掴んで、女性の口元に持って行った。「口を開けて下さい。」
「んぁ…っ」
ノニャは、女性の口の中に、チョコレートを入れた。
「おいしい…」女性の目から、涙が溢れた。
「街灯の灯りチョコレートです。きっと、新しい恋が見つかりますよ。だから、安心して下さい…」
「グスッ…」まだ、女性は泣いている。その時…
「うわぁ〜ん…‼︎」女性は、急に飛び出してきて、ノニャをギュッと、抱き締めた。
「え…あのっ…!大丈夫ですか…?」
「グスッ…グスン…ッ」
「………」
ノニャは、ソッ…と女性の頭を撫でた。「もう、大丈夫ですよ…」
「猫さん…フワフワで、あったかぁい…♡」
「ゴロゴロゴロ…♡猫がノドを鳴らす音って、安心するらしいですよ…?」
「本当だね…猫さん…!」
「あと、私、猫さんじゃなくて、ノニャって言います。」
「ありがと…!ノニャさん…」
「いえいえ…泣きたい時は、もっと、泣いて良いんですよ…」
「ノニャさん…っ!うわぁ〜ん…‼︎グスッ…」
––15分後––
「我慢しないで泣いたら、スッキリした…ノニャさんと、街灯の灯りチョコレートのおかげだよ…!」
「それは、良かったです…!」
「ありがとね…!でも、こんな所で号泣しちゃって、ごめんね…」
「大丈夫ですよ…泣きたい時は、我慢しないで、泣けばいいんですよ?さっきみたいに…」
「そっか…!それで、街灯の灯りチョコいくら…?」と、女性は言い、カバンの中から、お財布を出した。
「いいんです、お代なんて…僕が、勝手に食べさせたようなものですから…」
「え…いいの…?」
「はい。あなたが、幸せになれたみたいなので、いりません。特別ですよ…?」
すると、女性は、少し笑顔を作って、
「ありがとう…じゃあ、帰るね…」と、言った。
「暗いので、お気を付けて、お帰り下さい。」
「また、来てもいいかな…?」
「またのお越しを…心から、お待ちしております。」
「今日は、ありがとう…!また、来るね…!」
「カランコロン…♪」
女性は、笑顔で帰って行った。でも、帰って行く後ろ姿は、少し、悲しそうだった…でも、少し、元気と幸せを取り戻したように見えた。
チョコレートは、人を幸せにする力を持っている。だから、ノニャはこの仕事が大好き。そして、もっと多くの人々を、チョコレートで幸せにしたい、と思っている…