見出し画像

ヨーグルトの日

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した免疫学者、E.メチニコフ生誕の5月15日を「ヨーグルトの日」と㈱明治が定めています。ロシア出身の免疫学者メチニコフ(1845~1916)がヨーグルトを「不老長寿の妙薬」として世界に発表したのは1907年のことです。人の老化について研究していたメチニコフ氏は「腸内細菌のうち有害な働きをする腐敗菌が動脈硬化の原因となる毒性物質をつくることから老化が始まる」という説を唱えていました。そして、ブルガリアのスモーリアン地方に、当時としては非常に高齢であった80歳から100歳さえも越える高齢者が多いことに驚いた博士は「健康に関係が深く、しかもブルガリアだけにあるものは何か」ということを考えました。そして博士は、彼らがヨーグルトを常食としていることに着目し、ブルガリア菌が腸内で増殖して腐敗菌を退治するという理論を証明しようとしました。残念ながら今日ではその理論は否定されていますが、当時、欧米文化圏ではほとんど知られていなかったヨーグルトが、その後世界中に広まったのは博士の説がきっかけでした。今では免疫力を高めるにはバランスの良い食生活、質の良い睡眠を意識することが大切で免疫機能を高める食材を積極的に摂取することが勧められており、その中でもヨーグルトは免疫細胞の多い腸内の環境を整えて免疫力を高めることができるため、インフルエンザの予防に効果的と言われています。このことから、㈱明治ではメチニコフ生誕の5月15日を「ヨーグルトの日」と定めています。
 ヨーグルトとその仲間の発酵乳の始まりは、木桶や革袋に入れておいた乳に偶然入り込んだ乳酸菌によってできたものと言われています。紀元前数千年前、人間が牧畜を始めた頃から作られており、世界各地で特色のあるヨーグルトが食べられていたようです。もちろん、健康効果だけではなく、そのおいしさが人々に親しまれた大きな要因でもあります。主に東ヨーロッパから中央アジア、北アフリカの遊牧民たちにより羊、山羊、牛、馬などの乳から経験的な製造方法で、生乳より保存性が良く、また、自然発酵により現在のヨーグルト状になった食品を、動物性タンパク質やビタミン、ミネラル源を含む貴重な日常の食料として利用していたようです。ヨーグルトは、栄養バランスの良い「完全栄養食品」である牛乳に、乳酸菌のすばらしい効果をプラスした食品です。そのため、ヨーグルトは牛乳の栄養分をそのまま、またはより有効な形で受け継いでいます。
 種菌は桿菌のブルガリア菌(ラクトバチルス・ブルガリカス)と球菌のサーモフィラス菌(ストレプトコッカス・サーモフィラス)です。それに、ヨーグルトの種類により、ガゼリ菌、アシドフィルス菌、各種ビフィズス菌など他の乳酸菌が添加されます。乳酸菌によって作られた乳酸は、ヨーグルトにさわやかな酸味を与えます。また、乳酸によって牛乳のタンパク質が豆腐状に固まり、独特のなめらかな舌触りが生まれます。この2種類の乳酸菌は、自然に作られたヨーグルトの主役の乳酸菌です。これらは古来ヨーグルトづくりに使われてきた菌で、単独よりも一緒にいることによりお互いが助け合って短時間に増殖するという性質を持っています。実際にブルガリア菌とサーモフィラス菌を乳に混合接種すると、まず生育の早いサーモフィラス菌が、乳のなかのわずかなアミノ酸やペプチドを利用して増殖し、同時にブルガリア菌の生育に必要な蟻酸(ぎさん)を作ります。するとブルガリア菌はこの蟻酸を取り込んで増殖し、同時にサーモフィラス菌の増殖を促進するアミノ酸やペプチドを作ります。つまり、この2種類の乳酸菌は、お互いの弱点を補完しあって増殖し、乳酸を多量に生成するわけです。ブルガリア菌とサーモフィラス菌の併用による「共生作用」で、お互いの乳酸発酵を高め合いながら、短時間でおいしいヨーグルトを作り出しているのです。
 ヨーグルトの発酵方式は、容器に中身を入れてから発酵させる「後発酵タイプ」と、タンクで発酵させた後に容器に入れる「前発酵タイプ」があります。プレーンヨーグルト、ハードヨーグルトの多くは後発酵タイプで、ドリンクヨーグルト、ソフトヨーグルトなどは前発酵タイプです。それぞれ口あたりや味わいなどに特徴があります。日本人が初めて牛乳を飲んだのは、百済から牛が輸入された欽明天皇(在位540~571)の時代のようです。発酵乳が日本人の食卓にのぼるのは、明治も半ば頃になった頃のことです。ある人が牛乳の販路拡大の手段として「擬乳(ぎにゅう)」というものを売出しました。この擬乳というのはヨーグルトのことで、整腸剤というふれこみでした。医療の現場で、フランスから輸入したヨーグルト菌でヨーグルトを作り、糖尿病治療に使用され、効果を挙げたと言われています。その後、明治時代末にヨーグルトや乳製品が続けて販売され、乳酸菌を使った食品の市場に次々と業者が参入し、徐々に日本人に広まっていきます。三島海雲が内モンゴルでモンゴル酸乳に出会い、帰国した後、これにヒントを得て乳酸菌飲料「カルピス」が発売されます。大正時代には日本でも「ヨーグルト」と呼ばれるようになりました。1951年、アメリカの世界的な栄養学者であるゲイロード・ハウザー博士が”Look Younger Live Longer(若く見え長生きするには)”という著書で、ヨーグルトを含めた合理的な健康・美容食を考案します。全盛期のハリウッドでは、女優たちがこの「ハウザー食」をこぞってとり、欧米をはじめ、日本にもその人気が伝わり、以降、今日に至るまでそのヨーグルトブームが続いています。風味が日本人の嗜好になじんできたことで確実に人々に親しまれるようになってきています。ヨーグルトの乳酸菌によってすでに腸内にいる善玉菌が増殖して悪玉菌の活動を抑え、さらに死んだ乳酸菌が善玉菌の栄養にもなるので結果的に腸内環境が整うとされています。免疫力が上下する要因のひとつが腸内環境であり、ヨーグルトがただ栄養価に優れているだけの食品ではないことがわかってきました。ドライフルーツをヨーグルトに漬けて食べると美味しいとかいろいろなレシピも出てきていますのでヨーグルトの日に試してみてはいかがでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?