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リーム・アルサレム氏より:ロクサーヌ・ティックル対ギグル・フォー・ガールズ社及びサリー・グローバー訴訟におけるオーストラリア連邦裁判所の判決に関する声明

Statement on the decision of the Federal Court of Australia in the case of Roxanne Tickle v. Giggle for Girls Pty Ltd and Sally Grover
Special Rapporteur on violence against women and girls, Reem 

原文https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/women/sr/statements/20240904-stm-sr-vawg-australia-en.pdf


【翻訳】

ロクサーヌ・ティックル対ギグル・フォー・ガールズ社及びサリー・グローバー訴訟におけるオーストラリア連邦裁判所の判決に関する声明

女性と女児に対する暴力に関する国連特別報告者、リーム・アルサレム

ロクサーヌ・ティックル対ギグル・フォー・ガールズPty Ltd及びサリー・グローバー訴訟(1)におけるオーストラリア連邦裁判所の判決に関して、私は重大な懸念を抱いています。この判決は、法律上女性と認められている女性自認男性を女性専用のソーシャルメディアから排除することが不当な間接差別に当たるというものです。

この判決は、ジェンダー・アイデンティティが性別(sex)に取って代わられ、女性専用のサービスやスペースに対する女性の権利を蹂躙することが許された場合に生じる結果を具体的に示しています。

オーストラリア連邦裁判所の判決は、オーストラリアの性差別禁止法(Sex Discrimination Act)(2)に関するものです。この法律は性別(sex)と性自認(gender identity)の概念を区別していますが、実際の運用においては、この区別が放棄されています。同法はまた、性別(sex)という用語をその通常の意味である生物学的性別性別(biological sex)から切り離し、すべての人間が性自認(gender identity)を持つという、言うならば「作り物の架空の前提」によって運用されています。その結果、連邦裁判所は性自認(gender identity)による差別は男性個人や総体としての男性に有利ではないと主張されているという口実を用いて、1983年にオーストラリアが批准した女子差別撤廃条約(CEDAW)(3)がこの訴訟には無関係であると主張しました。しかしながら、私の見解では、女性がインターセクショナルな理由によって差別を受けていることや、性別と生活に影響を与える他の要因との相互作用の結果、差別を受けやすい女性が存在することを女子差別撤廃条約(CEDAW)が認めている事実を裁判所は無視しています。

さらに連邦裁判所は、オーストラリアの法律の次に、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第26条(4)の一般的差別禁止規定に依拠して、性自認(gender identity)に基づく差別の禁止を主張しました。しかし、国連人権委員会が指摘しているように、「区別(differentiation)の基準が合理的かつ客観的であり、その目的が規約上正当な目的を達成するためであれば、あらゆる待遇の区別が差別になるわけではない」のです(無差別に関する一般的意見第18号1989年、para. 13) (5)。

この機会に、私が2024年3月にオーストラリア人権委員会(AHRC)の要請を受けて発表したこの裁判に関連する立場表明を参照させていただきます。その中で、私は「性別(sex)を理由に差別されない権利と性自認(gender identity)を理由に差別されない権利の間に緊張が生じ得る場合、国際人権法は性別(sex)による差別撤廃義務の免除や、性別(sex)による差別撤廃義務の他の権利への従属を認める解釈を是認しない」と強調しました。

私はまた、この判決によって、女性や女児が状況によっては女性専用スペースの比例原則、正当性、必要性を主張することが難しくなる可能性があることを懸念しています。たとえ意図的でなかったとしても、連邦裁判所の判決によって、オーストラリアの女性と女児は、女子差別撤廃条約(CEDAW)や市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)を含む、オーストラリアが加盟している国際人権条約が提供する、男女同権を保障し性別(sex)による差別をしないことを国家に求めている幅広い保護のすべてを活用することが難しくなる可能性があります。

オーストラリアの性差別禁止法(Sex Discrimination Act)には、男女別サービスの維持や生物学的性別による区別の合理性を正当化しうる条項が含まれています。残念ながら、この訴訟ではこれらの規定が援用されなかったため、オーストラリアの法律が女性と女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する国際的義務と完全に適合しているかどうかは不明なままです。

この訴訟が上訴段階において、すべての当事者が、適用される国際法とその義務、そして例外が適用される状況について検討することを希望します。

2024年9月4日

* 女性と女児に対する暴力に関する国連特別報告者は、人権理事会の人権理事会の特別手続き委任事項として、いかなる政府または組織からも独立した個人の資格で活動しています。


(1)Roxanne Tickle v Giggle for Girls: Online File (fedcourt.gov.au)
(2)オーストラリア性差別禁止法(Sex Discrimination Act 1984)
2021年に修正され、性自認(gender identity)もその保護対象に加えている。
性別(sex)、性的指向、性自認(gender identity)、インターセックス、婚姻関係または交際関係、妊娠、妊娠の可能性、授乳または家族的責任を理由とする差別、セクシャル・ハラスメントを伴う差別、および性別を理由とするハラスメントを伴う差別に関する法律https://www.legislation.gov.au/C2004A02868/2021-09-11/text オーストラリア政府HPより

(3)女子差別撤廃条約(Convention on the Elimination of all forms of Discrimination Against Women, CEDAW)
 女子差別撤廃条約は、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としています。具体的には、「女子に対する差別」を定義し、締約国に対し、政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会的活動における差別の撤廃のために適当な措置をとることを求めています。
 本条約は、1979年の第34回国連総会において採択され、1981年に発効しました。日本は1985年に締結しました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/index.html 外務省HPより

(4)市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第二十六条(翻訳)

 すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html 外務省HPより

(5)市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)

国連人権委員会一般的意見 第18号:無差別 1989年11月10日、人権委員会第37会期にて採択 
13. 最後に、委員会はそのような区別の基準が合理的かつ客観的であり、その目的が規約上正当な目的を達成するためであれば、すべての待遇の区別が差別に該当するわけではないことを指摘する。
https://www.refworld.org/legal/general/hrc/1989/en/6268 国連HPより


判決文より

SDA(オーストラリア性差別禁止法)はその目的に従って、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1979年)(CEDAW)を実効化しようとするものであり、被告側は、CEDAWはSDAの性同一性差別規定を支持しないし、支持できないと主張した。22条を5B条と合わせた場合、CEDAWが渉外権力を介して一般的に支持しているかどうかを判断する必要はなかった。というのも、ティクル氏が訴えているような差別は男性や男性に有利な差別ではないからだ。いずれにせよSDAとの関係ではCEDAWに関与しないからである。 憲法の有効性に関する問題は、通常、提起された事件に関して適切に生じた場合にのみ判断されるべきであることはよく知られている: LibertyWorks Inc v Commonwealth [2021] HCA 90; 274 CLR 1 at [90].

Sex Discrimination Act 22条

22 商品、サービス、施設

有償無償を問わず、物品もしくはサービスを提供し、または施設を利用可能にする者が、他者の性別、性的指向、性自認、インターセックス、婚姻関係もしくは交際関係、妊娠もしくは妊娠の可能性、または母乳育児を理由として、他者を差別することは違法である:

(a)他者に対し、当該商品もしくはサービスを提供すること、または当該施設が利用できるようにすることを拒否すること;

(b) 最初に述べた者が、相手方に対して商品もしくはサービスを提供し、または相手方が施設を利用できるようにする条件において。

(c) 最初に言及された者が、相手方に対してそれらの商品もしくは役務を提供し、またはそれらの施設を利用可能にする方法において。


Sex Discrimination Act 5条(B)

5.性差別

​(1) 本法において、ある者(本項において差別者と称する)が、以下の事由により、被差別者の性別を理由として他の者(本項において被差別者と称する)を差別する場合:

​(a) 被差別者の性別;
​(b) 被害を受けた者の性別に属する者に一般的に認められる特性。
(c) 被差別者の性別に一般的に帰属する特性;

被差別者が、同一の状況において、または実質的に異ならない状況において、差別者が異なる性別の者を扱う、または扱うであろう場合よりも、不利な扱いをすること。



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