トビタテでも研究留学がしたい! 未来テクノロジー人材枠を最大限活用するために申請前に知っておくべきこと
こんにちは。トビタテ9期未来テクノロジー人材枠に採択され、現在アメリカのUSC ICTで研究留学している品川と申します。
近年Twitterでもたびたび話題に挙がるトビタテ(正式名:トビタテ!留学JAPAN)ですが、私自身も「実際のところトビタテで研究留学ってどうなの?」とか「トビタテで研究留学考えてるけど、どういうメリット・デメリットがあるかよくわからない」とか聞かれることが増えてきました。
実際私も、最初トビタテに申請した際は、留学したいなと思っていた時期に9期の応募が始まり、ちょうど良かったから申請した位のノリでした。しかし下調べするにも、未来テクノロジー人材枠自体が8期から新しく新設された枠でもあって情報が不足していたため、留学を開始するまでにこういう情報が事前にわかってたらなあ・・・というケースは少なくありませんでした。
そこで本記事では、未来テクノロジー人材枠で研究留学を考えている学生の方へ向けて、トビタテを利用した留学を選択肢として吟味するための情報を提供できればと考えています。特に、私と同様の境遇の方(未来テクノロジー人材枠でアメリカに研究留学したいと考えている大学院生の方)には参考になるかと。お役に立てば幸いです。
トビタテの概要
まず、トビタテ!留学JAPAN(以下、トビタテ)というキャンペーンの概要について軽くおさらいします。
トビタテとは、ざっくり言うと、留学する日本の学生を増やすため、企業から寄付金を募って実施されている留学支援プログラムのことです。下記のような特徴があります。
1.多様な目的での留学を受け入れている
2.トビタテコミュニティによる支援(情報共有、メンタリングなど)が受けられる
3.給付型の奨学金が出る
1.にあるように、研究留学はトビタテにおける留学の一つの典型例に過ぎません。トビタテでは、留学の形に応じて大まかにコースが分かれていますが、情報系の学生の研究留学に向いていると言われているコースが未来テクノロジー人材枠です。
未来テクノロジー人材枠で申請するメリット~研究留学との親和性について~
公式ページに"未来テクノロジー人材枠の審査においては、専門性や実績を重視した評価を行います。"と書いてある通り、未来テクノロジー人材枠(以下、未テク)の審査の基準は以下のようになります。
1.専門性を証明できる何らかの実績があること
2.実践活動を盛り込んだ、意義のある研究計画を立てていること
3.計画の実現可能性が高いこと
研究留学は、以下の理由でこの審査基準と親和性があります。
1.については、論文の出版、国際会議での発表、国内学会・研究会での受賞の経験がそのまま実績として使える
2.については、研究活動(論文の投稿)自体が実践活動(実社会へのアウトプット)としてカウントでき、意義のある研究計画書は学振の書類をほぼ転用できる(どう成長して将来どのように活躍する人材になるかについて力点がかかる点は辛い人には辛いかも)
3.については、他のコースと同じだが、国際会議で既にコンタクトをとったことがあったり、指導教員のツテがある場合は強力な説得力になる点で他のコースよりもやりやすい(はず)
同様の理由で、未テクでの留学は海外企業への研究インターンにも向いています。むしろ、可能ならば積極的に計画に盛り込むべきです。(なぜなら、トビタテから支給される月々の滞在費だけでは留学費用をまかなうことが厳しいためです・・・(後述します))
この親和性の高さから、ほぼ学振を出すノリで受かればラッキーくらいの気持ちで気軽に申請を出せる点が未テクの一つの利点かと思います。
(何が言いたいかというと、学振は書いとくとイイゾ)
もう一つの利点は、未テクの倍率自体が学振や他の奨学金と違ってあまり高くないことです。学振は分野にもよりますが、私の分野ではだいたい3.7~4.うん倍とかでした。(参考:過去の学振の倍率)
一方、トビタテの倍率は、公式の新着情報から選考結果を見ることができます。これを見ると、
8期 応募 44人、うち合格者32人
9期 応募 37人、うち合格者27人
10期 応募 51人、うち合格者36人
採用枠はもともと50名程度なので、この状況を考慮すれば、倍率を気にしなくとも、ある程度の閾値を超えた研究計画であれば通る可能性が高いと思われます。トビタテ側としても、7年間で1万人を留学に送り出すことを目標にしているので、場合によっては応募枠を超えた採用も十分ありえると考えると、それなりに採択される期待をもって申請できる奨学金だといえるでしょう。
未来テクノロジー人材枠で申請する時におさえておきたい懸念事項
上記だけをみると、こんなに美味しい話なのに、なんでもっと応募者が増えてないのだろう?と思われる方もいるかもしれません。考えるに、やはり情報が不足しており判断しかねているのではないでしょうか?人によってはあまり良くない噂を聞いたこともあるかと思いますので、実際のところどうなんだという話をこれからしていきたいと思います。
懸念事項1:2次面接と事前研修がある(そして交通費が自費負担)
一応、採択された時の留学準備金のうち2万が便宜上これらの交通費として計上されているとのことです。つまり2次面接で落ちると東京までの交通費分損をするってことですね(正直どうかと思う)
また、研究に費やせたはずの時間も削られるので、この辺はデメリットかもしれません。
ただ、個人的には自分の専門から離れた人と交流して話を聞いたり、自分の研究の話をした時に普段と違った視点のフィードバックをもらえたりという機会になったので、その点ではためになったし楽しかったです。あと、自分の留学をサポートしてくれるコミュニティができるっていうのはなんだかんだ心強いと思うので、その点は他の奨学金制度などと差別化される点だと思います。
懸念事項2:留学先では日本の良さを伝えるアンバサダー(大使)活動、帰国してからは留学についてのエヴァンジェリスト(伝道師)活動を求められる
研究留学でアンバサダー活動って何やるんだよ・・・って話ですが、まあ日本の文化について紹介したり、日本食を振る舞ったりして国際交流しろよ、ってことぐらいの意味に捉えていただければいいのではないかと思います。私の場合はとりあえず日本の饅頭とかお土産に持って行って地元の話をしたりとかしてます。
エヴァンジェリスト活動は、日本に帰った後に「留学はイイぞ」と伝えるってことですね。私のこの記事執筆もエヴァンジェリスト活動の一環としてやってます。お役立ていただければ幸いです。
実際のところ、厳格なノルマがあるわけでもなく強く推奨されている、という形なので、これらの活動については個々人ができる範囲で意識していれば良いくらいかと思います。
懸念事項3:留学計画の途中変更が容易ではない(うまくいっても最低1か月半くらいかかる)
トビタテの制度上で一番悩ましいのはこの点だと私は思っています。トビタテでは「計画書で提案した目的の達成」よりも、「計画書の通りに行動したか」どうかを重視しています。正確には計画書の計画の不履行に対して不寛容です。例えば一時帰国の予定が無かったのに勝手に一時帰国するだとか、行く予定の場所を勝手に変更するだとかをした場合は、トビタテからの制裁の対象になり得ると考えられます。
(下手をすると奨学金の全額返金を求められることもあるようで、本当にツライ)
参考:文科省の給付型の留学奨学金を使って留学して借金71万円になった話
もう察しがつくかと思いますが、給付型奨学金という触れ込みとはちょっと実態が違っていて、要するに科研費とかのファンドと同じなんですね。計画の実行に責任が伴います。
人それぞれに色々な事情があるので、トビタテに受かっても留学前or留学中に明日は我が身になる可能性は十分あるかと考えられます。では避けるにはどうしたらいいのかって話なのですが、ただ一つです。大学のトビタテ担当の方と密に連絡取り合って逐次相談してください。事前研修でもトビタテ事務局の方に口を酸っぱくして言われます。事前に相談していれば、問題の解決が見えてくることもあります。行動の責任を自分だけで取らなくて済み、自身を守ることにつながります。
懸念事項4:トビタテ単体だけでは、留学に必要な費用を賄えない(ビザ申請時注意)
トビタテは北米への留学で月16万円の滞在費が出るのですが、まあ当然ながら滞在費として十分ではありません。
特に、ビザ申請時には注意が必要です。ビザ申請には、滞在期間中の滞在経費が十分賄えることを示す証明書が必要になります。これは国や大学の地域によって異なるようですが、例えばアメリカだと大学によってJ1ビザ取得に必要な、月々の滞在費用の最低ラインが決まっています。以下に例を挙げます。
"大学名 j1 visa minimum funding requirement"とかで検索
USC 2,000 USD/month https://ois.usc.edu/j1-scholars/obtaining-a-ds-2019/funding/
Boston University 2,275 USD/month https://www.bu.edu/isso/administrators/checklist/j1/minimum-funding/
Berkley University 1,800 USD/month
https://internationaloffice.berkeley.edu/ucb_departments/j-1/financial-requirements
トビタテで北米留学だと、滞在費は110 JPY/USDとして一か月あたり1,455 USD (16,000 JPY )
不足・・・圧倒的不足・・・!!
ではどうするか?
他の奨学金や研究費などのファンドから捻出するか、自費でまかなうか(銀行口座の英文証明を出す)、クラウドファンディングをするか・・・
私の場合は、足りない分を指導教員のファンドから補填していただいたのですが、無かったら辞退していたかもしれません・・・
懸念すべき事項はこんなところでしょうか。これらを考慮した上で、留学資金をどうまかなうかなど、戦略的に動いていただければと思います。
まとめ
まとめると、研究留学におけるトビタテ未来テクノロジー人材枠という奨学金制度は「申請しやすい、受かりやすい一方で、融通の利かなさから辞退する羽目になる可能性もそれなりにあるファンド」だと考えると良いかもしれません。
交換留学制度など、既に留学先が完全に確定していればトラブルが起きる可能性は少ないですが、そうでない場合はある程度の不確定要素を含むことになると思うので、合格した後、もしもの場合にどこまで頑張るか、辞退するラインについても大学のトビタテ担当の方と話しておくと良いかもしれません。
主なラインは、以下になると思います。
1. 収入源の見込みに問題が生じた(例:他の申請や、インターンに通らなかった)
2. 研究計画の見込みに問題が生じた(例:留学予定先が急に「受け入れ無理」を通告してきた)
私の場合も、トビタテに合格した後さあビザの申請の話をしようかという段階で、最初に計画していた留学先から急に都合が悪くなったと言われ、かなりしんどい目に遭いました。最終的には今こうして留学先変更が叶い留学できましたが、変更した留学先とビザ申請プロセスに入った時点で、ビザ申請から取得までの期間、トビタテの計画変更手続きから承認までの期間を逆算すると完全に詰んでおり、トビタテ事務局から変更手続き承認の知らせを受けるまで不安でしかたありませんでした。
この無理を押し通すために、ほうぼう手を尽くしてくださった大学のトビタテ担当の方や研究室の秘書さん、計画変更における研究留学の質の保証のために推薦所見を書いてくださった指導教員の先生には頭が上がりません。承認してくださったトビタテ事務局の懐の深さにも感謝です。
この話の教訓としては、以下に尽きます。
1. トラブルに遭ってしまっても、しっかり相談していれば結構周りの協力でなんとかなるので、諦めずにとりあえず相談することが大事ということ
2. 時間的制約や不確定要素が絡む中での計画変更は精神は摩耗するし、それなりに労力がかかるので、辞退するラインについても予め相談して決めておくのはアリ(研究留学においては、他の奨学金もあるのでトビタテに無理にこだわる必要は必ずしもないと思います。体を壊さない程度に頑張りましょう)
以上です。本記事がトビタテの未テク枠についての正しい理解を促すとともに、興味のある方が戦略的に申請にチャレンジするための一助となれば幸いです。良ければハートマークのやつも押してっていただけると励みになります。
何かこういうことを書いて欲しいというリクエストなどがあれば、Twitterのアカウントの方にご連絡ください。ではまた。