ピノキオピー楽曲の「たり〜たり」
どうも、Seiと名乗ったり名乗らなかったりする人です。
今回はピノキオピーの書く歌詞に出てくる「たり〜たり」を紹介する記事を書こうと思います。
紹介する前にちょっとした「たり」のお話。
「たり」という言葉、日常生活の中で無意識に聞いていたり話していたりしているのではないでしょうか。
聞いたことないよ!っていう方々はきっと外国籍だったりあかちゃんだったりするのでしょう。そんな方の為に「たり」ってどんな時に使ったり使わなかったりするの〜????というのを説明したりします。
【使用例】
①動作や状態を並列して述べる
(例: 今年の夏は海で泳いだり、山に登ったりした。)
②動作や状態が繰り返し・交互に起きる様子
(例: 海を、行ったり来たりしている。)
③「〜の場合もあれば、〜の場合もある」。対照的な表現。主に肯定形と否定形を使用
(例: 夏は海に行ったり、行かなかったりする。)
という感じで、物事を並列して述べるときに使われるのが「たり」です。そして以下は誤用例。
【誤用例】
・並列した事象が無いのに「たり」を使う
(例: 今年の夏は海に行ったりした【海以外にもどこかへ行った暗示とも捉えられるので、一概に誤用とは言えない】)
・並列した事情があるのに「たり」が1個しか使われていない
(例: 夏は海で泳いだり、山に登った)
以上からわかるように、基本的に「たり」は2つ以上付けることが規則のようです。
ちなみに先程私が述べた、
「説明したりします」
は、説明以外のアクションを起こしていない(並列した事象が無い)ので誤用ですね。
ちなみに、この「たり〜たり」文は、J-POPの歌詞に沢山出てきます。特に
「泣いたり笑ったり」
というフレーズなんかはよく耳にしますね。
「泣く」「笑う」といった感情表現を持っているリスナーであれば、その歌詞に自分自身を投影させてしまうのではないでしょうか。
このように「たり」という言葉には、リスナーの心を掴む共感性を宿しているのではないかと考えています。
また、先述の使用例③のように、対照的な事象を並列させることができるので、表現の幅を大いに広げられる手法でもあります。
以上のクソ長い説明を踏まえて、ピノキオピーの楽曲に出てくる「たり〜たり」を見たり噛み締めたりしてみましょう。
すろぉもぉしょん
「恥の多い生涯なんて、珍しいもんじゃないし大丈夫だよ」と、励ましをもらえる曲。
このフレーズの「たり〜たり」は先述の使用例でいうと①でしょう。
人生における「何かやらかして反省する」「調子に乗る」という経験を''並列''させています。
また、解釈次第では
人生で「反省する」「調子に乗る」という経験を''繰り返して''死んでいくんだろう
と捉えることもでき、こちらの場合は使用例②を包含した表現と言えますね。
人間のちょっとした不甲斐なさを表した「たり〜たり」ですね。
あと、いきなり「たり〜たり」の主旨から外れますが、このフレーズの美しい対比に注目していただきたいんです!!!!!
・「快晴」「青天井」という状況
(ポジティブ要素)
・「反省する」「調子こく」という不甲斐無さ
(ネガティブ要素)
・「のんびり」という腑抜けた語気
・「くたばる」という刺激的な語気
「死」という重大なライフイベントを腑抜けた表現で補っており、そんな見事なギャップを描いてしまうのが、ピノキオピー楽曲の魅力のひとつですね。
はじめまして地球人さん
人間にあらざる者(ここでは初音ミクとします)と、地球人さん(人間)との邂逅。複雑な感情を持つ人間のことを、初音ミク視点で描いている曲です。
使用例③のような、「人に共感する場合もあれば、共感されずに幻滅されてしまう場合もある」という対照的表現と捉えることができます。
たった一つの言動で人間関係が壊れかねない人間の脆さをつっつくように、感情を司らない存在の初音ミクが歌っています。
また、このフレーズ以外にも「たり〜たり」が沢山出てきます。
この「たり〜たり」のくどさが人間の思考の複雑さを顕現していると感じますし、「めんどくさい生物」という表現を助長しているようにも感じますね。
ニナ
この曲は「世の中や人生こうであってほしいのにな」という願望がテーマ。
ここでは1つしか「たり」が出てきません。しかしこれは誤用例でチラッと挙げた「暗示」とも言えますね。
「ひねくれものの君を喜ばせる」こと以外にも考えがあるのだろう、と推測することができます。
(おそらく作者ピノキオピーはそこまで考えてはいないだろうけど)
そして2番のサビでも同じように1度だけ「たり」が出てきます。
神様の存在を否定するのではなく、神様にちょっかいを出してみるという発想に、童心のような純朴さを感じます。
化物宇宙
でっっっかい宇宙と、我々が暮らす地球での日常を照らし合わせた曲。
使用例①のように、人生経験を並列させていますね。
「ふられる」という事柄をチョイスするならば、「恋をする」という対照的な事柄を並列させるのが定石だろうと筆者は思うのです。ましてや並列させているのは「貯金をする」っていやこれ歌詞にするほどのことか!?と思わざるを得ない、超日常的なワンシーンを取り入れています。
つまり、この歌詞を聴いて想像できるのは、誇張されすぎていない、等身大のリアルな人間像なのです。だからこそ、我々リスナーはピノキオピーの歌詞に共感し、惹かれていくのだろうと感じます。
遊星まっしらけ
生命の進化を描いた「たり〜たり」。
この歌詞では様々な形へと進化を遂げていますが、1番最後に「人になったり」と、我々人間に着地させることで、締まりが良くどことなく安心感があります。
転生林檎
こんなところにも「たり〜たり」がありました。
アルティメットセンパイ
こんなところにも。
あかんぼ
最後はピノキオピーの記念すべき1stアルバム
「ハナガノビール」の1曲目に収録されている
「あかんぼ」。
内容としては
「機械のあかんぼ(=初音ミク?)」が、成長していく人間を見て、これからの人間の人生を想像しているような歌詞なのですが…
この怒涛の「たり〜たり」を、ご覧下さい。
これからの人生で起こりうることを、36小節ものサビを使って全て「たり〜たり」文に落とし込んで書いています。
その間、なんと約1分13秒。
「すろぉもぉしょん」のサビ部分は16小節。時間にすると約25秒。
「はじめまして地球人さん」のサビは20小節。時間にすると約30秒。
上記2曲に比べると、サビがとてもとても長いことが分かります。
長いからといって、決して「変わり映えしない歌だ!」と感じることはありません。むしろ長尺のサビだからこそ、人生の長さを連想させてしまいます。
そもそも、初音ミク視点という俯瞰、そして等身大の人間像を率直に描く表現手法が活動初期から成されていることに衝撃を受けました。この曲が収録されたアルバムが発売された14年後に「META」という「俯瞰視点」を通して自身を見出すことをテーマにしたアルバムを出すもんだからすげえよ…キャリアを重ねても根幹はしっかりしてるんだな…
と感じます。(語彙力)
さいごに
以上、ピノキオピー楽曲の「たり〜たり」でした。
あかんぼを聴いて、ふと
「他にもたりたりって使われてたり?」
と思い立ち、漁ってみると意外と使われていたので、
「まとめみたいな形で記事を書くか〜」
と執筆(?)に至りました。
「たり〜たり」という表現自体は、キラーフレーズ的では無いので特段目立つことはありませんが、その構文に他愛もない日常風景や感情を埋め込むことで、やんわりとリスナーを共感させているのでしょう。
こうして目立たない部分に着目して聴いてみると、もしかしたら歌詞の解像度が上がったり、新たな発見があったりするかもしれません。
(今回紹介した曲以外にも「たり〜たり」が使われている楽曲が沢山あります。隠れミッキー的な感じで探すととても楽しいですよ!!!)
おわり
(↓参考サイト↓)
「~たり~たり」 | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 - NHK http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/154.html
文法の基本「たり〜たり」の使い方・回数・言い換え表現 【例文解説】 https://buntou.jp/writing/tari-tari
~たり(~たり)する | 日本語教師の広場 https://www.tomojuku.com/blog/tari/
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