2020年8月29日 ダークブラウン、エプロンフロント、ダービー
Siroeno Yosui の完成したばかりのビスポーク靴を囲みながら、作り手たちにこだわったところや苦労したことなど話してもらうシリーズです。
今回は、こちらのエプロンフロントダービーについて話を聞いてみました。
(左:高井俊秀、右:片岡謙)
聖:よろしくおねがいします。
高井 & 謙:よろしくおねがいします。
謙:今回デザインはエプロンフロントのダービーです。
聖:初歩的な質問になりますけど、"エプロンフロント" というのは、"U チップ" とはまた違う?
謙:どちらも U の字の縫い目があるのは同じなんだけど、エプロンフロントは、その中でも "ライトアングルモカ" という縫い方をしているものを指している気がします。U チップは、縫い方に関係なく、U の字の縫い目が入っているものを広く指しているのかなと。"つまみモカ” とかライトアングルモカ以外の縫い方もあるので。
聖:たしかに "エプロンフロント" と呼ばれるだけあって、見た目がエプロンみたいというか。
謙:そうそう。ライトアングルモカは、革が波打っているような独特な表情になるのが特徴で、機械じゃできないから、手作業の良さが出てくるところです。
謙:ちなみにライトアングルモカの糸は、"麻糸" を使ってます。ここは縫い目が屈曲部にあたるので、耐久性の高い "ナイロン糸" が使われることが多いんだけど、麻糸のほうが質感が良くて。
聖:でも麻糸だと切れやすい?
謙:切れやすいといってもそこまでプチプチ切れるわけではないけど。
高井:そうですね。ただ、麻糸でもナイロン糸でも切れるときは切れちゃうんで、切れちゃったときはバッチリ修理します。昔よく修理でやっていたので。
謙:作る段階でも、なるべく切れにくいように、太い糸を使うようにはします。とはいえ、太すぎると通らないんで、太すぎず細すぎない糸を使う。今回はいろいろ試した結果、4 本撚りの麻糸を一回ほどいて 3 本撚りにして使ってます。
聖:なるほど。そこまでやる...
(ライトアングルモカの縫い方を説明してもらっています)
謙:つま先の部分は "シャドウステッチ" という、革の断面に糸を通すようにして、革の表面に糸が出ないような縫い方をしてます。
聖:難しそうですね。
高井:これは難しいです。
謙:気を抜くとすぐにやぶれちゃいますね。とくに今回はヴィンテージの革を使ってる分、さらに気を使いました…笑
("シャドウステッチ" でつま先の先端部分が縫い合わされています)
聖:”他のエプロンフロントと比べて” というところでは何かポイントありますか?
謙:それでいうと、エドワード・グリーンの “ドーヴァー(Dover)” という有名なモデルがあって、「エプロンフロントダービーといえばドーヴァー」というくらい有名なモデルなんだけど、今回はそれとはまた違ったイメージで作れれば、というところからスタートしました。
高井:ドーヴァーもそうですけど、エプロンフロント自体がもともとカントリーシューズなこともあって、どちらかというとカジュアル寄りのイメージがありますよね。
謙:そうですね。普通に作ると、ぽってりしてて、ゆったり履くみたいな感じになりがちなんですけど、今回はそうならないようにドレス寄りに仕上がっています。
謙:具体的にいうと、ひとつは "U の大きさ"。よくあるエプロンフロントよりもすこし小さめのバランスにしています。
謙:もうひとつは、"羽根" の部分。羽根をすこし小さく、V フロント気味にしていて、スマートに見えるようにデザインの線を調整しています。
謙:あとは、"シームレス"。このデザインの靴ってたいてい踵を覆うような形でパーツがついているんですけど、この靴はシームレスになってます。
謙:シームレスなので、つま先から踵までずーっと一枚の革になってますね。かなり贅沢なパターン。
高井:見る人が見たら「おお」ってなりますよね。
謙:うん。ビスポーク感ありますよね。
(表側の革は 2 パーツだけだそうです)
高井:ドーヴァーは底付けとかもしっかりしてて "カントリー" って感じがするけど、これはベヴェルドウェストにしたりとか、ヒールも角度つけたりしてて、底付けもドレス寄りになっていますね。
謙:あと今回試させてもらったのが、シューツリー。”漆” を塗ってます。
高井:これめっちゃカッコいいですよね。
謙:うん。普通の素仕上げのシューツリーって、それはそれでいいんだけど、なんかちょっと汚れやすいなっていうのを前々から思っていて、それの解決策の一案として今回試させてもらいました。
(漆塗りのシューツリー)
謙:ヴィンテージの靴とか見てて、靴のほうは経年変化しててすごいカッコいいんだけど、シューツリーのほうはなんかただ汚れてるだけというか、いい感じに経年変化してないなって思うことがあって。それをなんとかしたいと思ってた時に、工房にあったヴィンテージの工具の感じ。この感じがシューツリーで出せたら、靴の経年変化にもついて来てくれるかなって。それで調べていて、漆にたどりつきました。
(こちらの工具の持ち手部分からヒントを得たそうです)
(慣れない漆塗りで腕が荒れてしまったようで、終始腕をポリポリ掻いていました😂)
高井:漆を入れるとすごい木目がきれいに出ますよね。
謙:そうですね。すでにヴィンテージ感が漂ってますよね。新品の靴だと、逆にすこし雰囲気のギャップが出ちゃうけど、そこは「このシューツリーが合うくらいになるまで履き込んでください」ということで。
高井:メッセージ性がありますね笑
謙:笑。あとこれもオイル入れたらちょっと艶が出てくれるので、たまにメンテしてあげるといいと思います。
高井:シューツリーも一緒に育ててくださいみたいな?
謙:うん。
高井:両方育てるのはいいですね。なかなかシューツリー育てないですもんね。
謙:そうですね。靴のほうもいい感じに経年変化してくれると思います。これぞビスポークっていう感じの仕上がりになりましたね。
・・・