2021年1月31日 鹿の革で作られたビスポーク靴
Siroeno Yosui の完成したばかりのビスポーク靴を囲みながら、作り手たちにこだわったところや苦労したことなど話してもらうシリーズです。
今回は鹿革で作られたホールカットシューズです。よければお付き合いくださいませ。
(左:髙井俊秀、右:片岡謙)
聖:よろしくおねがいします。
髙井 & 謙:お願いします。
謙:6 アイレットのホールカットです。
髙井:鹿スエード。
謙:そうですね。今回は鹿革のスエードを使ってます。
聖:シロエノヨウスイでは初ですよね。もともと鹿革のスエードで、というオーダーだったんですか?
謙:そうですね。一度工房に遊びにきていただいたことがあって、そのときに「鹿スエードの靴を探してるんですけど、あんまりないんですよね」という話を聞いて。
鹿革自体がそんなにないんですけど、いつも買わせてもらっている革屋さんにたまたま置いてあって。
「ありました!」と話したら「ぜひ、お願いします」ということで、お作りすることになりました。
髙井:タイミングよく見つかってよかったですよね。ラッキーでしたね。ほんとに。
謙:そうですね。すごく良いのが見つかりました。
(今回使われた鹿スエード)
聖:鹿革のスエードは、牛革のスエードとはまた違った良さがあるんですか?
謙:なんと言ってもテクスチャーがいいですね、鹿スエードは。すごく肌触りがいい。
聖:へぇ、そうなんですね。
謙:あと撥水性がエグいですね。水汲めちゃうくらい撥水力があります。
髙井:水張ったら金魚住めますよね。
聖:金魚?
謙:まだ鹿スエードの端切れって残ってますよね。あれ見てほしいなぁ。あっちか、ちょっと待ってて…
(謙、どこかへ行く)
…
(謙、戻ってくる)
謙:これ見て。これはエグいで。あ、やばい、こぼれる
聖:おお!
謙:これはエグいでしょ。
髙井:さっきからエグいしか言ってへんやん
聖:これ防水スプレーとか何もせずに…?
謙:何もしてない。
髙井:これに防水したらもう無敵ですよね。
謙:そうですね。鹿スエードで合羽(かっぱ)作れるんちゃう?
髙井:合羽?!
あぁ、てかジャケットは多いですよね?
聖:へぇ。鹿スエードの?
髙井:そう。服は多いんですよ。
謙:あのぉ、たしか日本のぉ、日本の昔のなにかでも使われてたんですよね。鹿スエードって
聖:”日本の昔のなにか”って、何なのよ笑
謙:なんやったかなぁ。ググったら絶対出てくる。たしか武士系のなにか
聖:武士系のなにか笑
髙井:手袋?
謙:手袋もそうやし…なんやったやろ…
髙井:服的な?
謙:そう服的な…
聖:服的な…なに…?
謙:武士系のやつ笑
聖:武士系のやつ!笑
謙:すごい破れにくいんですよ。鹿革って。
聖:あぁ、なるほど。
髙井:柔らかくて耐久性があるんですよね。軽いし。
聖:牛革と比べて?
髙井:そうそう。全然破れない。
謙:引っ張り強度があるんですよね。テンションに強い。
聖:そうなんだ。
言われたとおり後でググってみました。
鎌倉時代から江戸時代にかけて、手袋や足袋、兜や鎧の内張りなどに鹿革が使われていたそうです。
また、牛や馬の革より柔らかくて強度があることから、革紐に向いており、矢を束ねる紐などにも鹿革が使われていたそうです。
(革足袋 ─ 日本の文化と鹿)
髙井:「革のシルク」って言われてますよね。柔らかいから
謙:足が屈曲するとき、革が硬いと曲がりにくいんですけど、鹿革だと柔らかいのでやっぱり返りもいいです。というのと、柔らかいから足に合わせて形状変化してくれるので、牛革とはまた違ったホールド感になります。
聖:へぇ。
謙:ただ、柔らかい分、加工の難易度は上がります。
聖:切ったりするのが、ということ?
謙:切るのもそうだし、漉くのもそうかな。柔らかくてグニグニしてるのでなかなか漉けなくて、漉いたら漉いたで歪んじゃうというか、波打っちゃうというか… きれいに漉くのが難しいんですよね。
でも、そのままの厚みで作ると野暮ったい靴になってしまうので、漉く工程は必要なんですけど。
髙井:だいぶ薄くしてますよね。
謙:うん。だいぶ薄くしました。それと、漉くと銀面がなくなって耐久性が落ちてしまうので、漉いたところにボックスカーフの銀面を貼って補強しています。
聖:へぇ。でもボックスカーフを貼ったら、またその分厚くならない?
謙:そう。だからボックスカーフのほうもギリギリまで薄くします。ギリギリ銀面だけ残すように漉いて、それを貼るようにしています。
聖:なるほど…
髙井:中めっちゃ作り込んでましたもんね。
謙:そう、なかなか手間がかかりますね。それは
髙井:今回、エアブラシで染めたのがよかったですね。
謙:あぁ、それは大きいですね。
そう、最初は筆で染めてたんですけど、筆で染めると鹿スエードのテクスチャが死んでしまうというのがあって。
それで今回は、プラモデルを染色するのに使うようなエアブラシを使って染めました。
聖:へぇ。
謙:鹿スエードの滑らかな質感は残しつつ、きれいに色が出せましたね。
髙井:きれいやなぁ。
謙:うん。いい色。
髙井:めっちゃいい色。
謙:筆で染めると毛並みがガサガサになるんですよね。最初、試作で筆で染めたときはマンモスみたいになりました。
聖:マンモスっぽい質感ってこと?笑
謙:そう。質感が、筆で染めるとマンモスみたいになります。
試作用に買った革なので、そもそもあまり質が良くなかったというのもありますけど。
髙井:マンモスって言われてもわかんないですよね。あれは
謙:うん、ほぼマンモスやった。
聖:ほぼマンモス笑
(”ほぼマンモス”と言われた、試作のアッパー。たしかにマンモス感あります…)
(やはり本番はとてもきれいな仕上がりです)
髙井:いい具合にムラ感も出てますよね。
聖:たしかに、すこし濃淡があるような感じですよね。
謙:そうですね。やっぱり革の部位によって色の入り方が違うのと、あとは、吊り込みでテンションのかかる箇所と、かかってない箇所でも、すこし色の差ができるんですよね。それですこしグラデーションがあるような仕上がりになってます。
これも実は 2 回染めてるんですよね。革を裁断したタイミングで一回染めて、吊り込んだあとにもう一回染めています。
(適度なムラ感があり、とてもきれいな仕上がりです)
聖:ちなみに、鹿スエードの靴ってやっぱり結構珍しんですか?
謙:チャーチとかが出していますね。今も鹿革を使っているのかはわからないですけど、チャーチのスーパーバックは結構有名じゃないですかね。
聖:へぇ
謙:この前も話題になりましたけど、チャールズ・F・ステッドのスーパーバックも、鹿革のスエードの質感に似せて作られていたりするので、実は鹿スエードの靴ってそれほど突飛な選択肢ではなくて、どちらかというと伝統的なイギリス靴のキャラクターの一つになっていると思います。
スーパーバック:もともとは牡鹿のスエードを指す言葉。現在は、牛革のスエード等に対しても「牡鹿のスエードのように毛足が短くて品のあるスエードですよ」ということをアピールするために使われたりするそうです。
▼ スーパーバックについて以前話題になった記事です
謙:革の話ばっかりになっちゃいましたけど、自分は今回木型もすごい気に入ってます。自分のなかでは完成度高いというか。ホールカットラキング高いですね。
髙井:3 位くらい?
謙:いや、1 位ですね。世界ランク 1 位
髙井:ホールカットのなかで?
謙:うん
髙井:すご
聖:(なんの話...)
謙:つま先の長さとか形とか、フェイスの立ち上がり方とか、バランス良くまとめられたかなと思います。あと、やっぱりかかと周りの立体感がいいですね。
髙井:後ろからがめっちゃいいですね。
謙:そう。立体感があります。今回かかとの大きい方、って言ったら悪いかな... だったので、かかと周りを結構盛ったんですけど、そのおかげでかかと周りのカーブに抑揚ができて。
なので、たとえば斜め後ろから内側を見たとき等に、立体感のある見た目になってくれています。
髙井:めっちゃいい。
謙:ついつい見ちゃう綺麗さがありますね。今回、自分がアッパーまで作って、底付けは髙井さんにパスしたんですけど、やっぱり気になってちょいちょい髙井さんのほうに見に行ってしまうっていうか。
髙井:それいつもやん笑
謙:そうですか?それは無意識でした笑
でも、これは曲線の綺麗さが自分が一番好きな感じになってますね。髙井さんだって、僕のほうに綺麗な女の人がいたら見に来るでしょ?
髙井:それはちょいちょい見に行く笑
謙:そういう感覚やと思う。
髙井:すげーわかりやすい。
たしかに、いいケツしとる。
謙:ヒールの大きさもちょうどいいしなぁ。あと相変わらず髙井さんのアゴの加工がめっちゃきれい。
(いいケツ)
(いいケツを眺めるケン・カタオカ)
謙:さっき鹿スエードの撥水性の話が出ましたけど、今回は仕様も完全に雨仕様になってます。ハーフラバー、トゥスチール、ハーフラバーです。
髙井:最強の雨仕様ですね。
謙:アウトソールもベイカーのオークバークだから、全然水染みないですし。
聖:防水スプレーはしたほうがいいんですか?
謙:これもスプレーは吹いてますね。防水スプレーというか、オイルの入ったスエードの栄養スプレーみたいな。
髙井:それが防水も兼ねているっていう感じですよね。
謙:そうそうそう。
髙井:んでやっぱりこまめに吹いたほうがいいです。
聖:そうなんですね。
髙井:汚れもつきにくくなるので。こまめにスプレー吹いてたら、あとはそんなに気を使わなくても大丈夫ですね。
(底側は防水仕様になっているそうです)
謙:いいなぁ、欲しいなぁ。この靴
髙井:これ?サイズが合わないでしょ笑
謙:いや履けますよ全然。いける
髙井:いやぁ、でもやっぱり色がいいなぁこれ。
謙:これは渾身の一足ですね。我々の。
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