見出し画像

人生百年。一生創作。

書きながら涙ぐむなんて明らかに冷静さを失っていますが、今日だけは許してほしい。

原因は祖母です。

私はおばあちゃん子かつひとりっ子なので、昔から休みの記憶といえば祖母とともにありました。

バスと電車と路面電車を乗り継いで2時間くらいかけて祖母の家に行き、よく泊まらせてもらいました。

近所のお寺へ鳩に餌をあげにいったり、町内の夏祭りに参加したり、祖母の友人たちとお寿司を食べに行ったこともありました。

祖母が家に泊まりにきたら、何度も何度もボードゲームで対戦し、六畳間に布団を並べて一緒に寝ました。祖母が帰った後は、自分の家なのにいつもの家じゃないような、もの寂しい気持ちになったものです。


そんな祖母は、数年前から私の両親と暮らしており、ここ1カ月、骨折して入院していました。

昔から体はすごく丈夫。先日、無事に退院することができました。

ちなみに入院中、お見舞いに行ったところ、タブレット越しのリモート面会だったこともあって、かなりぼんやりしている様子でした。……ので、正直これは、退院後私のことを覚えていてくれるか微妙だな、と思っていました。

なにしろ99歳です。お年寄りが、入院を期に認知機能が落ちるというのはよく聞く話だし。

退院日、車椅子で病院のロビーに降りてきた祖母。案の定、状況がよくわかっていない様子。覚悟を決める孫。恐る恐る、「おかえり」と手を取る。すると、祖母は目を丸くして、「あれぇ、あにぃちゃん」と答えてくれたので、なんだか胸がいっぱいになってしまいました。

「今からどこへ行くの?」
「ここはどこ?」
みたいな状態で、退院したら普通の会話もままならなくなっていました。

骨折して入院していたことも、家のことも、自分の部屋のことも、トイレや仏壇の位置も、なーーーんにも覚えておらず、家のことはどうやらどこかの旅館だと思っています。

でも、私のことは、ちゃんと覚えていてくれました。

祖母は長年俳句の教室に通っているのですが、退院したら条件反射のように俳句を考え始めました。
今、まさに目の前で、指折り俳句の上の句と格闘しています。

右手の指を折っては首を振り、3分後にまた指を折る、というのを、かれこれ30分くらい繰り返しているのです。

目が悪いので、代わりにメモしてあげようと思って、「中途半端でいいからいつでも言って!」と言うんですが、「へぇ」と答えたっきり首を傾げています。

そのうち祖母の興味はテレビの阪神戦に移って行ったので、ついにしっくりくるネタはどこからもやって来なかったようで……。

私も創作意欲を持て余して、なんとかネタが見つからないかと地引網を振り回すタイプなので、祖母の気持ちはよくわかる。ネタよりも創作意欲が先行すると、こんな感じになるんですよね。

……婆孫そろって下手な漁師じゃねぇか。


いったん家に戻って来た祖母ですが、数日後から施設に入ることが決まりました。

視覚障害のあるお年寄りのお世話にも対応している老人ホームです。が、こんなご時世のため、面会は月に2回、15分。一度入所すると次はいつ帰宅できるかもわからないらしい。

一緒に食卓を囲み、祖母のためにお茶やコーヒーを淹れるのもあと数回なんだと思うと、神妙な気持ちになってしまいます。

コーヒーはインスタントの粉をスプーン一杯。
お湯はカップに半分。ミルクを少々。

味がいつもと違うと飲んでくれないようですが、今日淹れてあげたのは、「おいしいねぇ、疲れがいっぺんに取れたわ」と喜んでくれました。

だめ。泣きそう。


いくら体が弱っても、一生懸命うなりながら俳句を考えている祖母の姿を見ると、誇らしいし、私もこういう風に年を取りたいなぁと思ったりします。いや、祖母と私は趣味趣向が似ている部分が多いらしいから、こうなるに違いない。

「ちょっとちょっとおじいさんや、のーとにえっせいを投稿してくれませんかねぇ」
とか言ってるかもしれない。

グツグツ煮立った創作意欲に、のんびり差し水しながら、ゆるゆると創作人生を続けていきたい。

99歳になっても頑張る祖母を見習って、私も下手な漁師でもいいから、ネタを捕まえるためいつまでも地引網を振り回そう。

そして今は、祖母と同じ空間で並んで創作できる残りわずかな時間を、大切に過ごしたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!

あやこあにぃ|作家&インタビューライター
こんなところまで見てくださってありがとうございます! もしサポートをいただけましたら、わが家のうさぎにおいしい牧草を買います!