第19話 動いていれば鍵は目の前に落ちてくる【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
まなみは翌日東京のアパートへ戻った。ぼくは新潟大学近くの五十嵐のちあきのアパートに泊まらせてもらうことになり、2,3日お世話になった。
新潟大学のキャンパスに連れて行ってもらったり、佐渡が見える海岸に連れて行ってもらったりした。
断っておくが、ちあきと二人で過ごしたと言っても、そういう関係にはなっていない。
こういう時はそうなるものなのでは?という考えは頭に浮かぶが、そんな「気持ち」は全く湧いてこないし、そもそもぼくには彼女がいたし、ぼくはくそがつくほどまじめなのでちゃんと節度ある居候の立場をこえずに過ごした。
ちあきはとても大切な友達だ。
ちあきが授業などにでかけている間、ぼくはひまをもてあました。五十嵐は繁華街まで遠いので近所ですることが散歩以外ない。
ぼくはほとんどしたことのない自炊をさせてもらった。
「SEGE兄、冷蔵庫の物使っていいから適当に自分で作って食べていいからね。」
と言われていたので、ぼくはみそ汁と納豆チャーハンを作った。
ぼくは無駄遣いしないよう、一生懸命一人分の量を考えて食材を使わせてもらった。
でも、今思えば2人分作っておけばよかった。きっとちあきは期待して家に帰ってきたに違いない。気がきかなくてごめんね。
まあそれはともかく、ある晩ちあきは街のなじみの居酒屋に連れて行ってくれた。
その店はいかにも海鮮居酒屋で、店内には漁火につかう丸いガラスがぶら下がっていたり、漁に使う道具が飾ってあったりした。メニューにも「漁師おすすめの海鮮丼」というのがある。
お店の大将とちあきは「ねえ大将!」「おうちあきちゃん!」という感じの関係だ。
ちあきはお店のメニューを書くのを手伝っているようで、この日も大将から、
「新しいメニューができたんだよ。また書いてよ!」
と頼まれていた。
「いいね!ねえ、SEGE兄って字書くの上手?」
といきなりぼくに聞いてきた。
「はあ?!あ、ま、まあ書道は初段だけど、もう何年も筆握ってないよ。」
「え!いいね!すごーい。いいじゃんいいじゃん。じゃあ書いてよ。」
ということで、急遽ぼくが書くことになった。がんばってみたけど・・・満足のいかない字になってしまった。
「いいね!」
とちあきは言ってくれたが、はたして本音かどうか。気を使ってくれたにちがいない。
そしてぼくの旅の話などで盛り上がっていると、店内にいたお客さんがその会話に入ってきた。
「旅してるんですか?」
「はい、そうなんです。」
「何で周ってるんですか?」
「ヒッチハイクなんですよ。」
「まじすか?!すごいっすね。おれはバイクで日本一周したことがあるんですよ。」
「それもすごいじゃないですか!」
「沖縄に月光荘という宿があるんですけど知ってますか?」
「いや、知らないです。沖縄のこと何にも知らないんです。」
「まじすか!?ぼくはちゃんと調べていかないとバイクとめられる場所って見つからないことがあるんで。」
「ぼくはインドで出会った人たちに歌を届けに行きながら日本を二周するという旅をしているんですよ。泊るのは野宿か友達の家なので、友達のところ以外は行き当たりばったりです。とにかく全都道府県をまわります。その月光荘のこと、詳しく教えてもらっていいですか。」
「沖縄の那覇におきえい通りという通りがあって、そこに月光荘という安宿があるんですよ。」
「ちょ、ちょっと待ってください。すごい大事な話な気がしますメモするんで待って下さい。」
「おきえい通りは国際通りから入ったところにあるんですけど、その月光荘は1泊1500円で泊まれるんですよ。ドミ(ドミトリー)ですけど。」
「ドミはもう慣れてます。全然大丈夫です。アジアは基本ドミだったんで。」
「じゃあ、めちゃくちゃ余裕ですね。それでそこの飯がめっちゃうまいのにめっちゃ安いんですよ。300円ですよ!」
「まじすか!めっちゃ安いですね。絶対行きます。国際通りからのおきえい通りの月光荘ですね。」
「なんなら泊まらなくても夕飯だけ食べるのもありだから、ぜひ行ってください。それと沖縄は阿嘉島がいいですよ。めちゃくちゃきれいです。世界で3本の指に入る島です。」
(おお、すげえな。偶然今日来たお店ですごい情報を得ることができた。これは絶対行くしかない。離島は無理だとしても、月光荘は絶対行こう。)
地図と言えばぼくが持っている地図は全国地図一枚しかないのにたどり着けるのか、という問題はあるが、何とかなるとぼくは思っていた。
そんなことより沖縄という地に目標ができたことで何としても沖縄にたどり着きたいという情熱が燃えてきた。
東北・北海道で少し自信を失っていたぼくにはちょうどいいタイミングだった。
そしてぼくはこの3か月後、月光荘の門をくぐった。この月光荘に立ち寄ったことで、ぼくの日本二周の旅の核となる出会いをすることになるのである。
旅の一言
「あんまりやさしくしてあげても、悪い人に会った時、つらい思いをするから」
老後ご夫婦の奥様がサービスエリアでぼくにおっしゃった一言。その一言で十分やさしすぎます。