第12話 人は自分の見たいように世界を見る【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
札幌での初野宿は、日の出とともに目が覚めた。寒い。まだ8月も末なのに。それに、何しろ落ち着かない。また誰か来るんじゃないかと。
ここはだだっぴろい駐車場だから、明るくなれば当然人の目につく。そんな状況でずぶとく寝てられない。
だいたいが昔からそうだ。学校の休み時間に友達と遊んでいるときなど、友達がチャイムがなっても遊び続けているともう落ち着かない。
自分は自分だからと一人であそびを辞める勇気もないし、でも「先生に怒られる」と罪悪感を持ちながらずるずる遊び続けてしまう。
誰かに怒られるかもしれないという状況がすごく嫌なのだ。
だから人の敷地で野宿しているということは、それだけでぼくの気持ちは落ち着かない。
(見つかったら怒られるかも。)
そんなハートでよく野宿の旅をしようと思うよなって話だ。野宿なんて基本的に誰かの土地で寝るものなのだから。
ということで、ぼくは昨日の夜の時点で、「明るくなったらオートバックスの駐車場から出ていこう」と決めていた。でもまだ寝たりないから別の場所で寝たい。
早朝の札幌の街をぼくはほっつき歩いて朝からの寝場所を探し始めた。そしてあるマンションの外周の、歩道側にあるちょっとした緑地の中のベンチを見つけた。
(ここよさそうだな。住宅街だし、マンションの人に何か言われることもなさそうだし、だれか通っても放っておいてくれるだろう。)
そういう誰にもとがめられないポイントを見つけるのは得意だ。
そこで何時間寝たんだろう。目が覚めるとあたりは明るい日差しに包まれている。ぼくの腹は決まった。
(本州に戻ろう。昨日でさえ夜寒かったのに、こんな感じで北海道を回っていたら凍え死んじゃう。東北にもどってきたとしても、東北だって寒いじゃん。もう北海道の地は踏んだんだから、戻った方がいい!)
半ば言い訳がましい理由でぼくは本州に戻ることにした。なんとも情けない。でも全都道府県をまわるというルールにはのっとっている。
ヒッチハイク198台分の14台目。
乗せてくれた方は道東でヒッチハイクをしたことがあるという方だった。なんと家に車がないために、学生時代はテストの日などはヒッチハイクで登校していたというからすごい。
びくびくヒッチハイクしている自分がアホらしくなる。
(そうか。そういう次元になるとこわいとかそういうことじゃないんだな。置かれた環境で常識とか感じ方とか変わるものなんだな。とはいってもおれにすぐその境地になるのは
難しい・・・。)
でもこれは大切なことだった。その後、日常的にヒッチハイクする人と何人か出会ったが、一番すごいと思ったのは、京都の女子大生だった。
彼女は飲み会で終電がなくなったりすると街中で普通にヒッチハイクし家に帰るそうだ。「タクシー代がもったいない」という。
しかもそれを母の横で話していた。人は自分の見たいように世界を見、見たいようなことが自分の身に起きていくのである。
14台目の方は同じヒッチハイカーのぼくにたくさんお話してくれた。
・今は学習塾の仕事をしている。今日は会議の帰り。
・空いてる日はドライブ。
・こないだ、48時間でどこまでいけるかというのをやって岩手まで行った。
・盛岡郊外に住みたい。人がいいから。
・北海道は雨が少ない。
・北海道は死亡事故が一番多い。それは直線道路が多く長いから。運転も荒い。
・雪が降るから道が広い。
・東京、大阪、名古屋、横浜の次の大都市が札幌。
ぼくはこの日千歳で野宿をした。いやしたはずだ。千歳空港で寝た気がする。たしかモスバーガーを食べたような。
へろへろになって2回目の野宿の場所を探していたことだけは覚えているし、千歳空港にいたこともおぼろげながら覚えている。
でもそれが本当なのか、ほかの記憶とまざっているのか、よく分からない。思い出そうとしても記憶からぽかっと抜けてしまっているようだ。
記録にも残っていない。それがいかにぼくが疲弊していたかを表している。初めての札幌での野宿がそうとう精神的にダメージを与えていたようだ。