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第50話 極上の大自然と都市伝説は九州にあり【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

ところでこの九州でぼくはちょっと困った体験をしている。

 それは九州という土地はよくも悪くも目に見えない力にあふれているということだった。

 何よりも九州は山から発するパワーがものすごく強い。日本のどの地域に比べても九州には及ばない。これはぼくだけの感覚だけでない。

 実はぼくはその10年後に鹿児島の霧島神宮で結婚式を挙げることになり、両家の親族も招いてついでに九州旅行もしたのだが、奥さんを含め皆さん九州の山のパワーはすごいと言っていた。

 北海道の大自然は確かにすごいが、広大さで負けても九州の方はパワーで優っている。それと同じ火山帯に属する四国の山々は、フォルムこそ九州の山と似ているが、パワーを内に秘めてひっそりしすぎている。

 もっとも四国にたどり着くのは翌年の春なのでその時までは比較できなかったが。

 そして九州は人もいい。旅人の中には沖縄が一番好きだという人も多いし、沖縄への移住者も増えているが、ぼくは日本で一番素晴らしい土地は九州だと思っている。

 そして九州では、不思議なことがたくさん起きた。

 鳥取で出会ったヒロミさんに、福岡の中州でまた偶然出会ったり。行ってみたらオランダ村は閉園直前、古未運も閉店直前だったり。占い師のおばちゃんに不思議な話を一方的に聞かされたり。

 またぼく自身の感覚も研ぎ澄まされていったように思う。どっちにいくべきか、この道をどっちに曲がるべきか、この誘いに乗るべきか、そういう勘が鋭くなっていたし、その勘をあてにして信じるようにもなっていた。

 九州という地を歩むごとにそういった感覚を芽生えさせていったように思う。

 さすが神話の国だ。そして神話の国は都市伝説のるつぼでもあった。

 目に見えない力や、世の表には出ない真実というものはぼくはあるとは思う。でも、九州では嘘も本当もすべてごっちゃになっていて、それを人々はまことしやかに信じているようだった。

 例えば日ユ同祖論だったり、3.11テロ事件の裏事情だったり、天皇家の秘密だったり、そういった情報にぼくはこの熊本を境に埋もれていった。

 いや、きっかけは福岡中洲の占いのおばちゃんだっただろう。

 ぼくはその流れで世界の始まりである5色民族の発祥の地と言われる大分の幣立神宮に行ったし、翌年の四国では失われたアークがあるという剣山にも登った。

 四国は古代から神聖な場所であり、それゆえに人が入り込まないようにあえて交通の便を悪くしているだとか、古代ヘブライの王がかつて四国に来ており、現在でも四国は最後の楽園であり、ロスチャイルド家が移住してきているとか。

 さらに四国には結界が張られており、40年間結界を張るためにこもっていた人がいて、最近ようやく張り終えたことで、しばらく日本は大丈夫だとか。

 二周目では、ある芸術家の人と出会い、その方は神の国から持ち帰った文字のリストを持っていて、神の国に行ける生活の掟が書いてある本を持っているが「怖くて開けない」と言っていた。

 字づらだけ見てもいかにもあやしい情報だ。もちろんこの中にも何かしら真実はあってもおかしくない。

 ただぼくは都市伝説を深堀するために旅をしていたわけではないのだ。ぼくは「自分をかなえる」ために旅に出たわけで、それなのにこうした面白い情報に次々と触れていくということが愉快だった。

実は日本を時間をかけて旅をするということは、日本の裏側、アンダーグラウンドな世界を知るということでもあった。

ぼくが知りえた情報が本当か嘘かということは置いておいて、いろいろなことを信じている人たちがいるということが分かったし、普通に生きていたら、旅でもしていなかったら一生知らないでいるであろう生き方をしている人や世界があるのだということが分かったのだ。

ぼくは一人旅という自由の身だったので、知りえた怪しい都市伝説に乗っかって旅するのはまるでゲームをしているようで楽しかったし、理由をつけて予定にはないところに行けることも楽しんでいた。

それに、本当に何か不思議なことが起きればそれはそれで収穫となるのだし。

しかし、旅が進むうちにそうした都市伝説的な情報はあふれていき、ぼくは混乱するようになった。またそういったことを訴える人々の論の熱さというのも心をえぐるのだ。

ぼくの中に「そんなの根拠ないだろ。実際に見たわけじゃないし、いくらでも言えるし。」そういうぼくもいないわけではない。

でも、もはや信じない方がおかしいというスタンスの人もいるので、どうしてもつられて信じてしまうようになるのである。実際そういう情報を、ぼくは嫌いではないのだし。

そうすると普通に生きている人たちを見て、「お前ら本当のこと知らないだろ。おれは知ってるぞ。」そんな目で人を見るようになるのだ。

ぼくは日本二周の旅の中でその後この問題にしばしば苦しんだ。そして時間はかかったがある時ふっきれた。

「こんなこと知ろうとしてもきりがない。たとえ知ったところで何にもならない。たとえ本当だとしてもおれの生きる道に関係ない。おれがどう生きるかの方が大事だ。今後は都市伝説とは距離を置いていこう。」

まあでも、本当のこともこの熊本ではたくさん勉強させてもらった。

たとえば古未運の蛇口から出る水は、阿蘇の地下水だ。東野さんが教えてくれた。

「SEGE、ここの水は世界一だぞ。それが水道から出るんだ。阿蘇の水はめちゃくちゃきれいで、その水を使うために世界的な企業の工場があるんだ。」

ぼくはここ古未運に8日間ほどもいたのだ。九州や世界のことをたくさん学んだ。特に東野さんや陳君にはたくさん教えてもらった。泥に入る珍しい温泉にも連れて行ってもらった。

陳君には巨木がバンバン生えている水上村の原生林に連れて行ってもらったし、山奥でカフェを開きながらジャンベに使う牛やヤギの皮をこしらえている山木さんという人のところに連れて行ってもらったり、知らない世界をたくさん知ることができた。

また、九州の自然といえば阿蘇と桜島くらいしか知らなかったが、実は久住高原というすばらしく美しい高原があることも初めて知った。

北九州の友達ふみこちゃんの一家は、毎年必ず久住高原にハイキングに行くと言っていた。

この久住高原は空から見るのも最高だ。

もし九州に飛行機で行くのなら、着陸前に必ず九州の大地を上から眺めてほしい。久住高原と連なる阿蘇のカルデラの眺めは本当に美しい。おそらく益城空港に降りる便が一番眺めがよいと思う。

余談だが、ぼくはこの旅の10年後ほどあとに坂本龍馬に触発されて霧島神宮で結婚式をあげるのだが、その時は初めて霧島神宮に行ったものだと思っていた。

ところがこの文章を書くために日記を読み返していると、なんと当時霧島神宮に立ち寄ったことが書いてあった。

はっきりとは覚えてはいないが、古未運で出会ったイノくんが、ここで手作りアクセサリーを売っているということで連れて行ってくれたのだと思う。

人に車でポンと連れてこられたから、そこがどこなのかあまりよくわかっていなかったのだ。でも20年後にして日記を読んだことで点と点がつながり、記憶がよみがえった。

やはり見えない力に導かれているなあと思う。

つづく

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