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ここ日本で、アスリートのキャリア形成に注目が集まり始めて久しく時が経った。アスリート自身はもちろん、サポートする周辺の人間、そして受け入れる社会に至るまで、それぞれの立場で議論が展開され、徐々に内容が成熟し、課題が浮き彫りになってきたという印象を受けている。

アスリートという特異な存在を、自分自身はどう活かすか。

アスリートという特異な存在を、周りが、社会がどう活かすか。

キャリア形成の考え方の変化

今までアスリートのキャリアというと、セカンドキャリアに注目が集まっていた。つまり、引退後にどうキャリアを形成していくかが議論の中心だった。成功事例や失敗事例がメディアでも取り上げられたし、私自身もアスリートのセカンドキャリアに焦点を当てた取材をしてきた。その中で、数年前に現役を退いたアスリートの口からは、決まってこのような言葉が出てきた。

現役時代はそこまで考えていなかった

だが、議論の成熟とともに、現役時代からセカンドキャリアを意識して準備すべきだという流れができ、デュアルキャリア、パラレルキャリアと言った言葉が出始めた。つまり、アスリートとしての価値を持っている現役のうちに、並行して別のキャリア形成を行うという考えだ。

こうして、自らSNSを発信し、周辺のリソースを有効活用しながら、自身のキャリアアップやセルフブランディングを貪欲に推し進めるアスリートが増えていったのだ。

例えば、サッカーW杯ロシア大会のメンバーを見ても、本田圭佑を筆頭に、パラレルキャリアを実践したり、書籍を出版している人がほとんどだ。

「金儲けしてないで、まずは競技に集中しろよ」

このようなことを言う人はまだまだ、たくさんいる。現役のアスリートが、別のビジネスに精を出すことを良しとしない人の心情も、応援する立場を考えると一定の理解はできる。だが、僕はアスリートは、自分のキャリアを現役のうちから考えるべきだと思っているし、それを周りにも勧めるようにしている。リソースマネージメント、タイムマネージメントを行いながら、アスリートが、競技とビジネスと両立させることは、その人の人生100年を考えれば、むしろ当然のことだからだ。

第一、引退後のキャリアが夢のないものだったとしたら、アスリートを志す人なんていなくなってしまうのだから。

パラレルキャリアをDRIVEせよ

そんな時代の潮流をさらに加速させるべく、「アスリートのパラレルキャリアをDRIVEする」という刺激的なタイトルで、スポーツビジネスサロンDYOP.のイベントが開催された。

今回で第三回目となるDYOP.のイベント。
この日のパネルディスカッションでは、水泳の小坂悠真、女子サッカーの大滝麻未、フリーライターの菊地公平と、決してスポーツ選手としての王道を歩んでいるとは言えないながらも、アスリートとは別の活動の中で、自身の価値を最大化する力に長けた3名が選ばれ、それぞれの持論を展開した。

中でも、個人的には、過去には欧州に挑戦し、現在はなでしこリーグ2部で戦っている大滝さんの話が非常に興味深いものだった。

大滝さんは元なでしこジャパンの一員で、現ニッパツ横浜FCシーガルズに所属する女子サッカー選手だ。オリンピック・リヨン在籍時には欧州チャンピオンズリーグの優勝を経験するなど、海外経験も豊富で、さらに驚くべきことに、昨年、現ガンバ大阪の宮本恒靖監督も取得したFIFA(国際サッカー連盟)が運営する大学院でFIFAマスターを修了した。

「女子サッカーの場合、ご存知の通り、それだけで生活していけるほど良い環境ではない。パリFCでは、選手全員がデュアルキャリアを義務付けられており、サッカー以外に、必ず職に就く、もしくはなにかを学ぶなどしなければならない」と日本に比べて、パラレルキャリアの意識が進んでいる海外の状況を説明。さらに

「私がいるなでしこリーグの2部は、日本代表を目指すとか、海外で活躍しようという選手よりも、むしろ、近い将来どうなりたいかをサッカー以外のところで考えている人が多い。」

とアスリートのキャリア形成に対する意識の差は、環境や競技レベルによるところが大きいという持論を展開した。

日本では、プロ>アマというイメージが非常に強いが、こういったキャリア形成を促し、高い意識を醸成する環境がアマチュアスポーツの中にあるのだとしたら、なでしこリーグやFリーグの可能性はまだまだ広がるのではないだろうか。

マイナースポーツの可能性を常に探っている僕にとって、今後の活動に新たな光明をもたらしてくれる、そんなイベントだった。

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せがわたいすけ(瀬川 泰祐)/久喜市議会議員・スポーツライター・編集者ほか
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