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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#44~多事多端の北東北函館旅:3日目(2)【大館→盛岡→新青森】
JR花輪線は秋田県の大館駅から旧東北本線(現IGRいわて銀河鉄道)の好摩駅まで伸びる100キロ超の長大ローカル線である。殆どの列車が好摩からそのままIGRに乗り入れて盛岡まで行くが、全線を踏破する列車は1日5本しかない。
0キロポストのある大館駅ホームに止まっている車両はキハ110形という2両編成の乗り慣れたディーゼルカーで、盛岡までは3時間半という長丁場である。車内は空いていたので、私はボックスシートを占領して荷物の整理に取り掛かり、増えてきた土産物を大きめのレジ袋にまとめた。
一息をついて何気にスマホで列車運行情報を確認すると、函館本線で脱線事故があり不通になっているとの情報が入る。北海道に行くのは明後日なのでまぁ大丈夫だろうと高を括り、私は山々に映える紅葉に再び視線を移した。
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「十和田八幡平四季彩ライン」という漢字の多い愛称が付された花輪線のディーゼルは大館駅から30分弱走った11時7分に十和田南駅に着く。緑屋根が綺麗ないい駅だが、乗降客は誰もいない。「十和田湖への最寄り駅」との看板があるが、十和田湖へはみんなバスやクルマで行くのであろう。かつて小坂方面への延伸計画があった名残でスイッチバック構造になっており、駅としては中々に魅力的ではあるのだが、それだけでは利用客を増やすことが出来るはずもない。急行も停車した古の栄華を偲ばせる広い構内に汽笛をボォッと響かせて、短い編成の気動車は進行方向を変えて盛岡方面へ西進していく。
十和田南駅から2駅で鹿角花輪駅に着く。駅前には市街地もそこそこ広がる鹿角市の中心駅で、我が列車は26分も停車する。花輪線は単線なので列車交換するんだろうと思っていたのだが、反対側から列車が来ることもなく、単に半時間止まっていただけであった。
よく分からないがとにかく時間があるので駅の内外を歩いてみる。十和田南駅と同じく駅舎は平屋の緑屋根で、清々しい初秋の青空によく映えている。
ところで十和田南駅はかつて毛馬内駅(アイヌ語の「ケマ(漁具)」と「ナイ(谷、川)」が由来)という名前で、鹿角花輪駅も陸中花輪駅から改称されている。どちらも旧駅名の方がいいのではないかと思うのがどうであろうか。
鹿角花輪駅からは八幡平高原の北側から東側に回り込むようなルートで進んでいく。昨年クルマで駅舎だけ見に来た松尾八幡平駅、安比高原駅あたりでは裾野が緩やかに広がる岩手山の姿も見えて、車窓風景としては申し分ない。
安比高原駅を過ぎると列車は速度を増してどんどん下っていく。33.3パーミル(1000m走る間に33.3m登る)という急勾配で、蒸気機関車の時代は3重連で喘ぎあえぎ登っていた龍ケ森越えという鉄道名所だが、今日は下り勾配なので、生い茂る紅葉混じりの森林の中を滑り落ちるように突っ走っていく。13時25分にIGRとの接続駅好摩に到着、これで花輪線は完乗となったが、列車はそのまま盛岡まで向かう。
三セクの乗り入れといえば、普通は大きな終着駅の近郊で三セクがJRに乗り入れるというのが通常パターンだが、ここはJRのローカル線が三セクに乗り入れて、ターミナル駅に行くという逆のパターンとなっている。その三セク終点が今度はJR盛岡駅を間借りしていて中々に複雑怪奇である。
新幹線の開業で三セク化されたとはいえ、好摩から先は盛岡郊外の繁忙路線なので、乗客も一気に増えて車内は立ち客でいっぱいになる。やがて左側に東北新幹線の巨大な高架が見えてきて、定刻13時58分に盛岡駅新幹線高架下の薄暗い行き止まりホームに列車は静かに止まった。
花輪線という残存中最長の未乗路線を片付けたので身も心も心なしか軽い気がする。薄暗いIGR盛岡駅ホームでひととおり写真を撮って、新幹線ホームに向かい、次に乗る新青森行きの『はやぶさ55号』を待ち受けて、東京からここまで併結されてきた『こまち55号』との切り離し作業を意気揚々と見学する。
ちびっこやオッサンやファミリーやら、みんなが群がって見ている中で私もカメラを構えるが、ふと「何かが足りない」感に襲われる。そして3秒後に気付いたのは花輪線車内でまとめた土産物のレジ袋が手元にないという事実である。心はともかく、身が軽かったのは物理的要素なのであった。
佳境に差し掛かった『こまち55号』の切り離し作業を眺めながら、必死でこれまでの行動を反芻し、花輪線の座席に荷物を置き忘れる自分の阿呆な姿を脳裏で再生する。ショルダーバッグを肩に掛けるために一瞬レジ袋を座席に置き、そのままホームに降りてしまったのである。
置き忘れた場所は分かったが、もう切り離された『こまち55号』は秋田に向け発車し、私の乗るべき『はやぶさ55号』も発車ベルが鳴り響いている。幸いにも今夜盛岡に舞い戻ってくる行程となっているので、それまでに何とか出来るだろうと咄嗟に判断し、私は新幹線に飛び乗った。
盛岡発14時15分、新青森着15時7分で新幹線の乗車時間は小一時間、この間に出来る限りの対処を試みるが上手くいかない。置き忘れた車両はJR花輪線の車両だが、盛岡駅ホームはJRに間借りするIGR所管ということがややこしい。まずはIGRのHPを見るが「JR花輪線・山田線のお忘れ物につきましては所管しておりません」と明確に書いていたので、今度はJRの窓口を調べ、盛岡駅忘れ物センターなる組織の存在まで突き止めるが電話番号が書いていない。仕方ないのでJR東日本全体を担当している「お忘れ物確認チャット」なるページに必要事項をチマチマと入力していくが、これがいちいちAIに尋ねられてる感満載のまどろっこしい代物で、やっとのことで全ての質問に答えると、その回答は「後日メールで回答差し上げます」であった。
更に念のためIGRの窓口に電話してみたが、「ただ今の時間は窓口を休止しております」との録音で、だったらどの時間に繋がるんか案内するのが筋やろが、と怒りは最高潮に達する。まぁ自分が荷物を置き忘れたのに端を発しているので怒りは筋違いなのだが。
忘れ物対応に忙殺されている間に新青森があっという間に近づき、更に追い打ちをかける悪情報が入ってくる。まぁどうにかなるだろうと高を括っていた函館本線の脱線事故が存外に大事故らしく、函館~長万部間が今日は終日運休、明日以降代替バスを検討などというけしからん情報がJR北海道のHPに掲載されている。鉄道運休が明後日まで延びれば、旅の最後を函館から新千歳まで特急北斗で移動しながら噴火湾の景色を堪能し、新千歳空港からLCCで帰るという計画が破綻してしまう。
よくよく考えてみると、忘れ物の中身は土産だけなので、このまま出てこなかっても数千円の被害で済むが、函館本線の方はLCC料金(18,000円!)をドブに捨てたうえで代替の帰阪手段を確保する必要があり、こちらの方がはるかに大問題である。
私は思考を俄かに脱線事故対応モードに切り替えるが、そんな私をまたもあざ笑うかのように新幹線の新青森到着は4分遅れる。元々7分しかなかった在来線への乗り換え時間は極小となり、私は広い新青森駅構内をまた走らされ、特急『スーパーつがる1号』(新青森~青森間は普通列車扱い)のデッキに息を切らせながら駆け込んだ。