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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#10~北海道5日旅:4日目(1)【旭川→富良野→滝川→深川→留萌】

 旭川7時40分発富良野行きのキハ150形2両編成ディーゼルカーは高校生で埋まっていた。昨日陽も暮れてから北上してきた富良野線を今朝は南下する。2022年9月9日(金)北海道周遊旅4日目の朝は平日なので、昨夜と同じく車内には賑やかな声が響いている。

 昨日の乗車は真っ暗な中をただ「移動」しただけだったので、実質的にはこれからが富良野線初乗車となる。美瑛・富良野地区には何度か来ているが、御多分にもれずクルマだったので、同じ山々の風景も新鮮に感じる。北海道らしく広々と綺麗にマス目に区画された街並みをゆっくりと走り、小まめに高校生達を下ろしてまた乗せていく。西神楽という名前の駅を過ぎると旭川空港の管制塔が見えてくるが、勿論富良野線を利用して空港に行く客は誰もいない。そもそも空港のホームページには旭川からのバスしか案内されていない。女満別と同じくいつかこういう駅から歩いて空港に行ったら面白いだろうと思う。
 8時19分美瑛駅着。その名を知らぬ人のいない一大観光地だが、乗り降りするのはみんな高校生である。駅看板の名所案内には「マイルドセブンの丘」の文字があり、十数年前のドライブの記憶が少し蘇える。

 富良野線の中心地の美瑛駅だが、列車は僅か2分停車で動き出し、次の美馬牛駅で交換のため10分近く休憩する。北海道感満載の名前だが、その由来はやはりアイヌ語で「ピパウシ~カラス貝が多くいる川」という意味だそうである。ホームにおりて外の空気を吸う。赤い三角屋根の小さな駅舎、上下のホームをつなぐ構内踏切、背後の草地との境界が判然としない半砂利のホーム、遠くに見える大雪山系と近くに見える田畑、いい駅である。小一時間もこんな駅で座っていたらさぞや気分が浄化されるに違いない。
 美馬牛駅からの山越え区間を抜けると富良野の街に入っていく。上富良野駅でまた大量の高校生を下ろすと、車窓には色鮮やかなパッチワークのお花畑が見えてくる。季節が違うのでラベンダーは咲いていないようだ。更に街並みが賑やかになってきて、9時1分に富良野駅着。

 富良野からは9時9分発の滝川行き各駅停車に乗る。昨夜何も見えなかった富良野駅構内をひととおり見渡してから滝川に向かう根室本線のホームを見ると、何とクリーム色と赤色ツートンの旧国鉄一般色キハ40形が一両で悠然と停まっていた。JRはこの車両の具体的な運転計画を公表しておらず、ここで出会えたことは僥倖としか言いようがない。
 しかし車内は淋しい。ざっとみて客は二桁も乗っておらず、まだ決まっていはいないものの、この路線の命運が尽き果てる日も近いのではないかと思った。

 しばらく走って島の下という廃駅を通過し、合わせて8キロにもなる2つの長いトンネルに入る。トンネル出口の野花南という簡単そうで難しい読みの駅から先は、かつての炭鉱地帯に進んでいき、9時42分芦別駅着。この地区によくあるパターンで、ここからも三井芦別鉄道という私鉄の炭鉱鉄道があったらしいが、車内からはその痕跡を確認することはできない。駅舎の木柱には「星の降るまち・芦別」という文字が見えた。
 三井の芦別炭鉱に対して住友の経営で隆盛を誇った赤平駅を過ぎて、10時12分に滝川駅着。旭川から特急で30分のところを富良野回りで2時間半かけてきたことになる。

 次に乗る予定の特急までは40分あるので駅外に出てみる。広いロータリーの真ん中にグライダーが展示されている。滝川にはスカイパークというのがあって、全国有数のグライダーの盛んな地だとのこと。そういうものに乗る勇気は私にはないが、飛んでいるところをゆっくりと見てみたい気はする。
 やや時間を持て余しながら函館本線のホームに行くと「先行列車の安全確認により次の特急『ライラック11号』の到着が少々遅れます」とのアナウンスが聞こえてきた。これは非常によろしくない。特急は深川までの一区間に10分少し乗るだけだが、深川での留萌本線への乗り換え時間が元々5分しかない。この乗り換えに失敗すると次の列車は2時間以上なく、後の計画が滅茶苦茶になってしまうのである。
 やがて『ライラック11号』は5分遅れで入ってきた。深川で迅速に行動できるようドア横のデッキに立つ。遅れを取り戻そうして頑張ってくれたのかどうか分からないが、深川には4分遅れの11時9分に着いた。

 留萌行きの各駅停車は違うホームにポツンと停まっていた。もうこれは恥も外聞もなく、走るしかないが、同好の輩は少なくないと見えて、みんな連絡階段をバタバタと駆け上がっていく。息せき切って留萌行きの列車に駆けつけてみると、既に古ぼけたディーゼルカーの車内には立錐の余地もなく、私は駅員にお尻を押されるという高度成長期の通勤ラッシュのような扱いを受けて辛うじて車内に押し込まれた。
 過積載状態のキハ54形留萌行きは定刻から10分近く遅れて深川を発車した。来年3月での一部廃線と近い将来の全線廃止が発表されてから俄かに盛況を呈しているとは聞こえてきていたが、平日にもかかわらずこれほどの状況になっているとは想像し得なかった。もはや写真撮影や車窓探訪などという状況ではなく、立っている姿勢の保持で精一杯である。
 それでも何とか窓の外をみてみると、ダルマ駅やちっぽけないい感じの木造駅舎などを見ることができる。途中の石狩沼田までは若干の市街地であり、来年春の廃止はまずは石狩沼田から先の区間になるが、結局は3年後に全廃しバス転換されてしまうことが既に決まっている。廃線が決まってから大繁盛というのはよくあることで、もっと早くみんなが乗っていればと言われるのもこれまた常のことである。

 石狩沼田を12分遅れで出て、6分ほどで恵比島駅に着く。この駅はNHK朝ドラで「明日萌駅」として出てきた駅で、鉄製のダルマ駅舎は上から木材を貼って木造貨車風に設えてある。「えびしま」の駅名票から少し離れた場所には「いもしあ」の文字がちらりと見えた。

 恵比島駅で若干の乗客を下ろして少し身軽になった列車は、しばらくすると山中にくねくねと入っていき、いくつかのトンネルをくぐって留萌に向け走っていく。誰もいないダルマ駅舎と線路脇でカメラを構える鉄道ファンを眺めているうちに次第に留萌川が近づいてきて、遅れをかなり取り戻した4分遅れの12時11分に列車は留萌駅に辿り着いた。

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