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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#7~北海道5日旅:2日目(2)【北見→網走→釧路】

 この旅は鉄道乗り回しが主眼ではあるのだが、折角遠い北海道まで来ているのだから観光や街巡りも少しはしたい。今日この北見駅で降りることとしたのは、次に網走から乗り継ぐ釧網本線が10時台の次は15時24分発しかなく、このまま『オホーツク1号』で網走まで直行しても結局3時間待ちとなってしまうからで、それなら北見で何か美味しいものを食べてウロウロしようという目論見である。
 北見発の普通列車釧路行きは約2時間後の13時43分発で、昼食と小散策には丁度良い。北見は玉ねぎとハッカが名産だが、申し訳ないがハッカ料理というのもピンと来なかったので他にないかと調べてみると、海鮮を盛り付けた塩焼きそばを新名物として推しているとの情報を見つけたので、昼食はこれに決めた。

 北見市はあの「ロコソラーレ」の地元で、駅前にはカーリング郵便ポストがあったり、頻繁に発着する路線バスも当然カーリングデザインだったりして中々に楽しい。常設のカーリングホールがあると駅前の観光案内板に記載されていたので、季節外れではあるが何かしら面白いものが見れるだろうと歩き出してはみたが、気温がどんどん上がってきて次第に汗ばんできた。道のりもアップダウンがあるうえに思ったより遠かったので、途中で諦めて駅方面に戻り、ホテル併設のレストランに入った。
 冷房の効いた店内で食べた「オホーツク北見塩やきそば」は、それなりの値段はしたが、ホタテ、ジャガイモ、アスパラなど地元産野菜が満載の極上の一品であった。考えれば北海道に来てから駅そばかコンビニ食材しか食べていないので、一層美味に感じたのかもしれぬ。
 結局無駄に歩いたり、レストランで長めに休んでしまったので、北見の2時間はあっという間に過ぎた。私は再びカーリング模様の溢れる街通りを歩いて駅に戻り、広いホームにぽつねんと一両で佇む古びた網走行きディーゼルカーに乗り込んだ。

 今度の列車はキハ54形で、銘板をみると昭和61年製とある。昭和・平成・令和を跨ぐベテラン選手で、しかも厳冬の土地を走行しているのだから相当な傷みようである。エアコンもなく、JNRマークの扇風機がギコギコと絶え間なく唸りながら生ぬるい風を車内に吹かせている。引退直前とはいえ、やはりそれなりのレベルであった『オホーツク1号』に比してうらぶれた感は否めないが、平日の昼間にも関わらず乗客は多く、北見~網走間は生活路線として一定の需要があるように感じた。
 ガラガラと甲高い音を立ててディーゼルカーは走り出した。北見市街は高架になっていて、おまけに非冷房で窓が全開なので、走行音が三重くらいに増幅されてけたたましい。やがて地上走行となり、アイヌ語の「シュシュ・ウシ・ナイ(ヤナギの群生する沢)」から転訛したという緋牛内駅、「ペポロ(水が多い)」を由来とする美幌駅と小まめに停車し東に向かっていく。
 相変わらずの大きな走行音と窓から射す直射日光に少々困惑していると、飛行機が視界の片隅に入ってきた。次の西女満別駅は女満別空港のすぐ近くで、地図で見ると1キロくらいしか離れてないが、駅にはトイレに毛が生えたような小屋があるだけで、これでは空港最寄り駅とはとても言えそうもない。次の女満別駅は最近流行りの公共施設一体型の小綺麗な駅舎だったが、いずれにせよ空港へ行く客は網走か北見からバスで直行するのだろう。
 女満別を過ぎると網走湖が左側に現れてくる。あまり見返すこともないだろうが、幸い左側に座っているのでシーズンオフ手前の静かなキャンプ場等の湖畔風景を動画撮影しているうちに、古参兵士のような列車は14時51分網走にのろのろと到着した。

 網走には2回来たことがあるがいずれもクルマである。最初に来たときは駅近くのラーメン屋で塩ラーメンを食べた後で北浜駅まで走り駅舎を見たが、列車で訪れるのは初めてで少々の疲れを感じながらも気分は高揚してくる。
 釧路行き各駅停車は19分後の15時10分発、釧路着は18時45分というロングランである。車両は先ほどと同じキハ54形の同じ一両編成、車内は観光客7割に地元客3割といった感じでほぼ埋まっており、私は車両最後尾のある意味では逆展望ポイントとも言える場所に陣取った。

 釧路から知床半島付根の知床斜里までは概ね海岸沿いを走行する。海に近い駅として有名な北浜駅、季節によるが色とりどりの花が咲く原生花園駅、左には藻琴湖と涛沸湖、そして右にはオホーツク海が見えるという魅力満載の区間で、鉄道ファンのみならず人気は高いが、何時ぞやの私のようにクルマで来る客が多いに違いなく、JRも三両も四両もつなぐ気はないらしい。
 すっかり晴れ上がって直射日光が差し込む車内から、過ぎていく北浜駅舎併設のカフェや原生花園を眺める。車両後方のこの場所は流れ行く風景を長く見ることができる好みの場所で、立っていて疲れは増すが、知床斜里で恐らく座れるだろうと目算を付けて頑張ることとする。
 しかしこのスケール感はやはり北海道だなと思う。海に近い場所を走る路線は本州等にも多くあるが、近いだけではなくてほぼ直線で走り続けるその距離の長さは他に比類すべきものがない。今はキラキラと波頭が光っているオホーツク海に心を奪われるが、流氷で埋め尽くされた静謐な風景も是非見てみたいと切に感じる。

 15時54分知床斜里駅着。予想に反して座席は空かず、疲労感が倍増する。少し走った清里町駅で10分超の長尺停車をしたので、ホームに降りて新鮮な空気を吸い、遠くの山々を眺めた。地元客と思しき人が「あれが斜里岳ですよ、綺麗でしょ」と観光客に説明している。小さな三角屋根と古めかしい字体の駅名票が印象的な良い駅であった。
 次第に陽が沈んでいく中を列車は釧路を目指し、山岳地帯を右に左に曲がりながら南下していく。途中の川湯温泉駅で多くの観光客が下車し、ようやく着席することができた。摩周駅手前では鹿の直前横断があって数分停車、日常茶飯事で平然としている地元客とざわつく観光客の対比が可笑しかった。
 摩周駅では更に下車する客が目立ち、しばし車内は閑散となったが、標茶駅からは学校帰りの大量の高校生が乗ってきて、大都市圏のような混み具合になる。そして以前に『釧路湿原ノロッコ号』で来たことのある塘路駅に着く頃には完全に陽が沈み、微かに見覚えのあるログハウス風の駅舎が仄かな灯りの中にぼんやりと見えるだけとなった。

 海風を受け、山を越えてひたすら走り続けた列車は7分遅れで釧路駅のホームに滑り込んだ。鹿直前横断による遅延を詫びるアナウンスがあったが、元気な高校生達は全く気にする様子もなく、ガヤガヤと喋りながら改札口を出て行った。

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