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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#22~関東圏集中旅(1)【小田原→国府津→御殿場→沼津→富士】

 2023年3月7日(火)5時38分、春には程遠い早朝の小田原はひどく寒い。まだ薄暗い中を大阪から乗ってきた夜行バスを震えながら見送り、私は大きな駅ビルに上がる階段をとぼとぼと歩いている。
 昨年秋から北海道、南東北、千葉茨城から何故かまた北海道、とJR乗りつぶし計画を密かに実行に移しているが、首都圏というか関東圏には大量の未乗区間が残っている。都会の鉄道にはローカル線とは違う良さもあるが、乗りつぶしという若干の仕事テイストもある今回の行動においてはあまり食指が動くものではない。しかしやらねばいかんことはやらねばいかんのであって、例のごとく青春18きっぷを使って、首都圏プラス関東周辺の未乗路線を3日間で一気に片づける計画を立てたのである。
 さて意外と楽しい旅になるか、はたまた罰ゲームと化すか、ブライアン・ウィルソンよろしく『God Only Knows』を口ずさみながら、まずは東海道線の6時5分発小金井行きに乗り込む。

 初日の行程は小田原から国府津へ移動し、そこから御殿場線をぐるっと回って沼津、富士と進み、富士からは身延線で甲府まで北上、甲府から中央本線で小淵沢まで往復した後は、一気に首都圏まで東進突入し、青梅線を往復し、八王子泊、というものである。明日からはJR東日本管内のほぼ都会路線に終始するが、今日はJR東海の御殿場線・身延線というローカルな未乗線もあるので心が踊る。
 小田原から横浜や都心に通勤・通学する人がどれほどいるのか分からないが、こんな早い時間から列車はそこそこ混んでいる。しかし呑気旅実行中の私は眠りこける彼ら彼女らを尻目に僅か2駅先の国府津駅でそそくさと下車した。

 国府津から箱根の北側を周回して沼津まで延びる御殿場線のうち、途中の松田~御殿場間以外のざっと3分の2が未乗である。何故中途半端に真ん中だけ乗っているのかというと、東京出張の帰途に山中湖方面に遊びに行くのに新宿から小田急で新松田、JR松田から御殿場線、御殿場からレンタカーというトリッキーな経路を辿ったからで、今考えると東海道線で国府津まで行って御殿場線に乗っていれば良かったと思うが、当時はJR完乗よりロマンスカーの優先順位が高かったのだろう。
 国府津駅での乗り換え時間が20分ほどあるので、駅近辺をウロウロする。昭和9年に丹那トンネルが開通し、今の小田原経由が東海道線のメインルートになるまでは国府津からの山まわりルートが隆盛を極めた歴史があり、かつてあった大きな機関区や「鉄道のまち国府津」を紹介する展示や記念石碑を見て回る。構内はその古の栄華に見合う広大なもので、今は最新の特急「サフィール踊り子」が留置されて出番を待っていた。

 国府津発の6時35分発普通列車5両編成に乗り込む。この列車は御殿場線を踏破して、更に沼津から東海道線に入り長駆静岡まで行くロングラン行である。静岡まで2時間半一生懸命走り続ける訳で、列車運用がどんどん細切れになっていく昨今ではこれでも中々の長距離選手であろう。車両は313系というJR東海の主力車両でさほどのレア感はないのが残念だが。
 3割ほどの客を載せた列車は東海道線に別れを告げ、富士山を左手に見ながら北上していく。今日はまずまずの天気で富士山も綺麗に見える。御殿場線から東海道線の三島以西、そこから見延線と今日は富士山が見放題予定なので焦る必要は全くないのだが、どうしてもバシャバシャとシャッターを切ってしまう。後で見たらきっと同じような写真ばかりに違いない。

 次第にその雄姿を大きくする富士山を眺めているうちに15分ほどで松田駅に到着。ここで御殿場線前半の未乗区間を終え、御殿場までは二度目の乗車となる。小田急の新松田駅はJR松田駅の目の前にあり、直通特急用の渡り線もあるが、車内からではよく見えない。
 列車は半円を描く御殿場線のてっぺんに次第に近づき、広い構内が壮観な山北駅に到着する。ここは丹那トンネル開通前の時代は大きな機関区を要する拠点駅で、山越えのための補機連結や給水作業等が行われ、最盛期には600人を越える職員が働いていたとのこと。しかし今は静かな余生を送るように山間に静かに佇んでいる。
 富士山はさらに大きく見えてくる。モータリゼーションの進展を象徴するように今やサービスエリアの名称の方が有名な足柄駅を過ぎ、7時ちょうどに列車は御殿場駅のホームに滑り込んだ。多くの人が降りるが、それ以上に多くの人が乗ってきて、車内は近郊列車並みの混雑となる。制服の茶色のスカーフが溌溂さを引き立てている女子高生の姿が多く、みんな静かに本を読んでいるのが印象的で、後で調べてみると富士山の麓にある不二聖心女子学院というカトリック系の学校であった。

 御殿場からの西側の未乗区間も残り少しとなり、富士山の雄姿はそのままに市街地が次第に拓けてくる。定刻8時1分に沼津駅着、通勤通学客がどっと降りて車内は閑散となった。停車時間が8分あるので、ホームに降りて深呼吸をしてから少し構内を歩く。蒸気機関車の時代に山北駅で連結された補機は沼津駅で切り離されていたとのことで、この駅の構内もまた広い。静岡県では静岡市、浜松市に次ぐ大きな街であり、県東部の中心都市として今も東海道線の主要駅であることには変わりはないが、新幹線の駅は軟弱な地盤を避けるために隣の三島に取られたし、今は昼間の特急列車も通らないので、やはり一抹の寂寞感を感じずにはおれない駅ではある。

 それでも長い長いホームの木造の屋根の風格は大したもんだなと感心して車内に戻ると、すぐに列車は東海道線を西に向かって動きだした。千本松原という景勝地が地図に載っているので車窓から目を凝らしてみたが何も見えない。吉原駅では工場夜景電車で最近再ブレイクしている岳南鉄道が一瞬見える。そうこうしているうちに8時27分富士駅到着、国府津から延々とお世話になった列車とはここでお別れである。以降は全区間未乗の見延線で富士山西麓を北上し、甲府まで至る旅となる。

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