進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#17~さんふらわぁ僥倖旅(3)【佐原→鹿島神宮→大洗】
14時17分佐原駅発車。おっさんの不意打ち攻撃から何とか気を取り直して、車窓に目を移す。3分ほど走って今日三度目の香取駅を過ぎると、レールは大きく右にカーブして長大な利根川橋梁を渡り、そのまま続く高架上に設けられた十二橋駅に着いた。その名前は近所に人が行き来するための小さな橋が12架けられていたことに由来しているのだそうだが、駅は地区の中心からは外れていて人影は少なく、高所らしい強風が吹き荒れているだけである。
高架上の秘境駅とも言えそうな中々に味がある無人の十二橋駅を出ると、今度は北利根川橋梁を渡って潮来駅に着く。誰もが知るあの水郷巡りの観光地で、5月にはあやめが咲き乱れる風光明媚な土地だが、ここも今日の主役は観光客ではなくは爆弾低気圧前兆の強い寒風のようである。
少々遅れながら走っていく列車は12時34分に延方駅を発車し、すぐに全長1200m余の北浦橋梁に向け進んでいく。橋だらけの鹿島線でも一番の名所で、悠々と水を湛える北浦の上を高架で渡っていく列車の風景は特に有名である。上部構造のないいわゆる桁橋というやつなので、水面からの高さとも相まって、海の上を飛んで進んでいるが如き浮遊感を堪能できる。今日のルートで最も期待していた場所で、そしてその期待に違わない素晴らしさであった。
長い北浦橋梁をゆっくりと過ぎると、まもなく列車はこれも高架構造の終点鹿島神宮駅ホームに滑り込んだ。元々の乗り継ぎ時間が8分しかないのに、結局5分延着したので、駅をゆっくり見る余裕もなく、駅名票の写真だけ撮ってあたふたとホーム向かいに停車している青白赤に塗り分けられた鹿島臨海鉄道の単行ディーゼルカーに駆け込む。向こうのドアではあのマスク警察のおっさんが同じように乗り込むのが見えて少々嫌な気分になった。
天気は少し回復してきて左から西陽が射してくる。今日初めて乗るディーゼルカーはその西陽を浴びながら北へ進んでいく。臨海地区へ分岐する貨物線と広大な車両基地を過ぎると鹿島サッカースタジアム駅が近づいてくるが、試合のない今日はあっさり通過し、荒野台という何とも言えない名前の駅に着く。駅自体は名前に反してさしたる特徴もない簡素な無人駅で、少し海側にいった所に荒野という集落があるとのこと。グーグルマップの空中写真でみると普通の住宅街のようで、どうしてそういう名前なのか調べてもよく分からなかった。
荒れていなかった荒野台駅の次は「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前駅」である。この手の長い駅名は当然狙って付けている訳だが、中々に競争が激しく、この駅名も1位から陥落したり返り咲いたりして忙しい。今は富山地方鉄道の「トヨタモビリティ富山Gスクエア五福前(五福末広町)停留場」というのが一番らしく、ここまで露骨にトップ狙いされると少々興覚めの感が出てくる。まぁ一応「東日本一長い」に修正された駅名票は撮影しておくのではあるが。
鹿島臨海鉄道は時刻表の路線図ではずっと海沿いを走行しているように見えるが、実際にはかなり内陸部に位置していて海は殆ど見えない。行き違い設備もある少々大きな鹿島大野駅を過ぎると単調な車窓に少し飽きてきた。新鉾田駅でマスク警察のおっさんが降りたことにホッとしたくらいで、後はさしたる変化もなく、少しづつ乗客の増えてきた列車は淡々と北上していく。
15時54分定刻に大洗駅着。フェリーは大洗港から出るのでここで降りればいいのだが、時間に余裕もあり、鹿島臨海鉄道を完乗したいのでそのまま終点の水戸まで乗ることとする。大洗~水戸間は通勤通学路線としての需要も多いらしく、区間運転の列車も多く設定されているようである。私の乗っている列車もここで2両増結されて、高校生達がどっと乗り込んでくる。
4両編成になった列車が発車すると、数時間後に乗るフェリーの赤い煙突が右側に一瞬姿を現すが、すぐに半径の大きい左カーブに入り見えなくなる。そしてここから水戸までは一面に広がる田んぼの中を高架橋が延々と続いていく。いわゆる絶景という類のものではないのだろうが、鹿島線の北浦橋梁にも負けない素晴らしさだと思う。もっとも「夜のピクニック」という私の大好きな映画でこの高架沿いを延々と歩くシーンがあるという個人的思い入れのせいかもしれないが。
そんな勝手な思い入れを知ってか知らずか列車は進んで行き、16時10分に終着水戸駅に着いた。JR常磐線は沿線火災の影響でダイヤが無茶苦茶になっていて、駅構内は大混乱していたが、ここではJRに関係のない私はそんな混雑をすり抜けて改札を出て、大洗行きの切符を買ってすぐにまた改札を通過した。
大洗に戻る16時32分発の列車はまたまた帰宅する高校生で混んでいた。途中駅で乗っては降りる多くの若者達を一方で眺めながら、もう一方では先程勝手に感動した田んぼの中を走る高架の風景にまたひとしおの感慨を覚える。16時49分、今日の鉄道旅の終着大洗に到着。
大洗駅は車両基地もある大きな駅だが、下車した私が駅名票や留置車両などを撮影していたら、あっという間に地元民は何処かへ消えてしまい、すぐに駅は閑散となった。改札に行くと、アジアっぽい外国人カップルが駅員と何やら延々と話をしていて通ることができない。駅員さんはスマホの自動翻訳機能まで駆使して「貴方の切符では追加の乗り越し運賃が必要だ」と伝えようとしているらしいのだが、中々埒が明かないようである。こちらも埒が明かなくなってきたので、申し訳ないがカップルの横を無理矢理通って、孤軍奮闘している駅員氏の横に切符を置いた。
自衛隊と「ガールズ・バン・ツアー」の広告で賑やかな大洗駅だが、陽の沈みかけている駅前ロータリーには人っこひとりいない。何とはなしにウロウロしていると先程改札で揉めていた外国人カップルが出てきて「フェリー、プリーズ」と言ってタクシーに乗り込み消えていった。タクシー乗り場がガランとし、連絡バスもないので、私はフェリー乗り場まで30分歩いた。