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カマガミサマ研究メモ① カマガミサマとは?



2024年8月30日に大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレで、「ミニカマガミサマをつくろう」ワークショップを行いました。
その際に参加者の方にお配りしたメモを共有しておきます。

※メモなので、出典の明記が不完全な部分などがあります。ご了承ください。


カマガミサマとは


秋山郷に伝わる、木像の神様。基本2体一組。家によって姿形や、性格などが様々に変化する、謎の多い神様。縄文の布「アンギン」研究の第一人者、滝沢秀一さんが非常に興味を持っていた神様でもあり「アンギンと釜神さま(1990年刊行、国書刊行会)」という本を出版している。集落の人々は、1月3日頃、「釜神様の年取り」という行事で、アワメシ(昭和10年代頃までの主食)で握ったおむすびに藁や葦の棒をさして釜神様にお供えしていた。「釜神様の年取り」の行事は新潟県・長野県にかなり広く分布しているが、木像釜神は津南町や栄村の周辺に集中している(全集落で行われているわけではない)。

釜神様の様々な姿

  • なじょもんで展示されているカマガミサマたち(写真)

  • 津南町史 資料編 下巻 pp.716-717 には、様々なカマガミサマがイラストで載っている。

  • 使う木は、集落によって様々であるが、その土地に古くからある種の木を用いる。成物の木が多いとのこと。(栗や栃が多い) 書籍 「津南学」 尾池みどりさんのリサーチより

  • めでたいもの(こんぶや、五葉松)を持たせておしゃれをしたり、自分が使う大事な道具(クワやスキ)をもたせたりしているものもある。鉤のように良い感じに曲がった木は囲炉裏に鍋を引っ掛けたりするためにも使える貴重なものだったらしい(フィールドワークより)。


津南町歴史民俗資料館にあるカマガミサマ。御神体に巻き付いている紙だけをカマガミサマとして飾っている家もあり、大赤沢集落では紙の御神体が多かった。


見倉集落の山田数雄さんの神棚。カマガミサマが中央右側に祀られている。
五葉松(おそらく前倉集落にある五葉松?)稲わら、紙垂、昆布、木で作った鍬や鋤が縄で巻き付けられて一緒に祀られている。

カマガミサマの神格 

(書籍より抜粋 おそらく 滝沢秀一 「越後妻有の民俗」より)
集落の人々は、よくわからないがと言いながらも「火の神様」「かまどの神様」「百姓の神様」「家の神様」などという意見・・・生活的な神格
子沢山で貧乏なため、正月に年取りができないので3日に年取りをする。
農家の主婦とその生活を反映して、このような性格に作り上げたと想像しても無稽な説明ではない(民俗学者 武田久吉のことば)

お供え物について。なぜおむすびに棒を刺すのか? 代表的な言い伝え

  1.  釜神さまは貧乏な上に子どもが大勢で、自分でムスビを食べることができなかった。それで、子どもにベロベロを持たせて遊ばせておいて、そのすきに自分も食べた。貧乏で正月に年取りができないので3日に年取りをする。

  2.  釜神さまは貧乏な夫婦神だったが、夫婦別れをした。カカ(妻)は金持の家へ後妻に入ったが、男の神様は乞食になった。ある日男の乞食神は、前のカカの家とも知らずにモライ(物乞い)に行った。カカは、前の亭主を気の毒に思ってムスビの中へゼニをそっと入れて握ってやった。ところが前の亭主の乞食神はあわてて食ったものだから、ゼニが喉につかえて死んでしまった。それで、その時から中にゼニが入っていないかと棒を刺してみるのだそうだ。

  • お供えしたおむすびは、女の人が食べるのが一般的(秋山は、若い女性には気が強くなるとか縁遠くなるとかいって食べさせなかった)。

  • 正月は様々な訪問客のために料理やおもてなしに大忙しだった女性たちがやっと休めるということで、小正月は「女の人の正月」と言われているそう。(集落の人のインタビューより)→この話は、カマガミサマが忙しくて正月に年を取れず、3日に年取りをする話とイメージがつながる。

  • おむすびの他に、紙に道具のリストののような文字に絵を添えて供えることもある (津南町史 資料編 下巻 p719 に図がある)→カマガミサマ 紙版との共通点(釜神様と真ん中に書き、両側に願い事や供え物を書いて貼るものも、同じくカマガミサマと呼ばれている)

小赤沢では、ベロの鉤(かぎ)を、それぞれ内側に向けて、「釜神様のオチ(家)」といったそう。
全国的に霊前に一膳飯(お椀に盛ったご飯にお箸をたてたもの)を供える風習があることから、もとは祖先の供養と関係があるのではないか。(滝沢秀一「越後妻有の民族」より)

神体の更新


ドウロクジン焼きの日に燃やすことが多いが、神体を割って箸や串にしたり、囲炉裏で焼いて来年の天気を占ったりする。

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作って考えてみる


カマガミサマは「こう作りなさい」という決まった形がない。それぞれの生活スタイルや好みに合わせて柔軟性が土地の人の孤独感を癒やしたり生活に明るさをもたらしていたのかもしれない。自分の家にいてもらいたくなるカマガミサマを作ってみながら、どんな存在だったのか想像してみましょう・・・!

作り方

  • 今回用意したのは栃の木(展示しているカマガミサマと同じで、見倉集落から採取)。

  • 決まりはないのですが、近くにすむ凄腕の木工職人 山源木工の 石澤哲さんから、面白い栃の皮のむき方を教わったので、その方法をためしてみるのもおすすめです。見本をもらいました。見本はサワグルミとサルナシです。

  • ※この方法は、採取した木の時期によって難易度が違うそうです。冬ー6月までに採取した栃の木をよく乾燥させた状態がアクが出ずにベストとのこと。夏を過ぎると水分を沢山吸うので、乾燥しにくくシミができやすいそうです。木の皮と、芯のあいだに、水分がどれぐらい溜め込まれているかがポイント。うまく剥けないときは、茹でたりすることもあるらしい。

  • 皮をむいたら家でとにかく天日干しなどで3日以上乾かすこと!乾燥が足りないとシミができます。

家にいてほしい先祖や、会えないけどそばにいて欲しい存在を想像して作りましょう

皮むき

  • 金槌で叩きます。しばらく叩くと皮だけ剥けてきます。難しいときは水をかけて湿らせると良い。

  • ヌルヌルしたのを水と食器洗剤を使って洗い流します。

  • 細かいのはたわしなどでこすると落ちたりします。

時間があれば・・

  • 複数体作ってみたり、昆布や松の葉っぱや道具を持たせてみたりして、おしゃれします。

  • 紙のバージョンも作ってみます。展示してあるものを参考に、何をお供えして、どんな願いをするかを想像して書いてみましょう。

  • 紙が乾いたら、木のカマガミサマに結びつけてもよいでしょう。

長くなったので、作ったときの感想や考察はまた別の記事にします。

参考文献

  • 津南町史 資料編 下巻

  • アンギンと釜神さま 滝沢秀一著、国書刊行会、1990年

  • 越後妻有の民族:私のメモ帳 滝沢秀一 著、三協社、2018年

  • 津南学〈Vol.3〉特集 めざせ!苗場山麓ジオパーク 津南町教育委員会 、2014年

  • 津南学 〈vol.4〉 - 五感を通して津南をみる 特集:苗場山麓植物散歩 津南町教育委員会、2014年


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