ウォッカを制する者がロシアを制する『Russian Life Simulator』
突然ですがみなさん、ロシアと聞いてどんなイメージを想像しますか？
「寒い」「でかい」「ウォッカ」「クソゲー」「おそロシア」……いろいろ出てくるかと思います。ひょっとしたらソ連時代やプーチン大統領の政治手腕から連想して、なんとなくネガティブな印象を抱いている人もいるかもしれません。
成田からウラジオストクまでの直行便で2時間半と、ヨーロッパの中ではもっとも日本に近い国であるはずなのに、どことなく怖そうで近寄りがたい国。ロシアにはそんなイメージが少なからずついて回っているような気がします。
今回はそんな不思議の国ロシアをテーマにしたゲームを紹介したいと思います。
アルコールの香りが漂うストアページ
今回紹介する『Russian Life Simulator』はその名の通りリアルでハードコアなロシアの日常を描いたゲームなのですが……その前にまずはストアページに記載されたゲーム概要をご覧ください。
うーん、このワザとらしいロシア感！ たまりません！
おそらくウォッカを飲みながらやっつけ仕事で書いたのでしょう。ページの節々からむせかえるようなバカゲー臭とアルコール臭が漂います。ユーザーレビューに辿り着くまでの間に悪酔いしてしまいそうな雰囲気に加えて、機械翻訳がカオスに拍車をかけているのも最高。泥酔しているようで何一つ嘘が書いていないのも何気にポイント高いです。
いったいどんなゲームなのかまったく想像がつかなくてゾクゾクしますね！
ウォッカ主義経済国家へようこそ！
ゲームはプレイヤーがロシア人として生を受けた瞬間から始まります。
古びたマットレスではありません。ロシア人です。
二次元のロシア人キャラのようにクールでミステリアスな銀髪碧眼美少女とかに生まれると思ったら大間違いです。
さて、ロシア連邦国歌のエンドレスループに包まれながら誰がどう見てもロシア人として生まれたあなたは、この寒さ厳しい過酷な大地で生き延びるために2つのものを集める必要があります。
“お金”と“ウォッカ”です。
みなさんもご存知のように、ソ連崩壊と共に社会主義経済が終わりを迎えた今日のロシアでは、貧富の格差を埋めるためにウォッカを通貨代わりに使用するという健全かつ画期的な経済体制（ウォッカ主義経済）を採用しています。
もちろんロシアルーブルも従来通り通貨として使用できますが、リアルでハードコアなロシアの日常において生活必需品を買うのに紙幣や硬貨で支払おうとすることは、観光地以外の買い物で100ドル札を出すのと同じぐらい疎まれる行為です。
そのためか、本作では最初からウォッカボトルでしか買い物ができないようになっています。
買い物や着替えを行うことでウォッカ収集効率がアップするので、どんどん散財してウォッカ経済を回していきましょう。
一方で年金と称されたロシアルーブルは、一定金額を貯めることで学校や職場などのステージに移動することができます。平たく言えば人生のノルマです。次のステージに移動するほどウォッカ&年金収集効率がアップするだけでデメリットはまったく無いので、どんどん新しい世界に足を踏み入れましょう。
以上がリアルでハードコアなロシア社会を生きる一般ロシア人の日常です。
つまりこのゲームの目的は「より良い生活のためにウォッカを集めること」といたってシンプルです。
『Russian Life Simulator』はそんなごく普通のロシア人の生活をクリッカーゲームという形で描いています。
ひょっとしたら「シミュレーターなのにクリッカー？」と思った非スラヴ圏の人もいることでしょう。ですがタイトル詐欺だと声を荒げる前にちょっと考えてみてください。
クッキーを焼きクッキーを生産しクッキーで世界を覆いつくすクリッカーゲームの金字塔
かの有名なクリッカーゲーム『Cookie Clicker』では、クッキーの生産を通じてグランマたちのハートフルで波乱に満ちた人生をユーモアたっぷりに描いていました。『Russian Life Simulator』もそれと同じく、ウォッカの収集を通じてリアルでハードコアなロシア人の生涯を描いているだけに過ぎません。
つまりクリッカーゲームとは極限までデフォルメした人生の縮図。シミュレーションゲームも人生ゲームも本質的にはクリッカーゲームと変わらないといっても過言ではないので、何一つ不思議なことはありません。
ところでクリッカーゲームといえば、放置中も数値のインフレを楽しむことができるような機能（オートクリックなど）が搭載されているものも多いですよね。まあリアルでハードコアなロシアの日常ではオートクリックなんて甘っちょろい機能は存在しませんけど。
人生において頼れるのはいつだって己の肉体のみ。ここロシアは努力と友情さえあれば勝利を手することができる漫画じみた世界ではないのです。
また一定回数クリックすることで時間が経過し、歳を取ります。しかし何歳に達したらゲームオーバーになるとか、老いるごとにクリック効率が悪くなるといったペナルティは一切ありません。
秦の始皇帝が求めた不老不死の薬の正体はウォッカだったという説もあるように、ロシア人は何世紀経っても決して衰えることのない驚異的な肉体の持ち主です。生涯現役とはまさにこのことですね。
スピリタスのように刺激的なイベントの数々
ゲームといえど人生は人生。何一つ変わることのない平凡な日々などありえません。空模様や人の心のように移ろいやすく、良いこともあれば悪いこともあります。
このゲームにおいても、アディダスのように魅力的でスピリタスのように刺激的なイベントがあなたの人生に彩りを添えます。
突然プーチン大統領が躍り出したり！
突然ロナウ自慰ニョが躍り出したり！
選挙イベントがあったり！
大統領からオファーをいただいたり！
月にロシア国旗を立てたりクレムリンを建てたり！
友達と一緒にウォッカを集めたり！
亡命したり！
こんなにも揚げたてのピロシキのように香ばしい体験ができるのは『Russian Life Simulator』だけ！
さあ、君も100円と引き換えに宇宙の半分と同じぐらい不思議に満ちたロシアの生活を体験しよう！
感想
……とまあ、ウォッカの代わりにオーデコロンを一気飲みしたかのような悪酔いレビューはここまでにしましょう。
「SFの90%がクズである」というスタージョンの法則のように、Steamユーザーの間には「『○○シミュレーター』というタイトルの激安ゲームの90%はクズである」というクソゲーの法則がまことしやかにささやかれています。
それを踏まえたうえでこの『Russian Life Simulator』はというと、十中八九“90％のクズ”の部類に入るゲームです。
ゲーム自体はよくあるクリッカーゲームですが、ステレオタイプのロシアネタで笑いを取ろうとしたことを除くと特に面白みもありません。
味気ないシステム。雑なグラフィック。無駄に多い実績と機械翻訳。BGMはほぼロシア連邦国歌のみ。全実績解除まで1時間もかからない。
同じ価格のネタ系クリッカーゲームでも『My Name is Mayo』の方がずっと丁寧に作られていますし、なんなら無料ブラウザゲームの『Cookie Clicker』の方がずっとボリュームがあって面白いです。
身も蓋もないことを言うと、10人中8～9人が「クソゲー」と吐き捨てるようなゲームです。
ですが、私はどうしてもこのゲームを嫌いになれないというか……たとえクソの沼に両足突っ込んだ自称バカゲーであったとしても、視界にすら入れたくもない正真正銘のクソとは思えないのです。
雑なグラフィック。カオスなフレーバーテキスト。ロシア国歌のループ再生。たしかに何もかもがチープで馬鹿げています。
しかしその安っぽさが気に入ったというか……何故だか不思議な魅力を感じてやまないのです。
例えるなら安酒のようなもの。品質なんて二の次。安かろうまずかろうですが、とりあえず酔っぱらうことはできます。そう、手っ取り早く酔いたいときにいいんですよ。このゲーム。
腰を据えてがっつりとゲームに集中したい日があれば、1プレイがサクッと終わるゲームで気晴らししたくなる日もあります。時には、笑いを求めて変なゲームを起動したくなる日だって。
そんなときに癒してくれるのが『Goat Simulator』のようなバカゲーを楽しむことだったり、怖いもの見たさの低価格ゲーム漁りだったり、ロシア国歌を聴きたいがための『Russian Life Simulator』の起動だったりするのです。
みなさんも安酒を飲んで悪酔いしたような感覚を味わいたいときに備えて、ライブラリに常備してみてはいかがでしょうか？
まあ酔うためだけにこのゲームに100円払うぐらいなら、スーパーでストロング系缶チューハイとか買った方が手っ取り早く酔えるし満足度高そうだけどね！
こんな記事に投げ銭するぐらいならレンガかフラフープを買った方が有意義だぞ。