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トライブ紹介 モバイルレジデンツ【2/2】

前回に引き続き「モバイルレジデンツ」ついて、5. ダウンスケーラーの価値観、6. バンライフの価値観、7. インタビューから発見したインサイトの一例についてご紹介します!


5. ダウンスケーラーの価値観

ダウンスケーラーのひとりは自分でタイニーハウスを作っている女性です。

彼女たちは「自分の所有物をそぎ落とす作業で、何が自分に本当に必要なのか考える」作業をして、自分の人生をクリアにしていくことを目指しています。

持ち物だけではなく、自分が本当にお金をかけたいものは何なのか、自分の本当に大切にしたいものは何なのかを考えるすべのひとつとして家を小さくしているのです。

このセグメント共通の特徴は「働いて家賃を払い続けることに疑問を持っている」という点です。たとえば賃貸であれば敷金礼金と家賃、更新費などがかかり、それを一生継続しなければいけません。

一方、タイニーハウスであれば数十万から数百万で作ることが可能です。対象者は400万かけてタイニーハウスを作成中ですが、普通の社会人であれば数年で払う見通しが立つ金額といえるでしょう。

ダウンスケーラーたちは「数年以上先のことや見通しの立たない未来のことは絶対決めたくないし、そこに自分の負担をかけることはしない」という信念をもっています。

タイニーハウスは車輪がついているため、場所にも固定されることはありません。これまで家を買ったらその場所に一生住まなくてはいけませんでしたが、いざとなったら他県に移動が可能なため、「未来が縛られないですむ」という共通の価値観があります。

賃貸の場合も毎月支払いが発生するため、購入して永久に払い続けるストレスから解放されたいと考えています。

また、ダウンスケーラーに共通の価値観として「必要最低限の収入を得られればいい、家に住むために仕事がやめられないという状況を作りたくはない」という考え方がありました。

ダウンスケーラーのひとりである〇さんは、現在、タイニーハウスビレッジを作ろうと考えています。タイニーハウスビレッジとは、中心にリビングやお風呂、トイレなどがある母屋があり、その周りに各々のタイニーハウスを置くというシェアハウスのタイニーハウス版です。

さらに、ダウンスケーラーたちは、リビングなどに公共性を求めている人が多いという特徴があり、プライベート空間でもなく、まったくのパブリックでもない中間のような空間に居心地の良さを感じるといいます。

6. バンライフの価値観

バンライフは生活圏内が日本全国と広く、タイニーハウスと価値観は似ていますが、とくに異なるおもしろい点は、彼らには知り合いの家や知り合いの運営するホテルやゲストハウスという「拠点」が存在することです。彼らはバンで生活しているため、お風呂などは銭湯などを利用する日もあれば、その拠点を転々として使用しています。

インタビューの中で「自分たちはいろんなコミュニティをつなぐ蜂のような役割」という発言がありました。拠点に行ってコミュニティを作り盛り上げていく人もあれば、人をつないだり、情報を受け渡したりしていて、それらの行動がネットワーク的な役割になっているとも考えています。

また、「今日はここに行きたいという気持ちに正直でいたい」という点はアドレスホッパーと、生活に必要な設備をあえて所有しないことで、他人との繋がりを得ているという点はダウンスケーラーと共通しているといえるでしょう。

7. インタビューから発見したインサイトの一例

彼らモバイルレジデンツというトライブの分析から得られたプロファイルのひとつをご紹介すると、一般的な生活者は家などの固定資産を手に入れたり定職につくことで、「変わらない安定を手にいれる」と考えていますが、彼らは大きなものを買ってしまうことにリスクを感じるという、安定の捉え方の違いがありました。

彼らはあとになって変更にできなかったり、決められた未来に対してリスクを感じているため、たとえば今後の家の在り方として、収入や家族のライフステージに合わせて段階を経て大きくしていくというような設計が求められると考えられます。

アドレスホッパーのYさんからは「家はまずミニマムサイズでスタートで初めて、ライフステージごとに大きくしていきたい」という発言がありました。自分の収入状況に合わせて大きくするなど、リスクヘッジしながら身の丈にあった所有をしていきたいと考えています。

さらに、家を固定することのリスクとして、天災や離婚、近隣トラブルなどという大きな話から、将来的に自由に移動できないこと自体をストレスと捉えている特徴があげられます。

このプロファイルから導きだされた5年後の生活者行動変化仮説は「未来のことを決定して備えることで安心するのではなく、将来を変更可能にすることで安心を得る」というものです。

アーリーウォーニングサインとしてすでに登場しているサービスが、残車両本体価格の一部をあらかじめ残価(=3年後や5年後の予想下取り価格)として据え置き、残りの金額を分割で支払いするトヨタのプランです。3年後、5年後のプランの終了時には、「同じ販売店で新し いクルマに乗り換える」か「クルマをご却」すれば、そのクルマの支払はそれ以上は発生しません。

このように、今後は大きな買い物をする際、最初に全額支払ったり、ローンを組んだりするのではなく、サブスクリプションサービスや返却したいときに返却できるというようにモノの購入の仕方は変化していくと予想されます。

また、もうひとつの大きなプロファイルは「プライベート空間やもともと住まいに求めていたものをパブリックな場所に求めるようになる」というものです。

たとえば、家の中に勉強する空間が欲しければこれまでは家の中に書斎を作っていましたが、今後は家の近所に居心地のいいカフェがあればそこが自分の書斎になりうるため、わざわざ自分の家の中に作る必要はありません。

トライブからは「自分の家に冷蔵庫がなくても「コンビニが自分の冷蔵庫だと思えばいい」という極端な発言がありましたが、世の中のあらゆるものがそのようになっていくことで、

家の機能はどんどん外に拡張されていき、プライベート空間も拡張されていくという風に考え方が変化していく可能性があります。

ただし、トライブたちは家の機能を拡張すると同時に、「ひとりきりになれるプライベート空間や個室にいつでもアクセスしたい」と考えているため、ホテルにそれを求めたり、バンという個室を持ち歩いているのです。

アーリーウォーニングサインとしては、タイムズなどのレンタカーを移動のためではなく、昼寝や授乳のための個室として利用しているという例などがあげられます。

このようにプライベート空間とパブリック空間の境界が曖昧になり、外の空間に生活の場が広がって混じっていくと同時に、ひとりになれたり落ち着く空間に即時アクセスできるようにすることもますます求められていくでしょう。

モバイルレジデンツの「持つことには価値はなく使うことに価値がある」という価値観が、今後一般生活者にも広がっていったとき、自分で何かを所有せず体験を手に入るため、公共空間やシェアリングサービスはさらに活用されるようになっていきます。

一方で、家の機能が外に拡張されていくと、これまでのように所有空間だけを見て住まいを決めることはできません。たとえば近所にコミュニティがあり、リビングの代わりになるかどうか。家の代替になるものが周囲にあるかどうかが、住まいを決める際の重要なポイントになっていくでしょう。

こうなってくると、家というモノとしての空間だけではなく、周辺の環境全体との繋がりをどのように作っていくのかが、今後の住宅メーカーやIT産業に求められることでありビジネスチャンスともいえます。

また、これら現象を加速させる要因の一つが「キャッシュレス化」です。コンビニの冷蔵庫から飲み物を取り出しても、自動決済されれば、消費者にとってもはやそれは自分の家の冷蔵庫から取り出すこととなんら変わりません。このように街の中全体が家のようになっていく未来がやってくるでしょう。


今回は「モバイルレジデンツ」についてご紹介しました!
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