四国八十八ケ所 約1200km通し歩き⑬室戸岬。ハクビシンが出るホテルで日の出を見る。11日目
通しの歩き遍路をあきらめた日。室戸岬で泊まったのは、“岬〇〇ホテル”という、御年90歳(昭和9年開業)、国の登録有形文化財という昭和レトロなホテルだった。
海岸にほど近く、水平線から上る日の出と奇岩乱礁が見える部屋で人気らしいが、私が泊まったのは、訳あり(海が見えない)部屋だった。
まあ問題無い。外へ出れば海はそこ。恐らく太陽もそこから上るに違いない。
おっと、まず洗濯機の場所を聞いておこう。
「もう暗いので見えないと思いますよ。」
む?暗くて見えない?洗濯機が?
場所は、木戸を出た外にある小屋の中で、確かに真っ暗だった。
「ハクビシンが入ってくるので、必ず、かならず!扉を閉めてください。猪も出ます。多分、水を飲みに来ているのだと思います。頼みますよ!扉は必ず閉めてくださいよ!」
恐らくハクビシンに侵入され、ずいぶんと嫌な思いをしたに違いない。“必ず、かならず扉を閉める”と固く心に誓う。
ヘッドランプを付けて来た私を見て、ほっとした顔のスタッフが頷く。(お、それなら大丈夫だ!という意の頷きに間違いない。)
さて、木戸を開け、っと。開かない。恐らく築90年の木戸は、開け方にコツがあるに違いない。ふっふっふ。私は築50年の家に住んでいるので、よーく知っている。扉をこんな風にちょこっと上げてから押す、ガシ!駄目。ちょいっと下げてからっ押すっ!ガツッ!開かない。ガシ!ガツッ!ガッ、ガッ!
困った。夕刻時の最も忙しいであろうこの時間に、スタッフを呼ぶわけにはいかんし…。
よし、次は斜め下方にグイッとっ!ギャーツ痛えー!!あっあー、手の甲から血が流れてる!でも、開いた。よかった、文化財を壊さずにすんで。私の手は治るから大丈夫です。(念のため、私はたまたま自宅の扉の開け方のコツを勝手に試してしまっただけで、普通の人であれば、怪我する事も無く、スッと扉が開いたに違いないと確信しています。)
無事に洗濯を終え、風呂に入り、手の消毒もして、明日の日の出の準備万端で床につく。
翌朝、玄関を出ようとすると扉が開かない。
またか!?いや、昨日と違うみたい。よく見ると鍵がついて無い開き戸。むむ?なぜ開かないのか?ありゃ、な、なんと!閂(かんぬき)がかかっている!すげーさすが文化財!私、初めて閂を外すかも。いや、しかし私が外していいのか、閂?
でも、私以外の人は、部屋から日の出が見られるけど、私は外に出ないと見れない訳あり部屋だし、きっと許してくれるはず。扉は閉めます。ハクビシンは入れません!
日の出は美しかった。ああ、空海も見たであろう朝日を浴び、ホテルに戻ろうと振り返ると、そこには!
浴衣の前をはだけて、日の出を眺めている人々がいた。朝日に照らされ佇んでいる人々が、いた。カーテンが、開いていた。全室。(プロジェクトX風の声でお願いします)
もしかしたら、そんなのよくある光景だよって言われるかもしれん。でも、二階建て木造建築(文化財)は美しかった。ジブリの映画のラストシーンのようだった。
いやー、いいもん見せてもらったわー。
(あれ私、何を見に来たんでしたっけ?空海さん…。)