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中国が改革派記者の董郁玉氏に懲役7年判決 日本大使館を「スパイ組織」と認定

中国の裁判所は11月29日、中国共産党系新聞「光明日報」の論説部副主任を務めた董郁玉氏(62)に対して、スパイ罪で懲役7年の判決を言い渡した。董氏は2022年2月に北京市内で日本大使館員との会食後に拘束され、この際、日本大使館員も一時拘束・取り調べを受け、日本政府が外交官の地位などを定めたジュネーム条約に違反すると厳重抗議する事態となった。その後、2023年3月にスパイ罪で起訴された末の判決となった。

日本大使館をスパイ組織、大使・総領事をエージェントと認定

董氏は著名な改革派知識人として知られる。2002年には党の業績に関する論評国家ジャーナリズム賞を受賞しているように、共産党の権威に反対することなく党のガバナンスを改善する方法そ探ってきた。また、20年以上にわたり日本やアメリカのジャーナリスト、学者、外交官との交流を通じて、中国と諸外国の架け橋としての役割を果たしてきた。日本では慶應義塾大学や北海道大学で客員研究員を務め、アメリカではハーバード大学の名門ニーマン・フェローシップを授与されるなど、国際的な評価も高かった。

2024年11月29日、北京市第二中級人民法院(地裁)が下した判決では、日本人外交官8名の名前が挙げられ、その中には元駐中国日本大使の垂秀夫氏や現上海総領事の岡田勝氏も含まれていた。しかし、判決文は董氏の弁護士や家族には共有されず、口頭でのみ伝えられた。証拠として採用されたのは、垂氏が董氏に贈呈した富士山の写真や、董氏夫妻を招待した夕食会のメニューなどであり、具体的な情報提供や金銭の授受に関する言及はなかった。

裁判所は日本大使館を「スパイ組織」と認定し、垂氏らの外交官を「スパイ組織の代理人」として名指しした。この判断に対し、董氏の家族は声明を発表し、「中国当局が外国大使館をあからさまに『スパイ組織』とみなし、元日本大使とその外交官仲間をスパイ容疑で告発したことに衝撃を受けている」と述べた。

中国外務省の毛寧副報道局長は29日の定例会見で董氏の判決について問われると、「中国は法治国家であり、犯罪は法に従って裁かれる」と述べるに留めた。

一方、日本の岩屋毅外相は同日の会見で「政府としてのコメントはない」とした上で、「我が国の在外公館での外交活動は、外交官として正当な業務を行っていると認識している」と述べた。また、アメリカ国務省も同日声明を発表し、「不当な判決だ。言論の自由や報道の自由を守らない中国の姿を浮き彫りにしている」と非難。董氏の「ジャーナリストとしての功績や両国間の人的交流への貢献を称賛する」とした上で、「即時かつ無条件での釈放を求める」と表明した。

反スパイ法が正当な外交・文化交流を萎縮させるおそれ

この判決の背景には、2014年に施行され、2023年7月に改正された中国の反スパイ法がある。改正反スパイ法では、「国家の安全もしくは利益を害する」行為の定義が拡大され、「国家機密」に加えて「国家安全・利益に関わる文書、データ、資料、物品」の提供も処罰対象となった。同法の影響は、単なる二国間関係の悪化にとどまらず、法的リスクを伴う構造的な問題として、長期的に日中関係を制約する要因となるおそれがある。

第一に、日本の外交活動への重大な制約となる可能性が高い。中国当局が日本大使館を「スパイ組織」と認定したことで、今後、通常の外交活動や文化交流さえも制限されるおそれがある。

第二に、日中間の民間交流にも大きな影響を及ぼすことが予想される。董氏の家族が指摘するように、この判決により中国人は外国大使館や外交官との接触に慎重にならざるを得なくなる。特に学術交流や留学などの教育分野での交流に萎縮効果をもたらすだろう。

第三に、日中関係全体の悪化につながる懸念がある。董氏の拘束は既に日中関係に冷え込みをもたらしているが、今回の判決はさらなる関係悪化を招く可能性がある。特に、中国が提唱してきた「人間同士の外交」の実質的な終焉を示唆するものとして、両国間の相互理解と信頼醸成に深刻な打撃を与えることが懸念される。


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