令和4年度北海道大学理学部数学科第3年次編入学試験合格体験記(2021年8月23日実施)
1.自己紹介
こんにちは。私の名前や出身校・現在の所属はTwitterを見てください。この度北海道大学理学部数学科3年次編入試験に合格いたしましたので、その合格体験記を書きます。
ただし、根拠のない個人の感想なども多く混ざっていますので、鵜呑みにすることのないようお願いします。
2.高校時代・学部1年の成績
編入の合格体験記では高専での順位を書くのが慣例のようですが、私は4年制大学から編入試験を受験したため大学入試の成績と埼玉大学での成績を書くこととします。
【大学入試時の成績】
2019年
センター81.3%
京都大学理学部前期試験(不合格・160点差)
埼玉大学理学部数学科後期試験(合格・開示なし)
2020年
センター85.2%
京都大学理学部前期試験(不合格・60点差)
埼玉大学理学部数学科後期試験(合格・開示なし)
東京理科大学理学部第一学部数学科(センター利用・一般共に合格・開示なし)
慶應義塾大学理工学部学門Ⅲ(不合格・開示なし)
大学での成績(GPA)
1年前期:2.67
1年後期:1.97
2年前期:1.74
なお、私は北海道大学以外の編入試験は受けていません。
3.編入の志望動機
「北大は自然と調和の取れたキャンパスになっていて、学習環境が非常に良いと感じたから」と志願理由書には書きましたが、書かなかったこともたくさんあり、むしろそっちが本音だったりするのでそれを以下に書きます。
まず編入試験を受けることになった経緯ですが、話は学部受験まで遡ります。
私は元々京都大学理学部を志望していました。京大理学部は2回受験しており、現役の時は160点差・駿台お茶の水校で1浪後は60点差で不合格となりました。後期は現役・浪人共に埼玉大学理学部数学科を受験し、2回合格しました。
ここまで読まれた方は「なぜ後期試験で北海道大学を受験しなかったのか?」と思われるのではないでしょうか。
その理由は、冬の北大受験は2日前現地入りが定石だが、北大後期試験の二日前は京大前期の合否発表日で、もし北大を受けるなら空港で合否発表を見ることになり、メンタル面が厳しいと判断したからです。
北大は京大と並んで私が進学したい大学の一つでしたが、やはり京大と比べると優先度は圧倒的に京大の方が高かったので迷わず北大を切り捨てました。
さて、ここからが北大の編入試験を受けた主な理由です。
1浪の受験時、コロナウイルスが流行始めなんと北海道大学は後期試験の合否をセンター試験の成績で決めると発表しました。センター試験の成績で合否が決まるならば、合否発表日など気にする必要はなく、後期試験は北大に出願すれば良かったわけです。蓋を開けてみると私のセンター試験の点数は北大後期数学科の合格点を上回っていました。何もせずに出願だけすれば受かっていたチャンスをみすみす見逃してしまったのです。
私は大学一年の前期に塞ぎ込んでいた時期がありましたが、それはもちろん憧れだった京都大学を諦めてしまったというのが1番の理由ですが、北海道大学に進学するチャンスを逃してしまったことへのショックも一因となっていました。
こうして「行きたいわけではなかった大学」に通うこととなった私に「行きたかった大学」へ行けるチャンスが舞い降りてきました。それが、この北大の編入試験だったのです。
自分語りはこの辺にして試験の内容を見ていきます。
試験1日の動き方を書いた概要編と試験の内容に踏み込んだ詳細編に分けて書いていこうと思います。
4a.試験について(概要)
試験は午前10時から実施される筆記試験(1次試験)と、午後14時から開始される口述試験(2次試験)に分かれます。
筆記試験と口述試験の間の時間は教科書やスマホを見ることができる自由時間となっています。自分の席で昼食を取ることも可能です。
【1次試験について】
問題用紙は表紙も含めてA4で3枚配られました。問題は大問4問構成で、1ページに2問印刷されていました。
解答用紙としてA4用紙が大問1つにつき1枚という形で合計4枚配られました。また、下書き用紙としてA4用紙がこちらも同様で大問1つにつき1枚合計4枚配られました。
【2次試験について】
募集要項には筆記試験について問うと書いてあります。聞いた話だと筆記試験の解き直しをさせられるらしいです。「らしい」と書いたのは私は解き直しは要求されなかったからです。受験生を受験番号順に2グループに分けて、受験番号順に試験場に呼ばれました。一人あたり20分と事前に言われましたが、10分程度の人もいれば30分近い人もいました。
以下ではタイムテーブルに沿って私がどのような行動をしていたかを書いていきたいと思います。
【9時】
指定された集合場所に到着。15分までドアの前で待たされた。なんと、ここでスマフォを昼飯を買った近くのファミマに置いてきたことに気がつく。周りを見ると私服の人が僕一人で居心地の悪さを感じていた。
【9時15分】
受付開始。体温とかを書いた紙を提出した。会場は入って右手の階段を2階に登ってすぐのところにある部屋だった。廊下を挟んで試験場の向かい側の部屋が口述試験の部屋だった。
【9時30分】
スマフォをファミマに取りに帰る。どこで置いてきたか検討がついていたのでパッツモでしたわ。
【10時】
試験開始。下書き用紙と解答用紙と問題用紙が全部A4だった上に製本されてないのでごっちゃになりそうで怖かった。問題をパッと眺めて「あれ、事前にネットでゲットした過去問とだいぶ異質だぞ...?」「あー、大学の期末試験みたいだな」と思った。
各大問への感想は別に書く。
【12時】
試験終了。大問1、2、4は解けて、大問3は色々工夫したけどうまくいかなかった。大問3の広義積分だけどうしたら良いのかわからなくて白紙で出した。ここから解き直しタイムである。
ひとまず、解けなかった広義積分について持ってきた数学書で調べてみたところ東大出版会の解析演習に丸々同じ問題が載っていた。その後、理工系の微積分学という埼玉大学の解析学概論という授業の指定教科書にも同じ問題があった。後者の方が丁寧な解説だったのでそれをそのまま写した。コーシーの収束判定法を使う問題だったので、定理のステートメントを再び確認した。
大問1、4は解き直しても結果が変わらなかったのでおそらく完答。大問2は固有値を求める計算で少し間違えたことに気がついた。議論自体はいつも大学のレポートで使ってる言葉遣いで書いたのでそこまで問題はないはず。
【12時30分】
ファミマで買ったおにぎりを食べる。
【12時45分】
やることがなくなったので、解き直したものを今度は紙に清書した。
【13時】
解き直しに関してはやることがなくなったので、口述試験の対策を始めた。私が大学で使っている教科書から口述試験でそのまま聞かれそうな定理や定義をピックアップしたリストに沿って紙に書いてチェックした。このリストは勉強法のところで公開する。
【13時50分】
試験官が入ってきた。
【14時】
口述試験開始。私の予定開始時刻は15時。
【14時30分】
1番目と2番目の人が一瞬で終わった。
【15時】
3番目の人が20分を超えて面接をしていた。クソ長くて変だなぁと感じた。
【15時05分】
試験官に呼ばれた。ここからの内容については別に書く。
【15時35分】
時間を見ればわかるように、30分もかかった。バイバイ北大。
その後は、「俺まじ暇なんだよ、お前北海道遊びに来いよ!」と試験数日前にマリカしながら通話でボヤいていた高校同期の北大生に挨拶もせずに札幌をさることにちょっぴり申し訳なさを感じながら急いで空港へ向かった。
多分だけど、口述試験の時間は受かった人は30分弱で落ちた人は20分以内なんじゃないかと思う。20人程度受験して5人受かっているから、450分かかる計算だ。二手に別れるので1グループ225分だ。一番遅い人は6時近くの開始なのでは...?
4b.試験について(詳細)
今度は試験の問題について書いていきたいと思います。
問題と解答のpdfはこのページの一番下に貼っておきました。
【一次試験】
大問1
(1)
いきなりn次で出題してきた。具体的な計算で来ると思っていたので予想外だった。A²=Enって条件は必要だから書いているんだろうし、とりまAx=λxの両辺に左からAかけりゃなんとかなるだろ〜くらいのノリで実行してみたら一瞬で解けましたね。
(2)
結論は問題文に書いてあるんだから、Axのxにぶち込んであとは力技。
(3)
(2)で固有値-1の方だけ示すのどう考えてもバランス悪いんで、固有値1の方の固有ベクトルも探してみました。固有値が1と-1なのでどうせEnとAの足し引きなんじゃねぇかな?と思って(En+A)xを代入したらすぐに見つかりました。
リーチ一発とまでは行かなかったけどね。あとはみつけた固有ベクトルをそれぞれ1/2して、それぞれをy1 y2としてあげて終了。
大問2
ひとまず積分計算してみた。線型写像には行列が対応するはずだけど、TはRからRへの写像になっているので1×1の行列?と混乱した。一旦パスして他の問題を解いた。戻ってきて、Tの表現行列に関する問題だと気がついた。積分計算は済んでいたのであとは機械的に処理。(固有多項式の計算ミスをしてしまし、固有値を間違えてしまった。)
大問3
(1)
なんだっけこれー...となって多分解けないだろうと察した。この時大問2をスキップした後だったので2問連続で解けなくてかなり焦った。ひとまず高校時代の恩師であるシェ木³先生が常々言ってた「困ったら部分積分ダァ!」を実行した。しかし進展がない。まぁ、どうせこんなの持ってきた数学書のどっかに書いてあるっしょ。などと思いながら(2)へ。
コーシーの収束判定法をちゃんと使えないのは数学科としてはお恥ずかしい限りです。
(2)
お決まりの置換をして進めるも最後「これでいいんだっけ?」となり誤魔化して終わり。まぁ、数学科の試験なら0点つけられそうな内容を書いてしまいましたわ。
大問4
学部入試以来の立体の断面図を書いて積分するやつ。1浪の京大2次でも似たようなのが出題されたけど断面図を書き間違えてしまったのを思い出した。慎重にチェックを何度もした。学部入試で死ぬほど練習したので4問の中では一番すらすら解けた。
【二次試験】
聞かれた質問は全部答えられました。習ってない分野については配慮していただきました。1次試験は2問完答、1問最後に計算ミス、1問完全誤答という感じで、2次試験はちょっと怪しいところはありながらも全部答えられました。
完全な個人の感想ですが、口述試験で解き直しをさせられるのは「本当は理解してるんじゃないか?」という人を取りこぼさないためなんじゃないかと思います。そして、筆記試験ができていた人は「本当に受からせていいのか?」を確かめるために制限時間を大幅にオーバーしてたくさん質問してくるのではないかと思います。
5.試験の勉強法
大学からの編入で、しかも誰にも編入することを言ってなかったので1人で勉強をしていました。
編入試験の存在は1年の時から知っていましたが、特に何も対策はしてませんでした。2年のゴールデンウィーク明けに編入試験を受ける決心をし、そこから勉強を始めました。
私は大学受験時に1浪しておりそこで高校数学はかなり勉強していたので、高校数学の復習は特に必要ありませんでした。そのため大学で学んだものだけを勉強(復習)することにしました。また、大学では線形代数(2次形式まで)、微分積分(陰関数定理の一般系まで)、集合と位相(開集合系まで)、常微分方程式論(連立線形微分方程式まで)を編入試験までに学びました。
編入について頼れる友人も先生もいないので、ひとまず募集要項を見たところ「大学初年度レベルの微分積分と線形代数について問う」と書いてありました。
編入試験は北大に入って授業についていけるかどうかを確かめる試験のはずだから、北大の初年度の授業内容に合わせて勉強することにしました。
まず、北大の理学部単位規定とシラバスを検索したところ、初年度に学ぶのは「微分積分学Ⅰ・Ⅱ」「線形代数学Ⅰ・Ⅱ」「数学概論」だということがわかりました。
【微分積分Ⅰ・Ⅱ】
シラバスを見ると1年間で極限から重積分までやり切るカリキュラムだということがわかります。
同じ内容を埼玉大学では2年かけて講義を行うため、かなりのスピードです。
シラバスの備考欄に「計算中心」とあるので、理論はあまり扱っていないと判断し、微分積分の編入対策は計算を重点的に行うことにしました。(理論はどこでやるの?という疑問に対しては後述します)
【線形代数学Ⅰ・Ⅱ】
シラバスを見ると、私の在籍する埼大数学科の線形代数の講義よりも速いスピードで講義が進められていることがわかりました。埼大数学科では論理記号について学んだり、ベクトル空間の講義で双対空間に足を突っ込んだりとかなり理論寄り・数学科向けの講義を1年から展開しているため、北大よりも遅いのだと思います。線形代数も微分積分と同様に計算を中心で講義が展開されていると推測しました。
よって、線形代数も計算を重点的に行うことにしました。
【数学概論】
途中級数が混ざっていますが、これは微分形式で書かれた微分方程式を解く時に整級数展開したり、逐次近似法で解く時に極限を求めたりするためだと思われます。微分方程式は範囲に入ってないので無視で良さそうですね。
主に計算ができれば良さそうということがわかりました。しかし、一応数学科の入試なので理論の部分も知らないと口述試験もある関係で合格は厳しいと思われます。
計算と理論を分けて、何を使って勉強したかを書いていこうと思います。
【微分積分】
「新版 演習微分積分」(寺田文行・坂田ひろし共著)
計算に関してはこの参考書だけを使っていました。例題から出そうなものを抜粋して解きました。解いた問題一覧は以下のとおりです。
理論に関しては以下の本を使いました。
「理工系の微分積分学」(吹田信之・新保経彦共著)
埼大数学科の指定教科書です。非数学科の人は通読するのは厳しいかもしれません。講義と併用して使ったらちょうど良かったです。ベクトル解析・重積分以降は読んでいません。一言一句教科書通りに暗唱できるようにチェックした定義・定理一覧は以下のとおりです。
【線形代数】
「線形代数学」(川久保勝夫著)
埼大数学科の指定教科書です。線形代数はこの本以外は使っていません。理論も計算も押さえられる本です。11章の二次形式まで読みました。この本の例題と章末問題から抜粋して計算練習をしました。解いた例題・章末問題一覧、暗唱できるようにした定義・定理一覧は以下のとおりです。
ここでの定理はどちらかというと問題を解くために正確に覚えておくべき定理かもしれません。
【過去問】
残念ながら北大は過去問を公開していません。しかし、はこさんという方がnoteで去年の問題を書き起こしたものを配布されていたのでありがたく使わせていただきました。他には、九州大学と東北大学の編入試験の過去問を取り寄せて解きました。九大と東北大の編入試験の解答は公開されていませんが、こちらも前述のはこさんが配布されていたものを活用しました。
↓はこさんのnote
微分積分と線形代数は大学の試験のたびにちょこちょこ勉強していたので、ある程度の知識が最初からありました。そのため、まず大学の指定教科書軽く読み直しました。
次に、読み終わったところで出そうな問題と出なさそうな問題の選別に入りました。そして、あとは抜粋した問題をひたすら解けるようになるまで何度も解き直しました。
抜粋した問題が全部解けるようになった時点で九大と東北大の過去問に移りました。過去問を解きながら理解の甘い定理について教科書で調べるという作業を繰り返しました。
6.最後に
長々と書いてきましたが、一般的な大学の数学科が指定教科書にしている本の定理や定義のうち頻繁に使うものをすらすら言えるようにして、普通の演習書に載っている基本問題が解ければ良いのではないかと思います。
私は四年制の大学の数学科に在籍しているので高専から受験した人とは少し違った数学科ならではの視点で体験記を書けたんじゃないかなと思います。
何か質問等ございましたらTwitterのDMまでご連絡ください。
最後に私が作った筆記試験の解答と問題を書き起こしたものを載せておきます。どうぞご自由にお使いください。解き直しの時間に作ったものを参考に記憶を探りながら書き直したので合ってるかはわからないですけど。
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