タロットの歴史 パート3 マルセイユ版
Your Secret Advisor, Ms. Chloeです。
今日もよろしくお願いします。
さて、北イタリア地方で生まれたタロットカードは、イタリアの地で楽しまれていくわけですが、16世紀初頭にフランス版が出てきます。この背景には、1494年のチャールズ三世率いるフランスによるイタリア侵略が関係しているとされています。イタリアルネサンスの終焉ともいわれる出来事です。この侵略は1494年から1527年まで続きました。フランスが北イタリアに侵攻することにより、タロットゲームもフランスにもたらされ、広がったというわけです。
フランスにタロットが入り、独自のフレンチ・スタイルのタロットが確立されていきます。マルセイユ版タロットです。
Tarot de Marseille マルセイユタロット
フランスのイタリア侵略により、フランスにもたらされたタロット。カットされていないマルセイユ版タロットのシートが見つかったのは、イタリア、ミラノだとされています。つまり、マルセイユ版はフランスのイタリア侵攻の最中、イタリアで生まれたということになります。フランス版独自のイラストがどんどん生まれてきます。
このタロットがなぜイタリア版と区別されていたかというと、月のカードにザリガニが描かれ、星のカードにひざまずく女性が描かれ、塔のカードには雷が塔に落ちているところが描かれている・・・このような描写はイタリアのカードには描かれていなかったからです。
マルセイユ版タロットは時代と製作された場所によってさまざまなバリエーションがあり、細かい絵柄や人物、色など、地方によっても違いがあります。マルセイユ版は一つだけではないのです。ここでは、代表的なものを少し紹介したいと思います。以下に挙げるタロットデッキはいずれも『マルセイユ』スタイルで、復元版も出ています。芸術作品としてのタロットの紹介となると、色使い、人物、印刷メーカー、国などなど細かい部分を上げ出すとキリがないので、アートとしてのタロットデッキは別の記事にまとめたいと思います。今回は主なものだけ挙げておきます。
Tarot de Paris
マルセイユ版の先駆けとなったのは、1557年にGeoffery Catelin により作成された Tarot de Parisとなります。このカードではタワー(塔)のカードが La Foudre (雷)、スター(星)のカードには、天文学者がコンパスを持っている様子が描かれています。
Jean Noblet
1650年に、Jean Nobletがパリで作成したマルセイユ版。このバージョンがいわゆる最初のマルセイユタロットと言われています。
Jean Dodal
1701年にLyonでJean Dodalにより作成されたマルセイユ版。このデッキの特徴の一つは、World(世界)のカードがキリストの姿であることです。
Pierre Madenié
1709年にDijonのPierre Madanieにより作成されたマルセイユ版。
Nicholas Conver
1760ー61年にNicholas Converにより作成されたマルセイユ版。現在、おそらく一番市場に出回っているタロットです。
Jacques Viéville (思い込みでタロットを見てしまうと!?)
1650年にJacques Viévilleにより作成されたタロットですが、これは思わず印刷ミス!?と思わせるようなカードがあります。
いわゆる、「X II 吊るされた男」のカードを見てみましょう。
Hanged Man(吊るされた男)は、Vieville Tarotでは、男の足が下になっています。しかし、カード番号はしっかり『XII』と上部に印刷されていて、数字が逆さまではないので、元々このようなデザインだ(このタロットにおいては、吊るされた男の頭が上で足が下)、ということも言えるのです。その可能性は否定できません。
まさか・・・それは吊るされた男とは言えないのでは?
ライダー版タロットから勉強された方はそう思うでしょう。
しかし、カードナンバーは書かれていますが、『吊るされた男』のカード名がVieville Tarotにはありません。吊るされていないかもしれないですよ。飛んでいるかもしれないです。これを見て、「あぁ印刷間違いだな」と、みなさんは思うでしょうか?
それこそが盲信の道に進んでいく危険な思い込み・・・かもしれませんよ。
では、一枚一枚「吊るされた男」のカードを見ていきます。
Vieville Tarot - カード名の表記はない。カードナンバーの表記は正しい。
Dodal Tarot - カード名の表記が逆さま。カードナンバー表記は正しい。絵の男はVievilleとほぼ同じ(肩から指が見えている)。
Madenie Tarot - カード名の表記が逆さま。カードナンバー表記は正しい。絵の男はVievilleと同じではなく、肩から指が見えていない。絵の男はConver Tarotとほぼ同じ。
Conver Tarot - 現在、よく市場に出回っているタイプのマルセイユ版。ライダー版タロットも同じ形態。男は足を括られて吊るされている。
この4枚のカードを見てみると、一番右側の、Conver TarotのLe Pendu(吊るされた男)が一番馴染みのある姿ですよね? もちろん、その理由は、まず現代において、ライダー版タロットの、Hanged Man(吊るされた男)のイメージがもうすでに一般に広まっていること。そして、今、市場に出回っているいわゆる「マルセイユ版タロット」は大体、このConver Tarotが元になっているからです。吊るされた男のイメージが出来上がってしまっているのです。
しかし、上記のカード一枚一枚見てみるとおかしなことに気づくはずです。
一体何を思って、「ミスプリント」「間違い」だと思うか、です。
もうすでに、私たちの意識の中にライダー版タロットの「吊るされた男」のイメージがあるからこそ、頭が上に向いていると「違う!」となるのではないでしょうか?
もしかして、空に向かって浮かんでいるのかも知れないですよ。
そして、Vieville Tarotは、カード名の表記もないので、空を飛んでいるのか、吊るされているのか、実際、はっきりしないのです。意味を深くしようと思えばそれも可能です。
そもそもマルセイユ版タロットも18世紀までは占いという目的ではなく、ゲームカードでした。この「吊るされた男」のカードはミスプリントとも言えるし、カードメーカーが遊び心でひっくり返したとも言えるし、このデッキは「空飛ぶ男」という意図があったのかもしれない。色々な憶測ができてしまいます。
しかし、エソテリックとして複雑に占星術やカバラの意味を当てはめてしまうと、この頭が上か下でも意味が変わってくる・・・裏の裏の意味が編み出され、ますますミステリアスで不思議なものに仕立て上げることもできます。だからこそ落とし穴があるのです。ある時から「これが正しい」と言い始め、それが「正しい」ものになってしまうことがある。そうすると、違うものが出てきた時に、「間違っている」ということになり摩擦が生まれる。受け入れられなくなることもあります。しかし、真実はわからない。
結局、あなたが思った解釈をしていい、ということになるのです。つまり、絶対的なものはタロットにはない、ということです。
お読みいただきありがとうございました。
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