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貸家からの立ち退きをせまられていた、あるおばあさんの物語
今回は貸家からの立ち退きを迫られていた、あるおばあさんの物語を紹介したいと思います。
私の会社、株式会社セカンドライフ・ラボは、高齢者専門の不動産会社として、多くのシニアの方々の住み替えを支援してきました。
2022年9月のある日、一人の貸家オーナーさんから、貸家の売却依頼を受けました。その貸家にはおばあさんが住んでおり、使用貸借の形で無料で貸し出されていたのですが、すでに立ち退きが決まっているとのことでした。
おばあさんは80歳を超えた小柄で優しげな方でした。オーナーさんの話によると、彼女はオーナーの叔母にあたり、オーナーの父の弟の嫁にあたるとのこと。もともとオーナーの父親と弟は仲が良く、父親の代からこの貸家を使用貸借で貸していたそうです。しかし、父が亡くなり、オーナーが貸家を相続したことで、売却の決断をすることになりました。
おばあさんにはすでに立ち退きの話が伝えられており、本人も了承して新しい住まいを探している最中でした。目安として半年後に退去する予定で、私は売却手続きを進めるために物件の現地調査を行い、おばあさんと直接お話しする機会を得ました。
おばあさんと対面すると、彼女はとても丁寧な口調で対応してくださり、私の質問にも真摯に答えてくれました。お話を伺う中で、彼女の住まいに対する深い愛着が伝わってきました。
おばあさんは約50年間、この貸家で暮らしてきました。現在は40代の息子さんと娘さんと3人で暮らしており、息子さんは正社員として働いています。しかし、長年住み慣れた家を離れることに対して強い未練を感じており、新しい住まいを見つけるのにも苦戦しているとのことでした。やはり、高齢になると環境の変化は大きな負担となり、心の整理がつかないことも多いのだと実感しました。
私は後日、おばあさんの息子さんともお話しすることになりました。その場で私は思い切って提案をしました。
「貸家から退去するのではなく、オーナーさんからこの貸家を購入することを考えてみてはどうでしょう?」
一瞬、息子さんは驚いた表情を見せましたが、すぐに真剣な面持ちになりました。私は続けて説明しました。
「もちろん、購入するとなると住宅ローンの支払いが発生します。しかし、新しい住まいを借りても家賃がかかるわけですから、月々の支払いが必要になることに変わりはありません。それならば、住み慣れた家にそのまま住み続けられる方が安心ではありませんか?」
息子さんはしばらく考え込んでいましたが、最終的にこう答えました。
「オーナーさんが許可してくれるなら、ぜひ購入したいです。」
私は早速オーナーさんにこの話を伝えました。すると、オーナーさんは「それが可能ならベストだ」と快諾してくれました。実は、オーナーさん自身も高齢のおばあさんに立ち退きをお願いすることに多少の後ろめたさを感じていたようです。そのため、親族である息子さんが購入してくれるのであれば、より良い形で解決できると考えたのでしょう。
その後、息子さんは自身が勤務する会社のメインバンクである銀行から住宅ローンを組み、貸家を購入することになりました。手続きは順調に進み、無事に契約が完了しました。
この結果、貸家のオーナーさんは売却を実現でき、おばあさんとその家族は長年住み慣れた家でこれからも暮らし続けることができるようになりました。双方にとって最善の解決策となり、オーナーさんもおばあさんも感謝の言葉をかけてくださいました。
「本当にありがとうございます。まさかこういう形で解決できるとは思いませんでした。」
おばあさんの息子さんも、安堵の表情でこう言いました。
「母をこれからも住み慣れた家で過ごさせてあげられることができて、心から嬉しいです。」
私自身も、「良い仕事ができた」と心から満足しました。単に不動産を売買するのではなく、人の人生に寄り添い、最適な解決策を提案することこそが私たちの使命だと改めて感じました。
これからも、「安心で豊かな老後を実現する住み替えの提案」を通じて、高齢者が健康で豊かに生き生きと暮らせる社会の実現を目指し、尽力していきたいと考えています。
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