第一回 宮尾節子賞の発表
第一回、宮尾節子賞が12月24日に決定いたしました。
かとうたか氏(北海道・札幌)・ikoma氏(東京・都区内)・
浦邊力氏(東京・都区内)・市川茜氏(東京・神津島)の四名(順不同)です。おめでとうございます。
各受賞者へ贈ることばを、お読み頂ければ幸いです。
かとうたか 殿
あなたは、人々が先の見えないコロナ禍で暗澹とした気持ちで日々を過ごし、時に荒む気持ちから暴言を投げつけてしまったり、心ない行為でお互いを傷つけあったりするなかで、人の心を失わず淡々と、落ち着いて普段の暮らしを続ける姿を、見せてくれています。
それは、ほんの少し創意を凝らした料理であり、自分のための心をこめたお弁当作りであり、疲れた自分を温かく明るくもてなす部屋の明かりだったり、花を添えることだったりです。わたしは、あなたに学びます。ひとを大切にするように、自分を大切にすることの大事さ、尊さを。そのことによって、穏やかに慰められていく自分自身がきっと、他のひとをも大切にする心の養分を蓄え、その方法を学ばせてくれるのだと思います。さらに、その料理やお弁当に、そして贈り物にそっと添えるあなたのことばも、素敵です。
ツイッターに日々あげられる、料理と言葉と暮らし方。そこには贅沢も特別もない、あなたの平凡な普段通りがあるだけかもしれません。だけど。ここにはこころがあり、ここにはことばがある。人間が人間らしく暮らすとはこんな暮らし。そして、こんな言葉。百年にいや何百年に一度の災難に遭遇した人間が、では何をすればいいかと気を動転させて右往左往したり、神経をぴりぴりと尖らせていがみ合ったりするなか。
まずは力を抜いて、落ち着けばいいことを。そして、目の前の暮らしを大切にすればいいことをあなたの日々に学びます。たとえ、力を失くさずにはいられない失意や、立ち上がれないほどの落胆や傷心の日々があなたの人生に訪れて、それが今のあなたの姿のことのはじめにあったのだとしても――。世界の遅れてあなたに続く人びとの失意や落胆の、良き範になり美しい標べとなることを想えば、あなたの経験した試練はいつの日か必ずや幸いの道に繋がることでしょう。それをわたしは信じるものです。
あなたは、あなたの手から作り出すものによって、日々のささやかな暮らしのそばに、いつでも表現できる世界があること、そしてちょっと言葉を添えることによって、いっそう世界は味わい深く豊かに生まれ変わることを、多くのものに知らしめました。よって、ここに宮尾節子賞を贈ります。
受け取って頂ければうれしいです。
*たかさんの、ツイッターはこちらです。↓
浦邊力 殿
あなたは、毎日しっかり体を使って働き、がっつりうまい飯を食べ、通りすがりのロックンローラーとしてアピア40を始め各所で旺盛にミュージシャン活動を続け「9時間半で113曲完全熱唱ギネスシンガー」としてもその名を挙げました。また、年に一度あなたの「自分の歌を自由に歌うことこそが、民主主義を守る」という清々しい言挙げの元に開催する、国会前ロックフェス「イットクフェス 」では
100組以上の音楽家や表現者を国会周辺に一同に集め、多くの者に「自分の歌を自由に歌う場」すなわち「表現者の民主主義を守る場」という表現の場を与え続けています。
また「イットクフェス 」開催にあたっては、その事前準備にも配慮に配慮を重ね、近隣住民への心配りや警察署との折衝などに何度も何度も労を惜しまず足を運び、丁寧な交渉をくりかえし苦情や要望に真摯に対応し、また出演者の人権を守るための見守り弁護士隊も配備されています。こうしてあらゆる状況への想像力を駆使し、演る側も演られる側も双方が気持ちよく力いっぱい、そして誰にも忖度なく思いの丈の演奏や発表ができるよう、孤軍奮闘し奔走する姿は、神々しさすら感じ敬意を払わずにはいられません。
国会を取り囲むロックフェスティバルの形を借りた、抗議行動である「イットクフェス 」の掲げる「反抗声明」はこうです。「未来のことはわからない。でも、未来がよくなって欲しいと願う。」このようにはじまります。ちょっとびっくりするぐらい、ごく普通の誰もが持つ思いであり、人びとのあたりまえで平凡な願いです。
「でも、願うだけじゃ叶わないから、少しでも良くなるように努力する。」とその努力の一歩で、平凡な願いを実現するために路上に、国会前にと飛び出した、非凡なロックンローラーがあなたです。さらに、その一歩は怒りのためであるより、「未来が自分の喜びであるようにしたい。」という喜びへの一歩であるところに、あなたならではの人柄の温かさが滲み出ているところが、素晴らしいです。
そのようなあなたの率いるフェスであるからこそ、演者の仲間が「警察官の皆さんもお疲れさま」と声掛けすることも躊躇しないし、警備の人がときどき足でリズムを取っている姿を見かけたりもするのです。
全身びっしりタトゥーだらけで、目つきが悪く鎖がジャラジャラのイカツイ格好で、見た目がこんなに怖い(失礼!)ひとたちが、どれほど紳士的で胸には熱い血が通い、人情味のある好人物であるかを、わたしは何度も「イットクフェス 」で垣間見ました。しかしながら、理不尽な権力に向かっては、容赦無く力いっぱい
「俺の自由はヤツラにゃ、やらねえ!」とシャウトするのです。
今年は、コロナの感染拡大により開催が危ぶまれるなか、万全の感染対策を行ってフェスを決行し表現者の民主主義を守り、一人も感染者を出さずに無事イットクフェスを終えたことは、共に素晴らしいことです。あなたの活動がさらに多くの人びとの知るところになることを願って、ここに宮尾節子賞を贈ります。
受け取って頂ければうれしいです。
*浦邊さん関連サイトはこちらをご参照ください。↓
ikoma 殿
あなたは、自身の所属するハードコアバンド「BROKEN LIFE」のボーカルとして精力的に活動する傍ら、「あらゆるジャンルの壁を壊す」のことばの元に「ART・MUSIC・EVENT・ACTION」を発信する基点として「胎動LABEL」を創設。ラップ・MCバトルなどヒップホップ系にビジュアル系・パンク系と幅広くあらゆる音楽シーンから、短歌・俳句・詩の朗読や漫談・即興話芸にいたることば文芸のあらゆるシーンまでを、縦横無尽に駆け巡り。
詩人・歌人・芸人・音楽家とそれぞれに活動の拠点を持ち発信を続けながらも、決してお互いに交わることのない分断された世界で、くっきりと住み分けていた表現者たちを、その軽やかなフットワークとその人懐こい笑顔でもって、ことば通り「ジャンルの壁を壊し」一同に集まる舞台を提供し続けています。あなたのその怖いもの知らずの(笑)アクションこそが、本来そこに立ち向かわねばならないはずの表現者が自ら陥っていた悪しき「分断の世界」に、まっすぐに立ち向かう眩しい姿でした。
人びとの心に感動を与え、人びとの暮らしを豊かにしてくれる文芸の世界。その音楽や詩歌や演芸の演者たちは、今このコロナ禍という未曾有の事態に遭遇し表現の場を失い、危機に瀕しています。また彼らに居場所や舞台を提供するライブハウスや会場や大小ホールもまた、休業や閉店を余儀なくされ、つぎつぎと灯りが消えていく現実も目の前にあります。
そんな落胆や失望の暗い声が飛び交うなか、いとうせいこう氏が3月に立ち上げた「MDL(ミュージック・ドント・ロックダウン)」という、音楽家や音楽を楽しむ人びとを封鎖しないプロジェクトの一環として、あなたは詩人・平川綾真智氏とともに「MIDNIGHT POETS――詩人たちのオールナイトMDL」というインターネット上での、オープンマイクイベントの配信を毎土曜深夜に(時に翌昼まで!)開催。巣篭もり中の多くの表現者にたのしい活躍の場を与えています。
また。あなたは、この11月には江戸東京博物館・大ホールにて「胎動LABEL2020」として神門・狐火両アーティストのリリース・パーティを兼ねた、大規模なオープンマイク・イベントを開催しました。その舞台にはMIDNIGHT POETSの仲間を含め総勢60組の演者が登場し、リアルな場での声と人を結び、人と人のうれしい繋がりを実現させました。
感染対策のため、東京中を奔走し(まるで刀狩りをする武蔵坊弁慶みたいに!)出演者用マイク60本を調達したことは、コロナ禍の「生駒弁慶談」としてのちのちまで語り継がれることでしょう。さらに、観客全員にフェイスシールドを配布するなど徹底した感染症対策を行い、おかげで素晴らしい舞台と感染者ゼロのイベントの成功を成し遂げました。
あなたの誰をも受け入れていこうとする姿、人と人を繋ごうとする姿、分断を超え表現の場を守ろうする姿、その姿はときに悪ガキ(失礼!)のようであり、ときに慈悲深い仏のようであります。あなたの姿に大いに励まされ、おおいに教えられます。よって、ここに宮尾節子賞を贈ります。受け取って頂ければうれしいです。
*ikomaさん関連サイトはこちらをご覧ください。↓
市川茜 殿
茜さん、あなたを知ったのはいつの頃でしたでしょうか。もう何年も前のことでした。たまたま友人が送ってくれた荷物のなかに、手作りで手書きのカレンダーが入っていました。「NPO法人潮彩の会」制作のものでした。
その中ではじめて、心が洗われるようなあなたの詩に出会いました。わたしが茜さんのことばが大好きだと伝えると神津島出身の友人が、茜さんの詩を見つけるたびに送ってくれました。詩の原点を知らされるような、茜さんのことばの清らかさ可愛らしさにいつも心を打たれました。
いちばん最近のものは、といっても、これも何年も前のものですが、こちらの神津島特産「あしたば茶」の袋に添えられた「あした/あしたば/はえてくる」の、ことばも大好きです。ことばの並びも、歌うようなリズムも、とてもいいです。この短い詩とこの文字も絵もよくて、お茶がなくなっても袋が古くなっても、どうしても捨てられません。わたしごとで恐縮ですが、わたしは「明日戦争がはじまる」という詩で話題にしてもらった詩人です。わたしの物騒なあしたの詩にくらべて、
茜さんのあしたの詩は人びとに希望を伝える詩でした。
あした
あしたば
はえてくる
――茜
神の島
神津島には
摘んでも 摘んでも
摘まれても 摘まれても
げんきに 明日の葉っぱが はえてくる
明日葉がある
明日ということばの葉っぱがある
そんなふうに、わたしには読めたのでした。わたしも茜さんのような詩が書けるようになりたいです。
あなたは、神津島村地域活動支援センター・潮彩の会において、さまざまな作業のかたわらで、カレンダーに詩を書いたり、あしたば茶にことばを寄せたりの表現活動をされています。その詩は、ひとびとの胸の奥にあるやさしさに触れてくれます。また「あした あしたば生えてくる」ということばも、あしたばで元気になるあしたの姿や、豊かな神津島の自然の姿を想像することで、コロナで不安な暮らしをする人々の気持を、明るくしてくれるように思います。そしてきっと、あなたの清らかで愛らしいことばに、多くの人々が心洗われることでしょう。よって、ここに宮尾節子賞を贈ります。受け取って頂けると、うれしいです。
令和2年に、茜さんの暮らす神津島は、国際ダークスカイ協会(IDA)により、日本で2番目の「星空保護区」と認定されたそうですね。きれいな星空の下で、きれいな詩を書いてまた読ませてくださいませ。
*茜さんの通う、神津島・潮彩の会についてはこちらをご参照ください。↓
(茜さんの姿もちらほら拝見できます^^)
*茜さんの詩は、潮彩の会の仲間や職員さんとの日々の暮らしや、
温かなまなざしに守られ包まれて、生まれてきていると思います。
茜さんのことばを活かしてくださり大切にしてくださる、潮彩の会の
みなさんに、詩を書く仲間のわたしからもお礼が言いたいです。
みなさん、ありがとうございます。
***
以上を持ちまして、第一回宮尾節子賞の発表を終わります。
この賞は宮尾個人が一年に一度贈らせてもらう、個人の賞です。
来年もたのしみにして頂けるとうれしいです。
みなさんのご期待にこたえ、あるいはご期待をうらぎり、
わたしもたのしみながら、一生懸命贈らせていただきます。
たまおくりの、ように
わたしのてわたすよろこびが、だれかのよろこびになり
てからてへ、たのしくひろがっていくように、
がんばります。
ささやかな賞を
あたたかく見守って頂ければ幸いです。
贈らせてもらって、ありがとうございます。
宮尾節子拝
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*宮尾節子(みやお・せつこ)プロフィール
詩人。高知県出身。飯能市在住。2014年SNSで公開した詩「明日戦争がはじまる」の爆発的な拡散で各種メディアで話題になる。既刊詩集『くじらの日』『かぐや姫の開封』『妖精戦争』『ドストエフスキーの青空』『恋文病』『明日戦争がはじまる』『宮尾節子アンソロジー 明日戦争がはじまる』『牛乳岳』(電子書籍)・写真詩集『せっちゃんの詩1・2・3・4』。「日曜詩人学校」「前橋文学館 ことばの学校」「劇団こまつ座」「69の会」「SLYP」「福島詩祭」「UPJ6」「ことばのNEWTOWN 」等でワークショップ・朗読・講演・詩の講座・トークを行う。『文藝飯能』(飯能市生教育委員会発行)にてジュニア詩選者担当。Pw連詩組主宰。近年は、いとうせいこう is the poet・よしだよしこ・中川五郎等音楽家たちとのコラボによるポエトリーライブを各所で行い、ジャンルを超えた詩の世界を展開中。第10回現代詩ラ・メール賞を受賞。クラウドファンディング達成により出版した最新詩集『女に聞け』が、週刊文春WOMAN 創刊一周年記念号で〝世界〟を知る読書の1冊に選ばれる。