マンガ好きなら令和の手塚治虫の金言を見逃すな!
はじめに
コロナショックの影響もあってか、多くのマンガが無料解放され、これまでよりも一層マンガというものが私たちの生活に欠かせない存在になってきたなと個人的に思っている今日この頃。せっかくだからこの機会に一気に読んでみるかと数多くのマンガを求めてスマホを開き、「つくづくマンガって面白いなぁ」と毎日スマホの画面を親指でスクロールし続けてやや腱鞘炎気味な日々になっている。みなさんはどうだろう。
しかし、改めて、なぜマンガって面白いんだろうか?というそもそもな疑問が改めて、今更のように、ふつふつと湧いてきた。面白いものは面白いで片付けてしまってもいいのだけど、それではなんだかもったいない気がして手がかかりをずっと探していた。
そして、答えへの手がかかりをいつもどおりにみていたtwitter上でみつけた。
それは、羽賀翔一さんのTwitterだ。
羽賀翔一さんって?
茨城県出身のマンガ家。
2010年、大学ノートに描いた『インチキ君』で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。『ポートレート』で第57回ちばてつや賞佳作。著書に、『ケシゴムライフ』、『昼間のパパは光ってる』など。
『漫画 君たちはどう生きるか』が200万部を超える大ヒットで社会現象に。
この記事は、デビュー前の新人マンガ家さんたちに向けて、羽賀翔一さんがTwitter上でしたコメントをまとめたものだ。
なぜ、このコメントをこのような記事にしてまとめようと思ったか。
それは上に述べた、このコメントこそが、マンガの面白さを解き明かすヒントでありながら、マンガ好きやマンガ家を志す人、マンガ編集者を志す人のマンガ観を一変させるものだと感じたからだ。これがこのままTwitterという大海原の中で流され消えゆくのはあまりにももったいない。
『令和の手塚治虫』は筆者が勝手に言っていることだが、そう言っても過言ではないほどに新人マンガ家さんに向けられる羽賀さんのコメントは的確かつ勉強になるので、騙されたと思ってとりあえずみてほしい。
以下に、新人マンガ家さんとのやりとりを3つ、Lesson1〜3という形でまとめた。
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Lesson 1: 「どんな感情を描きたいのか。」
一つ目に取り上げるのは、秋野ひろさん とのやりとり。
秋野ひろさんって?
若手マンガ家育成プロジェクトコルク荘で共同生活中。上がり続ける画力、描写力から目が離せない新人マンガ家。
ご自身が骨髄バンクに登録した実体験をまとめたエッセイマンガが個人的おすすめ。
このやりとりは、秋野さんが書いたエッセイマンガに羽賀さんがリプライを送るところからはじまったやりとり。
まずは、秋野さんのマンガだけを見て、あなたなら読んだあとどうコメントするかを考えながら読んでみて欲しい。
いかがだろうか。
あなたなら感じたことをどう言葉にして、どのように伝えるだろう。何を言えばいいかわからないというのが正直なところではないだろうか。
それでは、実際の羽賀さんのコメントを見て欲しい。
なるほど…。たしかに、最後のコマの直前のコマが小さくなっていて、主人公の悔しさや決意の感情は少し弱まっているかもしれない。
一連のコメント、まとめると以下のようになる。
✳︎Lesson1 まとめ✳︎
•強い感情は何か、描きたいコマは何かを決め、それをメインとする。
↓
その上で、
どのようにすればメインに決めたコマへの展開がわかりやすくなるか考える。
ここで、別のマンガを少しだけみてみよう。
ドラゴンボールの悟空が宿敵フリーザに「あの地球人(悟空の親友)のようにこっぱみじんにしてやる」と言われて激昂するシーン。
直前の疑問のコマから大きめのコマで怒りが爆発している様子(強い感情)が読み手にわかりやすく、すごく印象的になっている。このセリフ、コマだけ知っているという方もいるんじゃないだろうか。
語り継がれる名シーンは、このように強い感情がわかりやすいことが多いのかもしれない。
✳︎✳︎✳︎
ちなみに…
マンガに登場する惑丸さんは、コルク荘の住人。色づかいと絵のタッチがとっても素敵で筆者が個人的に好き。
実際に惑丸さんが似顔絵を書いたらしい。きれい…。
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Lesson2: 「ヒキは技術にすぎない。」
二つ目は引き続き、秋野さん とのやりとり。
このやりとりは、秋野さんがコルク荘の企画でリレーマンガをあげたことから始まる。ちなみにマンガの一枚目は、コルク荘の住人ワタベヒツジさん。二枚目が秋野さん。
これは…。正直どうコメントをすれば良いのか筆者には全くわからなかった。純粋にこの千円はどうなるんだろうという疑問だけが生まれた。
みなさんはどうだろう。一回考えてみて欲しい。
さて、羽賀さんのコメントをみてみよう。
これはおそらく、Lesson1とも関連することだと筆者は考えるが、
マンガを通して何を描きたいか
それが一番マンガを描く上で大事ということなのではないだろうか。何を当たり前のことをという声が聞こえてくるが、それをおざなりにして小手先の技術に頼ってしまうと、なんのためにマンガを描いているのかを見失ってしまうのではないだろうかと感じた。
筆者はマンガを描かないのでうすい言葉になって申し訳ないが、人が何かを「かく」ときはそこに残しておきたい感情や伝えたい思いがあるのは共通なのではないかと考える。
✳︎Lesson2 まとめ✳︎
•ヒキはあくまで技術。
•マンガが面白くなりきらない、意味がわかりづらいことは往々にして起こり得る。
→まずは、自分が描きたいもの、自分らしさを広げていくことから。
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Lesson3: 「キャッチコピーで作品を支えろ!」
最後に取り上げるのは、
4月から『りさこのルール』の連載が決まっているつのだふむ さんとのやりとりだ。
※つのだふむさんが気になった方は、ぜひ王様のブランチで取り上げられた『すこしふしぎ動画』をみて欲しい 。3Dと2Dが交錯した不思議なマンガ体験ができる。
このやりとりは、下のつのだふむさんのツイートに羽賀さんがコメントすることからはじまる。今回は文字のみの少し長めのやりとりになるが、会話そのもがとても勉強になるので、そのまま掲載する。
いかがだっただろうか。
少し長めのつのだふむさんとのやりとり、まとめると以下のようになる。
✳︎Lesson3 まとめ✳︎
•作品を支える軸となるコピー(作家が自分の中に持っているべきもの、対外的な広告とは異なる)を見つけ出す。
コピーを探す上では、
a.主人公のキャラと作品の雰囲気を含めるようにする。
b.あるはずなのにまだ言葉になっていないものを選択する。
↓
描き方や演出に困った際の道標になる。
•マンガを読んだ人が、その話、その作品を他人にどういう言葉で紹介するのか、しっかり想像することが大事。
上記のまとめに対しては少し内容が異なるが、
現在大ヒット中の『鬼滅の刃』の“対外的な”キャッチコピーをあえて確認してみた。
作品の雰囲気と主人公のキャラもコピーに含まれていて、言葉になっていなかった『慈(やさ)しい鬼退治』という言葉が当てられている。
このコピーが作家にとって立ち返るべきコピーであるのかはわからないが、これから『鬼滅の刃』を読もうという人にとっては、この作品がどういう作品であるのか一定の指針を示すコピーであることは間違いないと思う。
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ちなみに…
つのだふむさんとのやりとりの最後に出てくる「羽賀まんが道」ってなに?とおもった方にはこちら
2020年の幕開けとともに羽賀さんが漫画について気づいたことをTwitterで発信している毎日更新企画。こちらもすごく勉強になるので、マンガを上手くなりたい人は合わせてみて欲しい。
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総括
✳︎Lesson1
1ページ、1話(単位は場合による)の中で強い感情は何であるかを定めて、決める。その後、一番強い感情をメインのコマとしてわかりやすく伝わるよう設計する。感情の流れをしっかりと作ることで、メインのコマがより映えるようになる。
✳︎Lesson2
第一にマンガを通して何が描きたいのか、マンガにどんな気持ちを込めるのか、自分らしいものとはなんなのかのスケールを広げていくことから始める。ヒキ等は技術として鍛錬あるのみ。
✳︎Lesson3
作品を支え続けてくれる言葉を探し出す。作品の雰囲気と主人公のキャラを含んだまだ言葉になってないものであるとよい。
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おわりに
作品の感想を作家本人に伝えることはすごく難しい。ついつい言いすぎて傷つけてしまったり、傷つけるのを怖がって何も言えなかったり。みなさんもやってみて感じたと思うが、何を言えばいいかわからないということも往々にしてある。
羽賀さんのコメントは、その人だからこそ、その言葉を出しているということが読んでるだけでも伝わってくる暖かさがある。まるで、『君たちはどう生きるか』で主人公“コペル君”を導く“おじさん”そのものだ。羽賀さんがどんな目でこの世の中やマンガをみて、マンガの表現にしていくのかますます注目だ。
そして、この記事を描いている間にそんな羽賀さんから重大発表があった。なんとnoteとcakesで新連載が始動した!
“令和の手塚治虫”からより一層目が離せない。