真冬の「アイスキャンディー」

 まだわたしが小学生の一、二年生の頃。母は身体が弱くて市内の病院に入院していた。兄はわたしと年子なので同じように幼かったが、わたしを連れバスに乗り母に会いに行った。今でもぼんやりと母の弱々しくも嬉しそうな顔を思い出す。「帰りに何か買いなさい」といって母が何十円か小銭をくれた。兄が小銭を握ってバス停に向かったんだ。
 バス停の近くに今はない小さいお店があり、兄はそこでアイスキャンディーを自分とわたしに買ってくれた。何十年も昔の昭和の時代のことで、ボッコのついたアイスが一本10円くらいで買えたように記憶している。早速アイスを食べながらバス停に向かうと、そこに若いカップルがいて楽しそうに笑っていた。
 若い男が目ざとくわたしたちを見て、「おい、あいつら見てみろよ。この寒いのに、アイス食ってるぜ!」と言って笑った。連れのお姉さんも合わせて軽く笑った。
 わたしはとても恥ずかしくて、思わずアイスをオーバーコートのポケットに隠した。まだ、子供だったし、大人にバカにされているということがショックだったんだ。兄がちょっと怒ったように、「早く食え」って言ったので多分食べたんだと思うけれど、その後のことは何も覚えていない。
 それは、とても寒い冬の夕方だった。アイスを食べるには確かに不向きな日「アイス日和」と言える日ではなかった。寒さが身に染みたのは、心が冷えてしまったせいでもあったかもしれない。しばらくの間、いや、数年前までその記憶はわたしの心に住んでいた。とても悲しい記憶として。
 ここ北海道は、今は温暖化のせいか日中はプラスの気温になる。朝晩寒くても日中は暖かい。わたしが子供の頃は、たいていの子はビニールの長靴を履いていて、雪を踏みしめるとキュキュッと音がなったんだ。そうして学校に通っていた。−18度とか−20℃なんでザラにあった。そんな日は、息を吐くと白くなるし、息を吸うと鼻の穴がくっつくことがあった。これは、今思い出してもちょっと面白いな。更に温度が下がると授業が1時間遅れとか、2時間遅れになるので寒いのはちっとも嫌じゃなかった。
 さて、母が退院して日常が戻った。わたしはその頃の母の歳をとうに超えた。数年前に思いがけずわたしが病気になり、この病院に入院したんだ。なんともここには縁があるらしい。その間フラッシュバックと言うのでもないだろうが、当時のことを思い出した。初めはバカにされたと言う嫌な嫌な気持ちから始まったんだ。でも、冬だから、アイス食べてるの見て笑う奴もいるよね。でもだからって、子供だからってバカにしてんじゃねえぞ!兄ちゃん。
 「あーぁ兄ちゃん、なに言ってくれちゃってるの。はぁーぁ〜バカバカバーカッ」と心のなかで、思う限りの悪態をついてみた。エアー兄ちゃんに向かってね。
もう輪郭も朧げなそのカップルに向かい、何度もあっかんべぇーをした。
最後に手のひらに乗せて宇宙に飛ばしてやったんだ。これは気分が良かったよ。ホントに良かった。
 このやり方は知り合いが教えてくれたの。教えてもらったんでやってみた。試してみると効果があったんだ。だからもう、真冬にアイスを人に見せびらかして食べやれるよ。みんなも真冬にアイスを楽しんでみてね!
読んでくれてありがとう。

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