太陽が地球を飲み込む前に迎えにきて(Short Story)
読まれることのなかったメッセージはどこへ行くのだろう。行く先を失ったわたしの言葉達は、ふわふわそこら辺を漂ってる。
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電話で喧嘩腰でお互い言い合って、最後は冷たく他人みたいな態度で「さようなら」と言った。
ずっとやさしかったこの関係が、険悪な雰囲気で終わってしまったのが、どうしようもなく悲しかった。
だから、それが自己満足だと分かっていたけれど、最後に星さんにメッセージを送った。
「わたしなりにあなたのこと、精一杯好きだった。たくさん、やさしくしてくれてありがとう。」
やはり、と言うべきか、このメッセージが読まれることはなかった。読まれないだろうと思って送ったのだから、何も傷つくことはないのだが、結局そんなことにもしっかり傷ついてしまって、自分で傷を増やして、悲しみの種を増やして、わたしは本当にばかだなあと思う。
せめて、受け取ってほしかった。
返事なんかいらないから、わたしの言葉を受け取って欲しかった。それくらい、してほしかった。
一生付くことのない「既読」の文字を、数日おきに見ては落ち込むことに疲れて、連絡先ごと消去した。
連絡先を消した後はやり切れない気持ちでいっぱいになった。
なんだったんだろう、あの時間は。なんだったんだろう、あのやさしさは。
この気持ちも、いつかはマシになるのかな。
地球規模で考えたらわたしの今の苦しみなんて、微生物よりもウイルスよりもちっぽけで、何十ミクロンとか、きっとそんなものだ。
どうせ、地球はなくなるのだ。
いつか膨張した太陽に飲み込まれて、わたしも、星さんも、わたしの届かなかった言葉も、全部全部灰になって消える。
だったら、もう、なんだっていいじゃないか。終わったことで思い悩むなんて、ばからしい。時間の無駄だ。
もう忘れる。全部全部忘れる。
タバコの匂いも髪の柔らかさもかわいい寝顔もふっくらした手のひらも、やさしかった夜も、教えてくれた音楽のことも、全部全部忘れるよ。
あなたの名前も呼ばない。心の中でも呼ばない。思い出さない。街中ですれ違っても、もうわたしも気づかないよ。一緒に歩いたところを歩いても、平気になる。
わたしを傷つけたこと、許すよ。あなたはほんとは優しい人だって、そう思うよ。思ってあげる。でも、もう忘れる。
だって、あなたに囚われている暇はないから。 わたしは先に進みたいから。もうあなたにあげられるものは何もないから。
だから、星さん。
これが最後だ。唇を噛みしめる。
「さよなら星さん。」
わざと声に出した4文字は小さく震えていた。
2020/9/14
前回のお話「シングルベッドが広くても」の星さんと、もしちゃんと付き合っていたら、どんな最後だったかな。と想像して書きました。星さんはきっと、自分勝手に、一方的に女の子を傷つけて、去っていくだろうな。というifのお話です。
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