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シングルベッドが広くても(Short Story)

ぎゅう、とあの人に抱きしめられると、抱きしめられた強さの分だけ、私はくるしくて、たまらなくなる。

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「2ヶ月、その前は3ヶ月。今回は」
「半年、だろ」

星さんが私の声を遮るように言った。
顔を上げると、視界の端に星さんのツンととんがった唇が映った。ちょっと得意げな声色に苛立って、私は頬を撫でる星さんの手を鬱陶しげに払った。

ちがう。と心の中で呟く。
ちがう。半年じゃない。全然ちがう。

会えなかったのは、半年と2週間と1日だ。
会えなかった日を指折り数えていたのは自分だけだと、そう思い知らされたようで、自分がひどく滑稽に思えた。

3月の東北はまだコートが欠かせない。冷たい空気が窓の隙間から入り込んでくる。私の部屋には暖房がなかったから、星さんと私はちいさなシングルベッドに身を寄せ合って、なんとか収まっていた。
星さんはいつも、ベッドに入ると私を後ろから抱きしめる。私はすっぽりと包まれて、やっと、このベッドがあるべき姿に戻ったような、そんな気持ちになる。
本当は、向かい合っていたかったけれど、そうしたいと伝えたことは一度もなかった。
シングルベッドでの2人の形が、私たちの関係をそのまま表しているようで、何も言えなかったのだ。

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会いたかった。
好きよ。
いつまでいるの?
次はいつ会える?
また、会ってくれる?

伝えたい言葉は沢山あるのに、私は結局一つも伝えることができなかった。どれも口にしようとすると、のどの奥で言葉が引っかかって、目の奥がツンとして、苦しくなってしまうのだ。

「半年間、なにしてたの?」
「んー、いろいろ。」            そう答えたあとで、「なに、寂しかった?」と少し笑いながら星さんは私の首筋にキスをした。
こういう時の星さんは、すごく優しい。
「星さんは、寂しかった?」
「……仕事で沖縄に行ったんだ。夕陽がすごく綺麗でさ、お前にも見せてやりたいと思ったよ。」

ずるい人だ、と思う。ほんの少し優しくされるだけで、待っていた時間が報われたような気がしてしまう。こうして抱きしめてもらえるならこんな関係のままでもいいと思ってしまう。

私はくるんと体を反転させて、星さんを見た。
「また、会える?」
星さんは私の問いには答えず、ちょっと困ったように笑ってキスをした。

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目が覚めると星さんはいなかった。1人分の大きさに戻ったシングルベッドと、そこに確かにいたはずの人。

あれが最後だって分かっていたなら、全部話せばよかったなぁ。会えなかったのは半年じゃなくて、半年と2週間と1日だし、あなたがいなくて私はおかしくなりそうなくらい寂しかったし、本当はあなたとおままごとみたいな恋愛がしたかった。あなたが好き。好きだった。愛していたの。私だけのものになって欲しかった。

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星さん。

今、どこで何をしていますか。
あれが最後だって、教えてくれたらよかったのに。
どれが最後のキスだったか、覚えてないよ。  星さん、と宙に向かって呟いてみるけれど、しんと静まり返った部屋は何も返してはくれない。
夏がきて、秋がきて、季節が一周しても、私はまだ、この小さなベッドをひとり、持て余している。


2020/8/24


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