こんなの、愛じゃない(Short Story)
星さんと別れてから、半分ヤケクソで男の人をとっかえひっかえしてみようと思い、マッチングアプリに登録した。
その中で出会った一人と、気がつけば定期的に会うようになっていた。ご飯を食べて体を重ねるだけの関係。
私はその人と最初に体の関係を持ったとき、「わたし、彼女にはならない」と言った。
「なんで?」
「引っ越すから」
「どこに?」
「東京」
「だから、彼女にはならない。わたしいなくなるから。」
「ふーん、ま、俺のこと好きになるなよ」
「なにそれ。うける。」
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明日は無理。と言うと、「男と会うの?」と聞いてくる。「気になる?」「全然」。少し傷つく自分がいる。気になれよ〜と思う自分がいる。でも線を引いたのは自分だから。この線を乗り越えることはない。
その日は朝から仕事があったので、私が先にホテルを出た。帰り際、「お仕事がんばってね」とキスをするとベットに寝そべっていたその人は小さく笑った。「なに?」「なんか、」「セフレみたい?」「そうそう」。私も笑った。「またLINEしていい?」「セフレなんだから、そんな気遣わなくていいでしょ」「あ、そっか」。また、少し傷つく自分がいる。好きにならないから、付き合ってとか言わないから、恋人ごっこをさせてくれたらいいのに。などと都合の良いことを思う。たぶん、予防線を張られているのだと思う。私が本気にならないように。
好きなところ、セックス以外に別にない。だから大丈夫。ただの気の合う友達。セックスをする友達。星さんみたいな、すごいなあこの人は。みたいな尊敬もない。新しいことを教えてくれるでもない。だから、大丈夫。ただの友達。
それでも。会う回数が増えるごとに、だんだん分からなくなってきた。
私はこの人の寝顔をかわいいと思う。笑ってくれたらいいなあと思う。しまいには、昼間、明るいところをこの人と歩きたいなどと思ってしまう。
この愛おしさは錯覚だと、頭ではわかっている。なのに、次はいつ会えるだろう。誘ってもいいかな。などとLINEのトーク画面と永遠にらめっこを続けている自分がいる。
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「ねえ、付き合おっか」
「彼女にはならないって言ってたじゃん」
「うん」
「俺のこと好きにならないって」
「うん」
「あのさ、ばかじゃないの?」
「うん、そだね」
時々わからなくなる。私はその人の何が好きで付き合いたいと思うんだろう。思い出すのはセックスのときのやさしさばかり。本当にその人自体が好きなのか、セックスのときにやさしくされるのが好きなのか。女の子扱いされるのが好きなのか。特別扱いされるのが好きなのか。好きって、なんだろう。簡単なことのはずなのに、今の私にはすごく難しい質問に思える。
どれだけ抱きしめ合っても、どれだけ深くキスをしても、そんなの嘘っぱちだ。
自分を騙して、幸せだって錯覚させて、なくなったら麻薬が切れたみたいに苦しくなる。
そんなの、愛じゃない。
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私は笑う。
「ばかじゃないの」というあなたに「冗談に決まってるじゃん」と嘘をつく。自分の気持ちに、嘘をつく。
これは愛じゃない。恋でもない。ただ寂しいだけだ。あなたは穴を埋めてくれる棒であって、寂しさを忘れさせてくれるブランケットであって、それ以上でもそれ以下でもない。
だから、こんなの、愛じゃない。
2020/10/25
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