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さよならのゆめ(Short Story)


今でもたまに、あの人の夢を見る。
それはいつも決まってさよならの夢で、私たちは港に向かっていく。歩いていたり、車に乗っていたり、道中は様々だけど、終わりは決まっている。あの人は船に乗って、遠くに行く。私はそれを見送る。悲しさを心の奥底にしまい込んで。


私と星さんは手を繋いでいる。今日も港に向かって歩いている。東京へ向かうフェリーが港についているらしい。私はこれがお別れのシーンだと理解している。だから、じんわりと寂しい。

夢の中の星さんはうんとやさしい。にこにこと私に色んなことを話しかけてくる。最近見た映画の話や身の回りで起きたおかしな話。繋いだ手から伝わる温もりがやさしくて泣いてしまいそうになる。


少し前を歩いていた星さんが急に「止まって」と言って、立ち止まった。背中にぶつかりそうになりながら、「どうして?」と首を傾げる。「キスするから。」その言葉と同時くらいに、短いキスが落ちてくる。そのキスの仕方で、「あ、星さんだ。」と思った。星さんのキスの仕方なんて、もう忘れたと思ってた。短い、掠め取るようなキス。「キスして」とせがんだ日が、昨日のことみたいに蘇る。きっと記憶をしまっている箱の中に、「星さんのキスの仕方」という箱でもあって、私はそれを無意識のうちに綺麗にしまっておいたに違いない。


覚えていたことがうれしい。
夢で会えてうれしい。
だけどこれが夢で悲しい。


私はうれしいのか悲しいのか結局どっちなのだろう。感情が1秒毎にゆらゆら揺れて、あっちにいったり、こっちにいったり、身体の真ん中あたりから引き裂かれそうだ。


気づくと私たちはフェリーの前に立っていた。
フェリーを背にして私を見ている星さん。星さんを見る私。私たちの間にはまるで見えない線でも引かれているみたいだ。どう頑張っても私は星さんと一緒に船に乗れない。「一緒に行きたい」とも「ここにいて」とも言えない。星さんを見送る結末は変わらない。
「また、会える?」と聞くと、星さんは私の両手を取って、「もちろん」と言った。
だんだんと、星さんの手が離れていく。


あの人は船の上にいる。
私はあの人を見上げている。


また会えるって、ほんとですか。
また会ってくれるのですか。
ねえ、星さん。


目が覚めると、握り締めた手のひらに涙の跡が滲んでいた。


2020/9/27


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