浴衣姿の娘
すっと背筋が伸びて、腰がすわった、立ち姿の美しい浴衣の女性。
綺麗なぁ…
見惚れていたら、私の心を見透かしたように、隣に立っていた女性が「綺麗ですよね…」と声をかけてきた。
私はそう声をかけられて、恥ずかしがると思ったが、誇らしい気持ちになった自分に驚いて、その勢いを借りて思い切って、その浴衣姿の美しい女性に声をかけた。
「U!!」
私の声に気づいた浴衣姿の女性が、声の主を探し、私を見つけて、小さく手を振って応えてくれた。
私にこんな行動を取らせた女性は、私と浴衣姿の女性のやり取りを見届けて、「一植の母です…」と私に自己紹介して来た。
「あぁ!娘の彼氏の?!」
一瞬、間が開いたかも知れないが、娘が中学校に上がったら付き合う約束をしていた同級生の名前が、それだったことにすぐに辿り着けた。
「お世話になってます!」としか続ける言葉が浮かばない私に、その女性は感じよく「Uちゃん、綺麗ですよねー」と嬉しい言葉を返してくれた。
お世辞かも知れないその言葉に、より一層嬉しくなって、もう一度、「U!!」と大きな声で呼びかけて、人差し指と親指でハートマークを作って、浴衣姿の美しい私の娘に向けて手をかざした。
娘は、彼氏のお母さんと私が言葉を交わしているのも見ていたのか、顔はこちらに向けたままで、満面の笑顔で手を振って応えてくれた。
夏祭りの会場に向かうのか、みんなが同じ方に歩き出した。
私の腕の中には親戚の女の子が抱かれていた。
その子に向けて私は「Uお姉ちゃん、綺麗やねー。ついこないだまで、おっちゃんの腕の中で、こんなふうに抱っこして、甚平さん着てお祭りに来てたのに…」
この先の言葉は喉に詰まって、涙が溢れそうになった。
(健やかに育ってくれてありがとう。素直に育ってくれてありがとう。神様、どうかこの先も、娘が無事に幸せに生きていけますように…)
夢から醒めても、泣きそうな気持ちのままだった。
その気持ちのまま、眠れそうにないので、noteに記した。
私は家族と別居していて、中学生になったばかりの娘が居る。
私の腕に抱かれていた小さい女の子も、目が覚めてみて考えたら、幼い頃の娘だったように思う。
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