おっさんレンタル「香川県のChiharuさん」
Chiharuさんからの相談はこんなLINEから始まった。
「はじめまして。転職の相談なのですが、来週面接の会社がありどうしても内定とりたいです。
志望動機が上手く思いつかず、作成アドバイスをお願いしたいと思っています。
急なご依頼で申し訳ないなのですが可能でしょうか?」
丁寧な挨拶のあと、具体的な日時の候補が4つくらいと、オンラインMTG希望であることが記載されていた。
オンラインでの面談は、対面と比べて気楽な面がある。服装は画面で伝わる程度の清潔感があればいいし、移動時間や待ち合わせ場所に気を使う必要もない。
その一方で、相談者の本音を引き出すのに、仕草を情報として取り入れることができないのはデメリットといえるだろうね。
前職に対する色々な不満、例えば環境や人間関係に対する文句を吐き出すときの身振り手振りは、どれくらいその人が悩んでいるかを言葉以上に表現してくれる。
新しい職場に対する希望を話すときの表情は、仕事への熱意が本質的なのか形式的なのかを把握する有用な材料だ。
それらをヒアリング形式で聞き出すため、オンラインでの面談はどうしてもビジネスライクになってしまうんだよ。
約束の日。Chiharuさんから提供されたURLにアクセスした僕は、とりあえずカメラをオフにして3分前から待機していた。
オンライン面談でのカメラは、人によってオンオフの判断が違う。レンタルの相談は女性が多いからか、顔を画面に映すことに抵抗がある人もいるみたいだし、こちらの表情を見ながら話さないと安心できないという人もいる。その割合は半々といったところかな。
この点は、僕は相手に合わせて対応するようにしている。
時間通りにChiharuさんがアクセスしてきた。彼女がカメラをオンにしていたので、僕もカメラを着けて挨拶をした。
Chiharuさんはシュッとした感じの30代前半の女性で、ワイドなストライプのシャツを来ていた。僕たちは画面越しに挨拶を交わした。彼女がオンラインを希望した理由は、香川県に住んでいるためだった。
香川県の転職相談を東京在住の僕が受けるなんてことは、オンラインじゃないとあり得ないよね。
対面だったら緊張を解きほぐすための会話、いわゆるアイスブレイクを挟むところだけど、オンラインで
のその時間は中々に空虚な雰囲気となってしまうため、すぐに本題に入ることにした。
とはいえ、Chiharuさんが相談したいと言っている志望動機をひねり出すことは簡単ではない。現状について聞いてみた。
Chiharuさんは県内の建設会社の経理職についていた。仕事内容にも、職場環境にも問題はないという。ではなぜ転職したいのか。
彼女は現在、派遣社員として働いていて、転職では正社員になることを希望していた。面接を受ける会社も同じ香川県にある建設会社だという。
実はこのパターンがやっかいなんだ。転職には、今の環境から抜け出すか、何かがやりたいというエネルギーがとても大切で、それが自己PRや志望動機の文章に反映される。いわゆる言霊ってやつだね。
僕はChiharuさんから会社の情報をヒアリングしながら、志望動機に使えそうな要素を再構成して彼女に伝えた(解決策はレンタルの成果物であるため、非公開とさせていただく)。
結果として予定していた1時間を大幅に超えて、2時間の面談となった。Chiharuさんは追加分の時給と合わせて2,000円を、電子マネーで支払ってくれた。
翌週になって、Chiharuさんから無事面接を通過したとの連絡をもらった。
募集時に総合職と言われていた説明がエリア職という地域限定職になっていたという。待遇が少し違うこともあり、彼女はいささか腑に落ちていないようだったし、厳密に言えば企業側に非があると言えなくもない。ただ、給与面の情報に食い違いはなく、キャリアプランも用意されているとのことだったので、ここは妥協のしどころかな。
僕は彼女にそのように話し、さらに疑問が深まる場合はまた相談にのることを約束した。
その後、Chiharuさんからは連絡がないから、つつがなく勤めることができているのだろう。