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【キュウレンジャー】第47~48話(完)

Space.47「救世主たちの約束」

 集まろう、伝説の樹の下で……回。樹ではない。

 ツルギの肉体を乗っ取り、司令を打ち倒して吸収し、さらには地球そのもののプラネジュームを吸い込み始めたドン・アルマゲ。99時間後には完全体となってしまうドン・アルマゲを阻止するため、ラッキーは一つの作戦を提案する。だが、それは文字通り命がけの作戦だ。ラッキーも強制はせず、希望者のみの参加を促す。
 散会した一同は、それぞれに夜のひとときを過ごす。最初はラッキーのことなんて嫌いだったのに、と思い出話に花を咲かせるハミィとガル。恐怖の感情で落ち着かない様子のナーガは、バランスから「オメデト」と祝福を受ける。「怖がるって、今を失いたくないって感情なんだ。でも大丈夫。君は何も失わない。僕たちは、いつも一緒だ」。バランスの言葉に落ち着きを取り戻し、頷くナーガ。彼の相棒は、いつだって大事なことを彼に教えてくれるのだ。
 ラプターは司令を喪った悲しみの中にいる。ツルギを失ったことや地球の危機が迫っていることなど、いくつもの事案がバタバタと積み重なる中、彼女は直属の上司である司令を十分に悼むことも出来ていない。涙を流せぬアンドロイドである彼女の嘆きを、スパーダは優しく受け止め、励ます。思えばラッキー合流前、船に乗っていたのはハミィにチャンプにスパーダにラプターの4人であった。付き合いが長いからこそラプターも本音を吐けるのだろう。そしてスパーダも、眼鏡の奥に隠れた彼女の感情を受け止めることが出来るのだ。
 兄から貰ったペンダントを眺めて物思いにふけるスティンガー。チャンプと小太郎がそこに合流する。チャンプはそこにいないアントン博士へ己の正義を誓う。自分たちを散々苦しめた脳だけのアントン博士ではなく、自分を作り上げ、正義の心を教えてくれた、記憶の中のアントン博士にだ。いろいろあったけれども大切な存在に違いないという点では、スティンガーにとってのスコルピオと同じような立ち位置なのだろう。小太郎を励まし、スティンガーとチャンプは歌を口ずさむ。あまり揃っていない二重唱が、廊下に優しく響く。

 そして翌朝、ラッキーたちは地上に降り立ち、はるか遠くのドン・アルマゲを見据える。彼我の間には一面の敵の姿。蹴散らすには相当骨が折れそうだ。
「みんな、約束だ。全員でドン・アルマゲのもとで会おう」
 ラッキーの言葉をうけ、一同はスターチェンジ。殺気だった軍勢の中に飛び込んでいく。いつもの動きをうまく取り入れて、戦いながらもきちんと名乗る面々がいちいちビシっとかっこいい。テンビンゴールドやコグマスカイブルーの裏拳! カジキイエローの声もキレキレだ! もちろん忘れちゃいけない「おじさま」オリオンバトラーも、ラプターの操縦によりモライマーズを薙ぎ払う。
 インダベーやツヨインダベ―、量産型のゼロ号がわらわらと立ちはだかる。戦いは昼夜を越え、それでもまだ敵の勢いは衰えない。相手はいくらでも補充されてくるのに、こちらはたったの11人+1体なのだ。さすがに疲労の色がにじむ。
 とにかくラッキーを先に進ませなくてはならない。何人かずつ、各所で足止めに当たるが、これがあまりうまくなかった。何しろ相手が多すぎた。補給もなく、変身は解け、押し寄せる敵の波に囲まれて、彼らはひとりひとりその場に頽れていく。
 やっとドン・アルマゲのもとにたどり着いたのは、ラッキーとハミィのたった二人だけである。ドン・アルマゲはそれを嘲笑い、ハミィを一撃のもとに倒すと、他のキュウレンジャーの面々とともにプラネジュームとして吸収してしまう。頼みの綱のサイコーキュータマも壊され、絶体絶命の状況だ。
「ツルギ! 俺は、お前のことが大っ嫌いだった……!」
 舞い上がる火の粉の中、ぼろぼろのラッキーは、何とか立ち上がりながらドン・アルマゲの中のツルギに呼びかける。ツルギは自分の身体ごとドン・アルマゲを倒せと言い残したが、「ドン・アルマゲに乗っ取られて、ドン・アルマゲとして死んでいく男じゃない!」。戦いに赴く前、ツルギはラッキーに「戦いが終わっても俺様と仲間でいてくれるか」と尋ねた。その約束は、今でも有効だ。
 ドン・アルマゲが薙ぎ払う大鎌の斬撃を、決死のスライディングで潜り抜けるラッキー。そのままドン・アルマゲの足首にしがみつき、そこを支点として強引に身を起こすと、ドン・アルマゲの腕を抱えるようにして、体内にいるはずのツルギへと叫ぶ。
「伝説を作りたいなら、力を貸せ!」
 その叫びが一つ目の奇跡を呼ぶ。振り払ったラッキーに今にも鎌を突き立てようとした刹那、ドン・アルマゲの胸の中心から真っ赤な光が漏れだす。身体のコントロールを失ったドン・アルマゲに、ラッキーは渾身の拳を叩きこむ。その手に握られているのはシシキュータマ。彼が父親から受け継ぎ、ツルギらとともに取り返した、母星シシ座系の力がこもった宝玉である。
 さきに取り込まれたキュウレンジャーたちと各々のキュータマ、そして今埋め込まれたシシキュータマにより、ドン・アルマゲの体内には12個のキュータマが揃った。そして、二つ目の奇跡が起きる。全天に輝く12個の星座。それはまさしく、究極の救星主の証だ。内側からの総攻撃、そしてラッキーの浴びせた一太刀により、ドン・アルマゲの中からは吸い込まれたはずの面々が飛び出してくる。その中にはもちろん、ショウ司令とツルギの姿もある。
 一度プラネジュームに分解され、取り込まれたはずの存在が、意識や形を体内で保っている保証はない。もし失敗すれば、いたずらに対抗手段を失うだけの危険な賭けであった。だが、「僕たちは信じてた。みんなの力を、キュータマの力を!」。ここで、あえて「ラッキーの強運を」と言わないところがよい。なぜなら、強運は自らもがいてつかみ取るものだと彼らは学んでいるからだ。ラッキーの諦めない心が全員に伝染して、この奇跡を勝ち取った。いわば、今の彼らは全員が宇宙一の強運の持ち主なのだ。
「一人一人がスーパースター、全員そろってオールスター!」。どこかで聞いたようなキャッチコピーを口にしたところで、一同は改めてドン・アルマゲに向き直る。不幸中の幸いで、ドン・アルマゲの吸収したプラネジュームの余波を受け、ツルギの体調も万全の状態に戻っている。
 最後のあがきとばかりに、ドン・アルマゲは手当たり次第にプラネジュームをかき集める。チキュウのみならず別の惑星のホシ★ミナトなども吸い込み、ウロボロスのような光臨を背負ったドン・アルマゲは「私は宇宙、宇宙そのものとなった」と不遜に宣言する。対するラッキーは、物語の最初から言い続けているひとことで、その宣言をすっぱりと否定する。
「宇宙はみんなのものだ!」
 かくして、最終決戦が始まる。


Space.Final「宇宙に響け!ヨッシャ、ラッキー」

 ドン・アルマゲ対救星主、最後の戦いである。
 変身エフェクトによる打撃から始まり、近接・遠距離で次々と入れ替わりながら波状攻撃を仕掛けるキュウレンジャーら。だが、全宇宙の人間を吸収したドン・アルマゲはさすがに手ごわい。受けた傷を即座に自己再生し、続くビームの一閃で簡単に周囲を薙ぎ払ってしまう。
 あくまでも自分の運を信じると言うラッキーを、ドン・アルマゲは鼻で笑う。
「私は全宇宙に生きる、最悪な運を持つ者たちから生まれた!」
 彼らの嘆きと苦しみが寄り集まり、ドン・アルマゲという存在を生み出した。ドン・アルマゲが支配する宇宙は絶え間ない絶望を生み、それが永遠にドン・アルマゲの活力となる。ヒーローがみんなの応援で立ち上がる、その逆パターンがドン・アルマゲなのだ。
 ドン・アルマゲの体内から迸る、無数の怨嗟の声。その重苦しい叫びを全身に受けながらも、ラッキーは「ヨッシャ、ラッキー!」と立ち上がる。
「だったら簡単だ。それなら、俺たちがそうじゃない宇宙を作りだせばいい!」
 ドン・アルマゲの体内に収められた全宇宙の人間に、ラッキーたちは呼びかける。今まで戦いの中で気づいたことや、学び、得てきたこと。自分を信じ、仲間とともに立つことで、彼らは今日まで戦い抜いてきた。
「運は自分で引き寄せるもの、そうだったねえ」
「嘆きや苦しみ。俺様たちが、それを受け止める盾になろう」
 ひとりひとりから紡がれる、力強い言葉。そのすべてが、人々の希望となる。
 絶望から生まれたドン・アルマゲの腹には、希望の味は少々食い合わせが悪かったようだ。キュウレンジャーを信じ、希望を再び抱きはじめた人類を、ドン・アルマゲは体内から弾き飛ばす。
「私の宇宙に希望などいらぬわあっ!」
 だが、それはそのまま、体内のエネルギーを解き放つ行為でもある。急激に力を失い、片膝をつくドン・アルマゲ。気力を盛り返したラッキーたちは、再び名乗りを上げ、スターチェンジする。いつ見ても素面名乗りは良い物ですね! 今日もスパーダの声はキレキレ!
 キュウレンジャーは今度こそドン・アルマゲを圧倒し、さらに巨大化したところもキュータマジンで応戦。激しいビームの押し合いのさなか、空に無数の星座が輝く。ドン・アルマゲが掌握しようとしていた全宇宙は、今やキュウレンジャーの味方となってこちらに力を貸してくれている。煌めく星々に背を押され、アルティメットオールスターブレイクで〆! 無事プラネジュームは元の場所に戻り、宇宙中の人類は復活する。息も絶え絶えのドン・アルマゲは元のサイズに戻り、倒れ伏している。

 結局、キュウレンジャーもドン・アルマゲも、よりたくさんの思いを集めた方が勝つのだなあ、と思う。怨嗟から生まれたドン・アルマゲが力づくで集めた負の感情と、自ら運をつかみ取ろうとしたキュウレンジャーに寄せられる正の感情。そもそもドン・アルマゲのような存在が生まれてしまう時点で、宇宙はどうしても不完全だ。皆が幸せな人生を歩めているわけではなく、どうしても不幸な目に陥り、己の悪運を呪う者もでてくる。
 だが、その悪運を言い訳にして蹲るのではなく、まずは一歩を踏み出せとキュウレンジャーは言う。ラッキーがそうであるように、自分を信じて、とにかく行動すること。仲間と手を取り合えば、どんな困難もへっちゃらだ。互いに守り守られ、高め合いながら、みんなで大きな幸運を手に入れる。
 ドン・アルマゲは人々の絶望が生み出した存在だが、彼自身は別に宇宙に絶望しているわけではない。華美を好むでも、色を好むでもなく、ドン・アルマゲは純粋に自己の保存と増殖を目的とし、そのための手段として宇宙を掌握しようとしているだけだ。だからさすがのラッキーたちでも、立ち直らせるとか改心させるとか、そういう次元ではないのだろう。みんなの気持ちが生み出した、呪いのような存在。ドン・アルマゲを打ち倒し、人々の絶望を希望に変えることで、その呪いはやっと解かれる。

 瀕死のドン・アルマゲは、最後の一手に打って出る。クエルボやツルギの身体を手に入れた時と同様、今度はラッキーの身体を乗っ取り、さらなる延命をしようというのだ。ドン・アルマゲはラッキーの肉体を宇宙空間へ吹き飛ばし、他の面々にも牽制の攻撃を加える。
 だが、凍り付く体と薄れゆく意識の中、ラッキーはどこまでも諦めない。我々視聴者も諦めない。なぜなら、これとそっくり同じ状況を、我々はすでに目撃しているからだ。
 しし座が空に激しく輝き、次の瞬間、いきなり流星群が降り始める。まるでサーフィンのように隕石を乗りこなし、ラッキーは大気圏に突入。地上の仲間たちとタイミングを合わせて、ドン・アルマゲに最後の一撃を加える。
「どこまでラッキーな男だ……」
「だから、宇宙一って言っただろ」
 今度こそ、ドン・アルマゲ、完全撃破である。

 エンディングで、話は2年後に飛ぶ。
 さきにツルギを奮い立たせるため、皆が語っていた「平和になった宇宙でやりたいこと」。彼らの夢は概ね叶い始めていて、例えばハミィは教師になるため大学で勉強しているし、スティンガーはキュウレンジャーの司令、ショウ・ロンポーは出世してリベリオンの総司令に収まっている。スパーダはチキュウに自分の店を出し、9つ星を取得したとのこと。今日はみなでそこに集まる約束のようだ。スティンガーにやや強引に背中を押されたラプターが、普段の敬語を使わずに「おめでとう、スパーダ」と照れながら祝福しているのが何とも微笑ましい。そういえば彼女の「やりたいこと」は、素敵な恋をすることであったなあ。
 あの時は自分の「やりたいこと」を保留にしていたツルギだが、今や宇宙大統領に返り咲き、多忙な日々を送っているようだ。スパーダの料理を一人だけむしゃむしゃ食べている様子を見るに、どうやら体調も相変わらず万全な様子。まったく、ツルギの復活と快癒だけが、ドン・アルマゲの遺したよい置き土産である。
 レストランにはテレビの中継が入っている。インタビューをうけるスパーダの後ろ、集まったキュウレンジャーの面々も画角に収まっているが、かちんこちんのスティンガーがかわいい。ところで、その中継画面の左上には情報番組らしく「本日の占い」が表示されており、それによると本日のオオカミ座は「ギックリ腰に注意」。不安な予感しかない。
 ほぼ全員が集まっているというのに、ラッキーとガルは遅刻している。というのも、宇宙の果てまで人助けの旅に出ている二人は、チキュウに向かう途中で運悪く宇宙スクーター故障の憂き目にあってしまったのである。ラジオで八十八星座占いを聞いているところも含め(もちろん今日もしし座が一位)、既視感ありあり。前と違うのはスクーターが二人乗りで、ガルがお耳の付いたかわいいヘルメットをかぶってラッキーの後ろにまたがっていることくらいだ。
 運試しだと言い放ち、ラッキーは壊れたスクーターを一発殴る。途端にスクーターは暴走し、二人は地球へ向かって真っ逆さまに落下していく。果たしてこのままあえなく流れ星になってしまうのか。ラッキー先生の次回作にご期待ください!
 とは、もちろんならない。さすがは宇宙一ラッキーな男とその道連れである。
 スパーダがインタビューに答えていると、庭の方から突如大きな音が聞こえてくる。まるで何か重たいものが宇宙から落っこちてでもきたような。すわ敵襲かと慌てて庭に駆け出す一同。……そこにあったのは、ガーデンテーブルをいくつかひっくり返して、なんとか無事に墜落してきた宇宙スクーターと、ラッキー、ガルの姿である。
「ヨッシャ、ラッキー!」
 喜ぶラッキーの後ろで、バランスにぎっくり腰を直してもらっているガル。どうやら、占いは当たるらしい。

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