アプリ広告の運用時における注意点
デジタル広告の市場において、一般的なものはホームページに誘導するweb商材です。ECをはじめとして、多くの商材がこのweb商材にあたります。それに対して、ホームページではなくアプリストアに誘導をかける商材がアプリ商材です。Apple StoreやGoogle Play Storeに掲載中のアプリを広告で訴求する形式であり、スマートフォンの普及に伴って急速に拡大している市場でもあります。現在、ゲームジャンルをはじめとして、多くのアプリ商材の広告が市場に溢れています。
アプリ広告の運用は、web商材向けの広告と比較して、何点か注意しておくべき点があります。ここでは「効果測定」「媒体選定」「アドフラウド(広告不正)」という三点に注目して、アプリ広告運用時の注意点を考えていきたいと思います。
効果測定:測定用SDKがほぼ必須となる
web商材の場合、その多くはGoogle Analyticsなどの無償提供ツールを活用して効果測定を行う場合がほとんどかと思います。各種広告媒体の数値と、Google Analyticsなどに基づいたサービス内部の数値を示し合わせて、実際の効果測定を可能とします。そのため、ほとんどの場合は広告の配信開始に際して複雑な作業は必要ありませんでした(各種広告媒体の成果測定タグをホームページに設置する必要はあります)。
これに対してアプリ商材の場合は、広告とサービス内部の数値を連携させるために、専用の測定用SDKを実装する必要があります。国内においては、adjustやappsflyerといったSDK会社が有名です。そして、これらのツールは無償提供されたものではなく、有償です。つまり、広告出稿に際してSDKの実装とSDK利用料が発生してくるのです。
アプリ商材においては、プロダクトの効果測定は、AppleのApp StoreやGoogleのfirebaseなど、開発時に必要となるツールで測定を行っているケースが多いでしょう。しかし、これらのツールは現在まだ、広告媒体との細かな連携が行われておりません。デフォルトの測定ツールでは、全体のインストール数はわかっても、そのインストールがどこから来たのか、といった広告媒体ごとの詳細を判断することができないのです。これは、細かな運用を行う際には致命的です。
この問題を解決するために、adjustやappsflyerといった効果測定用のSDKが生まれました。これらのツールはGoogleやFacebookといった各種広告媒体と連携することで、広告媒体ごとの効果測定を可能とします。SDK内部にインストール・会員登録・課金などのイベントを実装することで、どのイベントがどれぐらいの数、どの広告媒体から発生しているのかを詳細に分析することができるようになります。将来的にはfirebaseなどのアプリ開発SDKに広告媒体との連携機能が実装される可能性はありますが、現状においては広告媒体の測定を行うためには外部のSDKを導入することがほぼ必須となっています。
コラム:SDKと広告管理画面の数値の乖離
広告の特性上仕方のないところなのですが、広告の管理画面と実態の数値は多少乖離が発生します。アトリビューション期間の問題やラストクリック問題、測定方法の差異など様々な原因によりこの事象は発生します。
例えば、Twitter広告の管理画面では「Twitter広告をクリックした後にCVした数」を一律CV数としているのに対し、測定SDK側では「ラストクリックのみ」をCVとカウントしていた場合、ここで乖離が起きます。Twitter広告をクリックしてCVせず放置した人がそのあとFacebook広告でCVした場合、TW/FB両管理画面にそれぞれCV1があがりますが、測定SDK側にはFB1件しか上がりません。
広告管理画面とSDKの測定仕様を把握し、アトリビューション設定などの差分を近付けることによってある程度乖離は収束しますが、100%乖離をなくすことはできません。知識として持っておく必要があります。
媒体選定:アプリ商材独自の媒体も存在する
広告の媒体選定においては、基本的に大手となる媒体は変わりません。Google Ads, Yahoo広告, Facebook Ads, Twitter Adsなど、多くの広告媒体はアプリ商材向けのキャンペーンを準備しています。それらはアプリインストール型広告と呼ばれ、web商材とほとんど変わらない手順で出稿することが可能です。ただし、測定を行う際にはSDKとの連携を行う必要があります。
加えて、アプリ商材のみ出稿できる独自の媒体も存在します。一つ目は、アプリストア内の検索連動型広告です。Apple StoreまたはGoogle Play Store内において、ユーザーの検索に応じて自社アプリを上位表示するという広告であり、ちょうどweb商材におけるリスティング広告のアプリストア版といったようなものです。Apple Storeにおける検索連動型広告はApple Search Ads(ASA)と呼ばれ、セルフサーブ形式の出稿にも対応しているため、iOSアプリで広告を出す場合の有力媒体の一つとなっています。
もう一つ、アプリ商材において特徴的な広告サービスが「インストール成果報酬型広告」です。web商材にも成果報酬型の広告はありますが、特にアプリ市場で大きく成長を遂げています。成果報酬型の広告がアプリ市場で大きな成長を遂げた理由は「インストール」という明確な共通地点があるからです。ほとんどの場合、インストールを成果地点とし、1インストールいくらといった成果報酬で広告を出稿することができます。web商材において一般的な課金体系はCPM型, CPC型の配信ですが、アプリ商材においてはインストール課金型の広告が有力な選択肢の一つとなるでしょう。ただし、成果報酬型の広告はアドフラウド(広告不正)が発生しやすいこともあり、注意が必要です。
アドフラウド(広告不正)の防止
近年話題が絶えないアドフラウド。2014年以降は、海外のネットワーク広告が日本に上陸し、多くアドフラウドが発生したことで広告業界ではアドフラウド対策の意識が高まってきました。アドフラウドはwebでもアプリでも起こり得ますが、特に成果報酬型広告がメジャーなアプリ市場では多く発生しやすく、注意をしておくべき必要があります。
アドフラウドには様々な種類があります。その多くは不正なインストールやコンバージョン。例えばインストール成果報酬型の広告において、インストールはしたものの翌日の起動率が0%といったユーザーが大量に流入してくるなど、効果に繋がらない成果が上がってしまうことが特徴です。クライアント側からすれば迷惑以外の何物でもありません。インストールは大量に上がるがユーザーアクションが0、会員登録が大量にあがったが全部偽物プロフィールだった、なんてことはザラです。
当然、各媒体や各SDKがアドフラウド対策を進めています。しかし、新たなフラウド手法も出てきて、いたちごっこになってしまうのも事実。広告業界においては、アドフラウド対策と、アドフラウド対策を対策した新たなアドフラウドが常に進化を遂げて登場しています。常に最新の情報を集め、アドフラウドの対策に気を配っておくことが重要です。特に成果報酬型の広告ではアドフラウド発生が注意されるため、事前にアドフラウド発生時の対策を広告媒体社と擦り合わせる、細かく数値を見守る体制を作るなど、発生を予測した体制作りを意識しておきましょう。また、インストール数などの表面的な数字だけではなく、ユーザーのリテンション率(翌日以降起動率)などの細かなKPIを日頃から管理し、日ごろから不正を早期発見できる体制を構築しておくことが重要です。
コラム:ASA配信はASO対策に有効か?
アプリ配信を行う事業会社が常に頭を悩ませていることの一つにASO対策があります。ASOとはApp Store Optimizationの略であり、アプリストア内での検索に対して自社アプリを表示させるための対策のことを指します。つまり、web商材におけるSEO対策と同じようなものです。
ASO対策はSEO対策と比較し出来ることはまだ少なく、基本としては「タイトル・キーワード・説明文に対策するワードを含める」「インストール数を増やす」「レビューの件数を増やす」といった対策が有効です。これらの要素が上位表示のためのアルゴリズムに寄与しています。
アプリ配信者としては、なるべく数多くの検索ワードに対して自社アプリを表示させたいことでしょう。しかし、Appleは検索ワードとアプリ自体の関連度も重視しているようであり、アプリと関連のない検索ワードでは上位表示されにくい設定になっています。そのため、あくまで自社アプリと関連する検索ワードの順位を引き上げることを目的としましょう。
ここで気になるのは、ASAやアプリ広告の配信は、ASO対策に有効なのか?という点です。結論から言うと、直接的な影響はないとされています。Appleは、ASAでの配信とASOについての関連性については明言しておりません。そのため、特に有利に働くとは言えません。ただし、間接的な影響はあります。ASOで有利に働くためにはインストール数の増加やレビュー数の増加が必要です。web広告の配信によってインストール数が増加し、そこからレビューや紹介インストールの数が増えることによって、間接的な貢献があると言えるでしょう。
むしろ特筆すべきなのは逆で「ASO対策を行うことによって、ASA配信が改善する」というケースがあります。ASAは、アプリストア内の検索ワードに応じて自社アプリを表示する広告ですが、どのキーワードにどのアプリを表示するのかを決定するアルゴリズムのうちに「アプリと検索ワードの関連度」も影響していると言われています。これはASA, ASOともに共通するAppleの考え方です。つまり、ASO対策を行い、アプリストア内に適切に設定されたキーワードを増やすことで、ASA配信の際に有利に働く検索ワードが増えることになります。つまり、ASO対策はASA配信に大きな影響を与えると言えるでしょう。
コラム:iOS14がアプリ市場に与えた衝撃
2020年9月にAppleは最新バージョンのiOS14を発表しました。そのアップデート文書の一文は、アプリ広告業界に大きな影響を与えることとなります。
来年の早い時期には、アプリケーションによるトラッキングを開始する場合は、事前にユーザーの許可を得ることを必須とする予定です。
Appleはユーザーのセキュリティ強化のため、アプリケーション(SDK)による測定を開始する場合に、事前のユーザー許可を求めるアップデートを行うというのです。この機能は現実に、iOS14.5のバージョンから実現されました。このリリース以降、ユーザーは、アプリ型にトラッキングを許可するかどうかを求められるようになります。この機能は「AppTrackingTransparency」(ATT)と呼ばれ、ユーザーがアプリを起動する際にデータ収集の許可を求めるポップアップカードが表示されるように仕様変更がなされました。このアップデートが意味するものは、アプリの測定が不完全になるということです。今までは測定用のSDKですべてのユーザーデータがトラッキングできていたものの、iOS14.5のアップデート以降は、測定を許可したユーザーしか測定できないわけです。しかも、ATTの許可率は平均11~13%と言われています。今まで測定できていたユーザーデータが、いきなり10分の1になってしまったわけです。
この影響により、iOSアプリにおける広告の効果測定は多大な影響を受けたうえに、リターゲティング広告などのユーザーデータを活用した広告の出稿にも大きな打撃を与えました。自由にデータ活用ができていたアプリ広告市場でしたが、現代においてはそのデータ取得は不完全なものになってしまったと言わざるを得ません。一時期はiOSの出稿を取り下げるクライアントも珍しくないぐらい、このアップデートは業界に大きな打撃を与え、現代でもこの問題は解決していません。
現代のアプリ広告において、100%の測定は不可能です。かといってiOSの広告を出稿しないわけにもいきません。現代においてアプリ広告の監督者には、数値を仮説から想定検証し、全体最適を行うというスキルが求められています。アプリ内の全体数値からCVRなどを試算し、測定が可能な10%のユーザーから各広告ごとの効果を試算する。こういったスキルが求められるようになります。すべての数値が取得できるweb商材と比較すると、その難易度は桁違いでしょう。