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【世界のムーブメント】メキシコのサステナブルシーフード・イベントに行ってきた
みなさま、こんにちは。
株式会社シーフードレガシー 代表取締役CEO 花岡和佳男です。
いま世界では、サステナブルシーフードを水産流通の主流としていこうと、各地で盛り上がりを見せています。メキシコも、そのホットスポットの一つ。
今回は、そのフラッグシップ・イベントとして、2024年2月15ー17日にメキシコシティで開催された「4th Latin American Sustainable Fisheries and Aquaculture Summit(LASFAS)」に参加し、私もメインパネルセッションに登壇してきました。
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1. メキシコのサステナブルシーフード・サミット:LASFAS
LASFASは、Comepescaという現地のNGOが中心となり、中南米におけるサステナブルな漁業・養殖業の促進を目的に、2019年から開催されているフラッグシップ・イベントで今年が4回目の開催。シーフードレガシーが東京で年次開催する東京サステナブルシーフード・サミット(TSSS)の中南米版と言ったところ。なおComepescaとシーフードレガシーは、定期的に戦略会議を行い、お互いのサミットで登壇し合うなどして、連携を深める仲です。
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LASFAS2024①:キートピック
3日間にわたる今年のプログラムのキートピックは、「食料安全保障」、「違法漁業対策」、そして「マーケット」の3本。プライベートブランド・オーナー組織の担当者達がそれぞれの戦略を熱弁し、”ロックスター”シェフ達がお互いの思想や発信力を称え合い、果てには、オーディエンスがマイクを奪って議論に参加しだすなど、セッションはどれもライブ感に満ち溢れていました。
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LASFAS2024②:メインパネル
私が登壇したメインパネルのテーマは、「非競争連携」について。シーフードレガシーが日本で運営する企業プラットフォームと、NGOプラットフォームを紹介し、金融エンゲージメントや政策エンゲージメントと合わせて、その進捗や成果を業界や社会に発信する機会であるTSSSについて説明しました。明確な優先順位の共有と透明性および相互性の追求が非競争連携に不可欠として締めました。
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また、日本が欧米に次いで世界で三番目に大きな水産輸入市場であり、中南米諸国が大量の水産物を輸出する巨大市場であることにも触れました。
日本を単なる縮小市場と見るのではなく、サステナブルシーフードの成長市場として捉えること、そしてそこから来る環境持続性や社会的責任を追求する要求に対応できるよう体制の強化を急ぐことを、中南米の皆さんに提案しました。
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LASFAS2024③:ネットワーキング
レセプションやネットワーキングディナーでは、墨日(メキシコと日本)間における水産貿易を手がける大手日本商社の現地法人CEOを数年前まで勤められた現地の方や、日本発祥の活け締め技術を中南米の生産現場に広げ商品価値向上に取り組まれている方など、多くの方々とつながり、面白い話もたくさん聞けて大変有意義でした。それにしてもみんなカラッと明るい。
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2. メキシコの水産事情
今回、現地の方々とお話して得られた情報から、メキシコの水産事情を市場面と生産面に分けて整理しました。
まずメキシコでは、国内生産の水産物の約8割が米国市場等に輸出され、国内で消費する水産物の約8割が中国等から輸入されているそうです。現地の人曰く「簡単に言うと、良質な品が出ていき、安価な品が入ってくる形」。
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メキシコの水産事情①:市場面
ウォルマートやコストコ系列のスーパーが国内の7割強を占め、消費者は無自覚に環境持続性や社会的責任に配慮した水産物を消費しているとのこと。とはいえ、魚食の歴史はまだ浅く、魚の選び方や料理の仕方を知らない市民が大部分。また、サルサを多用するメキシコ料理には魚の良さを活かしにくい。その結果、市民が水産物を好きになる機会がなく、消費量が上がらないということでした。
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驚いたのですが、複数の現地の方が「メキシコでは夜に水産物を食べない」とおっしゃっていました。
理由は、「夜に魚を食べると腹を下すと言われている」とのこと。日本で「夜に爪を切ると親の死に目に遭えない」という言い伝えと似た感じでしょうか。確かに会場近所のタコス屋でも、夜は肉類のタコスはメニューに載っていたけど、水産物のタコスは姿を消していたような…
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メキシコの水産事情②:生産面
米国市場に水産物を提供する生産者の多くは、その市場へアクセスするため、環境持続性を担保する認証を取得したり、それに向けた改善計画を実施しており、その規模は急拡大中。
背景に見えるのは、米国市場における戦争侵攻国であるロシアからの水産物輸入の禁止や、人権侵害の関与リスクの高い中国からの水産物輸入への慎重な姿勢。メキシコにとってはチャンスですね。
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一方で、地産地消や有機生産にこだわるスローフードの流れを汲む水産物生産者達は、国内需要が増えない現状を課題として、持続可能で良質な国産水産物の国内市場を拡大すべく活動しています。
これを主導するのが、今回のイベントLASFASを主催したComepescaです。代表一家は、トラウト養殖の生産者でもあり、アボカド生産に拠る森林伐採からの山の生態系回復に努める活動家でもあります。
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3. メキシコと日本のムーブメント比較
最後に、今回のパネルディスカッションやネットワーキングを通じて見えた、両国におけるサステナブルシーフード・ムーブメントの共通点や相違点について記します。
今回私は、両者がそれぞれの環境に適したムーブメントの建て方がなされていることを再確認しました。そして、その経験を共有しあうことで、お互いのムーブメント・オーケストレーションがより強靭で国際規模として発展していることに感銘を受けました。
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墨日ムーブメント比較①:バイイング・パワーの有無
環境持続性や社会的責任の追求を参入条件とする米国市場を相手にするメキシコの生産者には、改善にモチベーションやインセンティブがついてきます。一方で、そのような参入条件がほぼない日本市場を相手とする日本の生産者には、改善を後押しする力がついてきません。これは、私達が日本でマーケット・トランスフォーメーションに注力する戦略的理由の一つです。
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墨日ムーブメント比較②:政府による規制・管理の有無
メキシコで活動する複数のNGOが「良くも悪くも政府が機能しない。これを直すより、自由度の高さを戦略的に活用する」と言う通り、メキシコのムーブメントでは、政府による規制や管理を鼻から当てにしていない様子です。非競争連携の基盤であるルールの確立や改善を活動の主軸とする日本とは、ムーブメントの走らせ方が根本的に違うことを感じさせました。
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墨日ムーブメント比較③:既得権益やしがらみの影響力の差
既得権益やしがらみはどちらにも存在しますが、メキシコではとにかく皆さんの言葉が強いことが印象的でした。所属組織や関連組織に配慮するがあまり歯切れ悪くなってしまう日本とは大きく違います。
日本でも、企業が社員に自分の思いを、自分の言葉で言い切らせる自信や安心を提供できれば、ムーブメントはさらに加速力を増すかも知れませんね。
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4. まとめ
現地の水産ビジネスパーソンから「本当に日本企業はサステナビリティの追求に本気なのか?そう言う話は耳に入ってくるようになったけど、見せかけだけじゃないのか?」と聞かれるシーンがありました。
私からは「今は偽物と本物が振り分けられる時。本気のところと付き合ってほしい」と伝えました。
サステナブルシーフードの主流化に向け、生産国と市場国の連携強化が進むことに、希望の灯りを見てきました。
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おまけ
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