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【海鳥繁殖地探訪】トカラ列島南部、オオミズナギドリの楽園?-上ノ根島・小宝島-

シリーズ「海鳥繁殖地探訪」 vol.1
突如始まりましたこちらのシリーズ。ただのバードウォッチャーの私が、見に行ったことのある海鳥の繁殖地を紹介します。
私は研究者でも、鳥類標識調査員でもありませんので、非常に残念ながら海鳥の繁殖地に足を踏み入れることはほとんどかないません…。そのため、主に海上から繁殖地を眺めるだけですが、それでもなにか伝えられることがあるはず…!と思い、シリーズを始めることにしました。

繁殖地を間近に見ると、とてもワクワクします!(2024/6/29)

どうぞお付き合いください🐥!!


海鳥と繁殖地

海鳥とは、一生のほとんどを海上で暮らす鳥のことです。ペンギン類やアホウドリ類、ミズナギドリ類、ウミツバメ類、ウミスズメ類が代表的な種群です。
そんな海鳥たちが年に一回(もしくは数年に一回)陸上を訪れる時期があります。それは、繁殖期です。海での生活に適応したあまり、陸上での歩行が苦手だったり、離着陸が大変だったり…、陸上での生活が得意とはいえない彼らですが、子育てのためにはどうしても陸に降り立つ必要があります。
このシリーズでは、海鳥はどんな場所で子育てしているのか?そこではどんな種類が繁殖しているのか?どんな危機があるのか?公開されている資料をもとに、実際に見た感想も交えつつ紹介していきたいと思います。

モニタリングサイト1000とは

今回取り上げる上ノ根島と小宝小島を含むトカラ列島の一部は、モニタリングサイト1000という環境省主導の継続的な調査の対象となっています。そのため、今回は実際に見てきた状況と合わせて、モニタリングサイト1000の報告書を主要な軸として、記事を進めていきたいと思います。

モニタリングサイト1000とは‐ 全国に1,000か所以上の調査サイトを設置し、100年以上モニタリングを継続することで、基礎的な環境情報の収集を長期にわたって継続して、日本の自然環境の質的・量的な劣化を早期に把握することを目的としています。

環境省-モニタリングサイト1000HP

上ノ根島

トカラ列島南部に位置する島で、多数のオオミズナギドリが繁殖することが知られています。モニタリングサイト1000の調査地の一つとして定められており、数年に一度、上ノ根島に上陸して海鳥の繁殖・生息状況の調査が行われています。

東側から横当島(左)と上ノ根島(右)を望む(2024/6/29)

上ノ根島‐ 宝島の南南西約 40km に位置し、南北約1km、東西約 500m、最高標高 280m、面積約 0.5 ㎢の 無人島である。上部植生は主に照葉樹林で、北側斜面はスゲ類の草地であ る。周囲は崖に囲まれており、上陸可能な地点は少ない。オオミズナギドリの繁殖記録があり (十島村誌編集委員会 1995)、2007 年の調査で大規模な繁殖地があることが明らかになった。

環境省-2021年度モニタリングサイト1000小島嶼(海鳥)調査報告書


上ノ根島近景、北側から島を望む(2024/6/29)

オオミズナギドリは、外周の崖部を除くスゲ草地や樹林林床で繁殖しているそうです。上の写真の島中央から下部にみられる比較的薄い緑色部分がスゲ主体の草地、島上部に見られる比較的濃い緑色部分が樹林です。
推定総巣穴数は24,000巣にものぼるそうです!🎉

上ノ根島周辺で観察したオオミズナギドリの群れ(2024/6/29)

私が訪れた日には、夕方から日没頃まで、上ノ根島の周辺にとどまり、観察を行いました。
17時頃に上ノ根島近くに到着した際には、島の周りを飛んでいるオオミズナギドリはパラパラとまとまりなく数百羽くらい…。しかし、時間が経つにつれ、どこからともなくオオミズナギドリが増えてきて、18時半頃には数千羽規模のオオミズナギドリの帯が島を取り囲むように、海面に降りたり飛んだりするようになりました。島に近づいてきたオオミズナギドリたちは、帰巣のためなのでしょうか、水面から100m以上までクルクルと旋回上昇していました。繁殖地の周辺でしか見られないこのような景色に、感動しきりでした。
日没後は、上ノ根の島陰で船上焼肉をしてそのまま船上泊となりました。時々遠くにオオミズナギドリの声を聞きながら、船の上で過ごす時間は、とても贅沢なものでした。

上ノ根島を背景に飛ぶオオミズナギドリ(2024/6/29)

小宝小島

トカラ列島南部の有人島、小宝島のすぐ東側にある'小島'という名前の小島です笑。それほど大規模ではないものの、オオミズナギドリが繁殖することが知られています。上ノ根島と同様に、モニタリングサイト1000の調査地の一つとして定められています。

北東側から島を望む。左手前が小島、右奥が小宝島。(2024/6/30)

宝島の北東約 16km に位置し、直径約 600m、最高標高 56m、面積約 0.3 ㎢の無人島である。 北部の高台上は平坦な草地であり、一部がビロウ群落となっている。高台周囲の低地はビロウ とアダン混じりの照葉樹林に覆われる。オオミズナギドリが繁殖する(筒井 1954)。

環境省-2021年度モニタリングサイト1000小島嶼(海鳥)調査報告書

この日は海がやや荒れ模様だったことから、船中泊のためには日没までに約15km南西側にある宝島の島陰まで移動しなければなりませんでした。そのため、日没頃に帰ってくるオオミズナギドリを島の周りで待つことはできませんでした。

小島近景、北側から島を望む(2024/6/30)

上ノ根島よりも植生がある部分が少なく、ゴツゴツした感じが印象的でした。
調査のために上陸するのは大変そうですね。
上の写真では、島の頂上付近に木々が見えると思いますが、ここがビロウ林となっています。また、今回は波の入る向きが悪く、島の南側を見ることができなかったのですが、この南側斜面もアダンやビロウを中心とした林となっていて、中心部は踏査が難しいほどの密林になっているとのことです。
その林床でオオミズナギドリが繁殖しており、2017年の調査では、49個の巣穴が確認されました🎉

小島近くの岩礁ではカツオドリの群れも観察しました(2024/6/30)

心配される外来種の影響

モニタリングサイト1000の報告書によると、上ノ根島には外来種としてノヤギとクマネズミが、小島にはノヤギが侵入しており、影響が懸念されています。
ノヤギは植生を破壊し、オオミズナギドリが繁殖する斜面の土壌が流出してしまう可能性があります。
クマネズミは、世界中の海鳥繁殖地で、卵や雛、時には成鳥に対する食害が問題となっており、大きな影響を及ぼしています。上ノ根島も例外ではなく、食害されたオオミズナギドリの卵の殻が見つかっています。
これらの外来種に対して、今後除去もしくは低密度に保つような取り組みがなされることが望まれます。
また、上ノ根島及び小宝小島は釣りのスポットでもあります。釣船から釣り人の方々が上陸する際には、更なるクマネズミの侵入を許してしまう恐れがあります。上陸の際には、船や持ち物にネズミがいないかの確認を徹底する必要があるかもしれません…。

海外で海鳥繁殖地を訪れるツアーを実施する客船では、ネズミ類の侵入を決して許さぬよう、徹底した対策が行われている。ネズミ類の客船への侵入確認/捕殺のためのトラップ。(2024/4/12)

毎年、上ノ根島や小島に帰ってくるオオミズナギドリが、無事に命を繋いでいけるように、私達には何ができるのでしょうか…🐥

日本鳥学会からは、国に対して海鳥繁殖地での外来種防除に関する要望書が提出されていますが、今のところ要望書に対するアクションはないようです。要望書の中では、①海鳥繁殖島嶼での継続的なモニタリング、②外来哺乳類の根絶及び侵入防止対策の実施の必要性、重要性が訴えられています。

海鳥の集団繁殖地における外来哺乳類対策を求める要望書について
会員からの要請に基づき、鳥類保護委員会は2024年5月10日付で環境大臣、文化庁長官、海鳥繁殖島嶼が所在する都道府県知事へ、以下の意見書を提出しました。

一般社団法人日本鳥学会-鳥類保護委員会

まずはバードウォッチャーや地元方々、ひいては鳥に全く関係のない方々までもを巻き込んで、海鳥の繁殖地で起きている外来種問題を知っていくこと必要だと思われます。

陸上で上手く動くことのできない海鳥は、外敵の少ない離島で繁殖していることが多いです。そのような生態から、外来種に対しては非常に脆弱です。
このシリーズを通して、海鳥繁殖地の素晴らしさ、そしてそれらが直面している問題について、考えるキッカケを見つけて頂けると嬉しいです🐥

最後の夜は小宝島の島影で、おやすみなさい(2024/6/30)

引用文献
環境省(2018)平成 29 年度 モニタリングサイト 1000 海鳥調査報告書
環境省(2022)2021 年度 モニタリングサイト 1000 小島嶼(海鳥)調査報告書

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のいまん
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